フィリピンで会社を設立し従業員を雇用する際、必ず理解しておかなければならないのが13th Month Pay(13か月目給与)です。日本のボーナスと混同されることが多いのですが、両者は性質がまったく異なります。本記事では、制度の背景から計算方法、税務処理、実務上の注意点まで、順を追って解説します。
13か月目給与とは
13th Month Payとは、1年間に働いた従業員に対し、通常の月給とは別にもう1か月分の給与を支払う制度です。Presidential Decree No. 851(大統領令851号)によって義務付けられた法的義務であり、会社の業績や経営判断に関わらず、必ず支払わなければなりません。
この制度が生まれたのは1975年、マルコス政権下のことです。当時のフィリピンでは急速なインフレによって労働者の実質賃金が目減りし、最低賃金だけでは生活費を賄えない状況が広がっていました。フィリピンではクリスマスが一年で最も重要な行事であり、食事や贈り物、帰省費用など、年末に向けて多くの出費が集中します。通常の給与だけではその費用を捻出できない労働者が多かったことから、政府が「年末の生活費を補填する」という社会保障的な意味合いで義務化したのがこの制度です。
建前としては以上のような趣旨ですが、実態としては、毎月の給与をほぼ使い切ってしまうフィリピン人が大半で、年末に向けた計画的な貯蓄が難しいという背景があります。月給の一部を強制的に年末まで「積み立てる」形で支給するという側面が強く、従業員にとっては「もらって当然の給与の一部」という感覚です。
任意の賞与(Bonus)との違い
ここが日本人の経営者・担当者が最も誤解しやすいポイントです。日本でいう「ボーナス」は、会社の業績や個人の成績に連動して支給額が変わる、あるいは支給の有無自体が変わる「報奨金」の性格を持ちます。一方、フィリピンの13th Month Payはまったく異なります。会社が赤字でも支払い義務があり、個人の業績評価とも無関係に、勤務実績に応じた金額が法律上の権利として発生します。
これとは別に、Performance BonusやChristmas Bonusといった任意の賞与を設ける企業も多くあります。こちらは会社が福利厚生やインセンティブとして独自に定めるものであり、雇用契約書や就業規則に明記しない限り支払い義務は生じません。フィリピンでは13th Month Pay(義務)と任意の賞与(任意)を明確に区別して運用することが求められます。
支給対象者
法律上、13th Month Payの支給対象はRank-and-File Employees(非管理職の一般従業員)です。正社員・契約社員・試用期間中を問わず、暦年(1月1日〜12月31日)の間に少なくとも1か月以上勤務した従業員であれば、誰でも受け取る権利があります。
法律の文言上、Managerial Employees(管理監督職)は強制適用の対象外とされており、一般的にはSupervisor以上のポジションがこれに該当します。法的には管理職への支給義務はありません。ただし、実務上は管理職にも支給している企業がほとんどです。一般社員には支給して管理職には支給しないとなると社内の公平感が損なわれ、優秀な人材の離職リスクにつながりかねないためです。自社の就業規則や雇用契約書にどのように規定されているか、改めて確認しておくことをお勧めします。
計算方法
基本の計算式
計算方法はシンプルで、その従業員が暦年(1月〜12月)に受け取ったBasic Salary(基本給)の合計額を12で割った金額が13th Month Payとなります。欠勤や無給休暇がなく満額の給与を受け取っていた従業員であれば、ちょうど月給1か月分と一致します。
ただし、「基本給1か月分」と単純に覚えると誤りが生じやすいので注意が必要です。年の途中で入社・退職した場合や、昇給があった月がある場合は、在籍期間中の基本給合計を12で割って算出する必要があります。法定より多く支給すること自体は問題ありませんので、計算を簡略化するために月末時点の月給1か月分を支給する方法も認められています。
計算に含まれないもの
計算の基礎となるのは基本給のみです。以下の項目は原則として計算に含める必要はありません。
- Allowances(諸手当):住居手当・交通費・通信費など
- Overtime Pay(残業代)
- Night Shift Differential(夜間勤務手当)
