会計期間とは
会計期間(Accounting Period)とは、企業が財務諸表を作成し、税務申告を行う基準となる1年間の区切りのことです。フィリピンでは、原則として12ヶ月を1事業年度として設定します。
会計期間は、会社設立時にSECへ提出する附属定款(By-Laws)に記載するものであり、実質的にSEC登記の時点で確定します。その後、BIRへの税務登録においても同じ会計期間が登録されます。一見すると単純な設定事項に思えますが、後から変更する際には相応の手続きが伴うため、法人設立前の段階でしっかりと検討しておくべき重要な項目です。
支店・駐在員事務所の場合は選択の余地がない
フィリピンに進出する形態として、支店(Branch Office)や駐在員事務所(Representative Office)を選択する場合、会計期間については独自に選択する余地がありません。
支店および駐在員事務所は、法的にはフィリピン国内に独立した法人格を持たず、本店(日本の親会社)の延長として位置づけられます。そのため、本店が採用している会計期間がそのままフィリピン拠点にも適用されます。たとえば、日本本社が4月1日から翌3月31日の3月決算を採用している場合、フィリピン支店も同じ4月1日〜3月31日を事業年度として申告しなければなりません。
フィリピンでは多くの企業が暦年(1月〜12月)を採用しているため、3月決算や9月決算といった日本企業特有の会計期間を持つ支店の場合、申告期限のスケジュール管理や外部監査のアレンジに若干の配慮が必要となります。この点は、法人設立形態を検討する際のひとつの考慮事項といえるでしょう。
会計期間と税務申告スケジュールの関係
会計期間の設定は、その後の税務申告スケジュール全体に直結します。
フィリピンでは、四半期法人税申告書(Quarterly Income Tax Return)の提出期限が四半期終了から60日後、年次法人税申告書(Annual Income Tax Return)は会計年度終了から105日以内とされています。例えば12月決算の会社であれば、6月に終了する四半期の四半期法人税申告書が8月29日、年次法人税申告書は翌年4月15日が期限となります。異なる決算期の会社であれば、それぞれの四半期と年次終了からカウントすることになり、会計期間によって申告期限が異なります。
法人税申告以外の税金についても同様で、それぞれの月・四半期・年次終了のタイミングからカウントして期限が設けられます。12月決算企業が大半のフィリピンでは、BIRを中心とした各機関から発信される情報が12月決算企業を前提としています。そのため、異なる決算期の会社は、それを自社の決算期に置き換えて管理する必要があります。
一点、注意が必要なのが給与計算です。フィリピンでは、給与にかかる源泉徴収税(Withholding Tax on Compensation)の年末調整は、暦年(1月〜12月)をベースに処理することがBIRによって定められています。そのため、法人の会計期間が財務年度であっても、給与計算・年末調整の処理は暦年ベースで行われる点に注意が必要です。会計期間と給与処理の基準年が異なるケースでは、社内の経理管理において混乱が生じやすいため、運用ルールを明確にしておくことが重要です。
会計期間を変更する場合
一度設定した会計期間を変更することは不可能ではありませんが、相応の手続きが必要です。
まず、BIRに対して会計期間の変更申請を行い、承認を受ける必要があります。この際、独立した公認会計士(Independent Certified Public Accountant)による意見書の提出が求められる場合があります。変更の理由について合理性を示すことが求められるため、単なる利便性の理由だけでは認められないこともあります。
変更が承認された場合、旧会計期間の終了日から新会計期間の開始日までの間に、通常12ヶ月に満たない移行期間(Short Period)が発生します。このShort Periodについても、通常の事業年度と同様に税務申告・納税が必要となります。さらに、Short Periodの財務諸表についても独立した公認会計士による監査(Short Period Audit)が求められるため、外部監査のコストと時間が追加で発生することを念頭に置いておく必要があります。
これらの手続きの煩雑さを考えると、会計期間は設立前の段階で十分に検討し、慎重に決定することが実務上の鉄則です。
会計期間を決める際の実務上のポイント
会計期間を選択する際には、以下の点を総合的に検討することが推奨されます。
日本本社・グループ会社との整合性
現地法人(株式会社)として設立する場合でも、日本本社との連結決算や月次レポーティングのタイミングを考慮し、本社と同じ会計期間を採用するケースは少なくありません。管理コストの観点から、グループ全体で会計期間を統一することには一定のメリットがあります。
逆に、あえて日本本社の決算月よりも少し前倒しし、連結に取り込む際の時間的余裕を設けるケースも少なくありません。例えば日本本社が3月決算の場合に、フィリピン現地法人を12月決算と設定し、3ヶ月遅れで日本本社の連結に取り込むといった具合です。
なお、本社とフィリピン拠点の間でレポーティングや資料のやり取りをする際、「FY2026」「2026年度」といった年度表記の解釈がずれるケースがあるため注意が必要です。日本人ビジネスパーソンの感覚では、3月決算企業における「FY2026」や「2026年度」は2026年4月〜2027年3月(開始年基準)を指すのが一般的です。一方、フィリピン人スタッフは同じ表記を2025年4月〜2026年3月(終了年基準)と解釈するケースも多く、認識のすれ違いが生じやすい点です。こうした誤解を防ぐため、社内外のコミュニケーションでは「FY ending March 2027(2026年4月〜2027年3月)」のように、終了月・終了年と具体的な期間を明示する表現を使うことをお勧めします。
委託先の繁忙期の集中
フィリピンでは、多くの会計事務所・監査法人が暦年決算の対応に集中する傾向があります。そのため、暦年以外の財務年度を採用する場合は、外部監査や税務申告サポートを依頼する先の対応能力について、事前に確認しておくことが賢明です。
変更の手間を前提に、最初から慎重に決める
前述のとおり、会計期間の変更にはBIRへの申請、監査意見書の取得、Short Periodの申告・監査が伴います。設立後に「やはり変更したい」となった場合のコストは決して小さくありません。設立前の段階で、できる限り将来を見越した選択をすることが重要です。
おわりに
会計期間は、法人設立の手続きの中で見落とされがちな設定事項ですが、税務申告スケジュール・外部監査・給与処理・グループ内報告など、経営管理の多くの側面に影響を与える事項です。特に、支店・駐在員事務所として進出する場合は本店の会計期間がそのまま適用されるため、その前提を踏まえた実務設計が必要となります。
フィリピンでの法人設立や会計期間の選択についてご不明な点がございましたら、当社までお気軽にご相談ください。