はじめに

これまでの4回で、フィリピンのBIR税務調査の流れと期限(第1回)、平時の備え(第2回)、日系企業が指摘されやすい項目(第3回)、そして調査が始まってからの対応と交渉(第4回)を扱ってきました。

本記事は、税務調査シリーズの最終回です。テーマは「調査が終わった後」です。終結書類を取得して一連の対応が完了したら、それで終わりにするのではなく、今回の経験と反省を糧として、次回以降の調査に備えることが何より大切です。フィリピンでは、一度調査を受けた企業が再び対象になることは珍しくありません。だからこそ、終わった後の取り組みが、次の調査の結果を左右します。

まずは調査を振り返る

調査が終結したら、最初にすべきは振り返りです。今回、何を指摘されたのか。そして、なぜ指摘されたのか。この「なぜ」を掘り下げることが出発点になります。

指摘の根本原因が、どこにあったのかを整理してみてください。担当者の知識不足だったのか、チェックの仕組みがなかったのか、そもそも制度を誤解していたのか。原因によって、打つべき手は変わります。

例えば、家賃の支払いに対する拡大源泉税(EWT)が漏れていたのであれば、それは「家賃が源泉徴収の対象である」という知識が担当者になかったことが原因かもしれません。あるいは、受け取ったInvoiceの記載不備に気づかず仕入VATを否認されたのであれば、Invoice受領時のチェックが仕組みとして回っていなかったことが原因と考えられます。このように、同じ「指摘」でも背後にある原因はさまざまです。第3回で取り上げた源泉徴収の漏れ、証憑の不備、申告書間の不一致といった項目は、いずれも日系企業に共通して起こりやすいものですので、自社がどの論点でなぜつまずいたのかを、具体的に棚卸しすることを推奨します。

指摘された事項を正しく是正する

振り返りで原因を特定したら、次は是正です。調査で確定した誤りを、今後の申告や会計処理で恒久的に直していきます。

ここで注意したいのは、過年度の誤った処理方法を、そのまま引きずらないことです。一度指摘された論点について処理を改めないままでいると、翌年以降も同じ箇所で指摘を受けることになります。例えば、ある経費の源泉徴収漏れを指摘されたのに、翌期も同じ取引で源泉徴収をしないまま処理を続けてしまえば、次の調査でまた同じ指摘を受け、加算税や利息まで上乗せされてしまいます。実際、同じ誤りが複数年にわたって繰り返されているケースは少なくありません。今回の指摘を機に、誤った処理の根を断つという意識で臨むことが大切です。具体的には、指摘された処理について社内のマニュアルや仕訳ルールを更新し、担当者が変わっても同じ誤りが起きないようにしておくとよいでしょう。

再発防止 — 経理体制を見直す

第2回で、平時の備えこそが最大の防御だとお伝えしました。税務調査を一度経験した会社は、その備えを具体的に見直す機会を得たとも言えます。

自社経理でも外注でも、見落としは起こり得る

経理を自社の担当者に任せていて指摘が多かった場合は、知識やチェック体制の見直しが必要かもしれません。一方で、経理をアウトソースしているにもかかわらず指摘が多かった、という場合も同様です。委託先の品質や、委託している業務の範囲を改めて確認すべきサインと考えられます。

第2回・第4回でも触れたとおり、記帳や申告の代行を委託していても、税務調査への対応はその範囲に含まれていないのが一般的です。例えば、月次の記帳と申告書の作成・提出だけを委託している場合、委託先は渡された資料をもとに申告を作成するのが役割であって、源泉徴収の判断や証憑の妥当性の確認まで踏み込んでチェックしてくれるとは限りません。「任せているはずなのに指摘された」という場合、そもそも委託範囲がどこまでだったのかを、契約に立ち返って確認することをおすすめします。