- Holiday Pay(休日手当)
- 未消化休暇の買取分など
ただし、就業規則や長年の慣行(Company Practice)によってこれらを含めて計算してきた場合は、Non-diminution of Benefits(既得利益の不減額原則)の観点から、変更することが困難になります。過去の支給実績がどのような計算基準で行われてきたか、今一度確認しておく価値があります。
年の途中で入社・退職した場合(按分計算)
年の途中に入社・退職した場合は、在籍期間に応じた按分(Pro-rated)で支給します。「12月時点で在籍している従業員にのみ支払う」という日本のボーナスのようなルールは適用できません。3か月だけ勤務して退職した従業員に対しても、その3か月分の基本給に対応する13th Month Payの支払い義務があります。
計算例として、月額基本給₱20,000の従業員が1月から3月の3か月間勤務して退職した場合を示します。
- 年間の基本給合計:₱20,000 × 3か月 = ₱60,000
- 13か月目給与:₱60,000 ÷ 12 = ₱5,000
退職時は、未払い給与や有給休暇の買取分などとともに、この按分計算した13th Month Payを Final Pay(退職時精算金)の一部として支払います。
税務上の取り扱い
13th Month Payは、任意の賞与などと合算して年間₱90,000までが非課税となります。₱90,000を超えた部分については通常の給与所得と合算され、所得税の課税対象となります。
この₱90,000の非課税枠は、13th Month Payだけに充てられる枠ではありません。Performance BonusやChristmas Bonusといった任意の賞与、未消化休暇の買取分(年間12日超の部分)なども同じ枠を共有します。複数の手当を支給している場合は合計額に注意が必要で、源泉徴収の計算を誤らないよう管理することが求められます。
支給タイミング
法律上、13th Month Payは12月24日までに支払わなければなりません。多くの企業では、11月末または12月中旬(15日前後)の給与支給日に合わせて支払うのが一般的です。
全額を12月にまとめて支払うのが通例ですが、法律上は年2回に分割して支払うことも認められています。フィリピンでは6月が伝統的な新学期の時期(現在は8月開始の学校も多いですが)であり、学費などの出費が重なります。半額を6月に、残りをクリスマス前に支給する方法は、従業員から歓迎されることもあります。
実務上の留意点
DOLEへの報告義務
雇用主は13th Month Payの支給完了後、翌年の1月15日までにDOLE(Department of Labor and Employment:労働雇用省)へCompliance Report(コンプライアンスレポート)を提出する義務があります。近年はオンラインでの提出が一般的ですが、忘れるとコンプライアンス違反となります。支給後すぐにカレンダーへ登録しておくことをお勧めします。
キャッシュフローの事前手当て
12月は通常の給与に加えて13th Month Payが発生するため、単純計算で人件費のキャッシュアウトが2倍になります。さらにクリスマスパーティーの費用なども重なりやすい時期です。数か月前からキャッシュフローを計画し、会計上は早めに引当金を計上しておくと、年末に慌てずに済みます。
任意賞与の期待値管理
13th Month Payは法律上の「権利」であり、支給することに対して従業員から感謝される類のものではありません。一方、従業員の多くはこれとは別に、任意のクリスマスボーナスも期待しています。業績が好調な年に賞与を多く支給すると、その金額が翌年以降の期待値として定着しやすく、後になって減額したときのモチベーション低下を招くリスクがあります。長期的な視点での賞与水準の設定と、早い段階での従業員への説明が、労務管理上の重要なポイントです。
おわりに
13th Month Payは、フィリピンの従業員が一年を通じて最も心待ちにしている収入です。家族へのプレゼント、帰省費用、借金の返済——用途は様々ですが、それだけ重要な位置づけの制度だということです。計算ミスや支給遅れは従業員のモチベーションを大きく損ない、DOLEへの通報といった労使トラブルに直結しかねません。
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