監査法人と契約していても、税務は別であるという理解

ここで、よくある誤解について触れておきます。「監査法人と契約しているのに指摘された」「監査法人は何も助けてくれなかった」という声を聞くことがあります。

しかし、これは業務範囲の理解に行き違いがあるケースがほとんどです。監査法人との契約は、原則として法定の会計監査(財務諸表監査)に限られます。財務諸表が会計基準に従って適正に作成されているかを監査するのが業務であり、税務申告の正確性そのものや、税務調査への対応について責任を負うものではありません。会計監査と税務は、似ているようで別の領域です。監査を受けているからといって、税務上の指摘を受けないわけではない、という点は押さえておく必要があります。

通知への対応ルールと、本社との連携

社内の体制面では、第2回・第4回で触れたルールを改めて定着させ、必要に応じて見直してください。eLA(税務調査開始通知)を受け取ったらただちにマネジメントへ連絡する、対応窓口を一本化する、要求された以外の書類は提出しない、といった基本です。

加えて、本社との連携も重要です。第4回でも触れたとおり、現地の担当者や駐在員が冷静に対応していても、フィリピンの事情を知らない日本本社が動揺し、駐在員が板挟みになるケースは少なくありません。例えば、NOD(不一致通知)で年間売上を超えるような高額が提示された段階で、その金額だけが本社に伝わると、「なぜそんな事態になったのか」と本社が過剰に反応し、現地が交渉に集中できなくなることがあります。NODの金額はあくまで交渉の出発点であって最終的な負担額ではない、という第4回で述べた前提を、平時から本社とも共有しておくことが、いざというときの無用な混乱を防ぎます。本シリーズを本社との認識合わせにお役立ていただくのも一案です。

軽減・和解という選択肢について

ペナルティや税額の負担をめぐっては、Compromise Settlement(和解による減額)という制度が存在します。内国歳入法(NIRC)第204条に基づくもので、査定の正当性に疑義がある場合や、納税者に支払能力がない場合などに、BIRの承認を前提として、本税を含めて減額したうえで和解できる仕組みです。最低限の和解額の目安として、疑義のある案件では本税の40%、支払能力がない案件では本税の10%といった基準が定められており、一定額を超える場合などはBIRの評価委員会(Evaluation Board)の承認が必要になります。

ここで一点、紛らわしい用語の違いを整理しておきます。この「Compromise Settlement(和解)」は、第1回で触れた「Compromise Penalty(コンプロマイズ・ペナルティ)」とは別のものです。Compromise Penaltyは、刑事訴追に代えて支払う罰金的な性質のもので、納税者が負担する金額です。一方のCompromise Settlementは、税額やペナルティそのものを減額して決着させる和解の制度を指します。名称が似ているため混同されがちですが、意味するところは異なります。

もっとも、こうした制度はあくまで選択肢の一つであり、必ず認められるとは限りません。手続きや要件の詳細に深入りするよりも、本記事の本筋である是正と再発防止に力を注ぐことのほうが、長い目で見れば有効です。具体的な活用を検討する場合は、専門家に相談することをおすすめします。

おわりに

全5回にわたって、フィリピンのBIR税務調査を取り上げてきました。第1回で調査の流れと厳しい期限を、第2回で平時の備えを、第3回で指摘されやすい項目を、第4回で調査が始まってからの対応と交渉を、そして本記事で調査後の是正と再発防止を解説しました。

このシリーズを通じてお伝えしてきたのは、税務調査は「平時の備え」「適切な対応」「事後の是正と再発防止」という一連のサイクルだということです。今回の調査で受けた指摘を糧に体制を立て直せば、次の調査では、容易には追徴されない会社になれます。終わった後の取り組みこそが、最も確実な次への備えです。

当社では、フィリピンの会計・税務に精通したスタッフが、日々の記帳・申告から、税務調査の対応、そして調査後の体制づくりまで、日系企業の実務を一貫してサポートしています。税務調査の経験を次に活かす体制づくりにご関心のある方は、お気軽にご相談ください。

税務調査解説シリーズ

※本記事は執筆時点の法令・BIR通達および実務に基づいて作成しています。税率・手続き・期限は改正されることがあるため、最新情報はBIR公式サイトまたは専門家にご確認ください。