BIRは2026年8月24日付で Revenue Memorandum Order(RMO)No. 22-2026 を発行し、税務調査の運用ルール一本化に関する詳細を公開しました。調査対象の選び方から、eLAの発行、資料提出、案件の進行管理までが1つの通達にまとまっています。納税者の側から押さえておきたいのは、BIRがどのデータを使って調査先を絞り込むのか、そして通知を受け取った直後の10日間に何をするのか、という2点です。
調査対象の選定基準
調査案件は、Mandatory Cases(必ず調査に付される案件)と Priority Cases(システムが選ぶ案件)に分かれます。前者は還付・税額控除の申請や一定のTax Clearance(納税証明)の申請など、調査を経なければ手続きが先に進まない案件が中心です。後者は申告書、第三者情報、BIR内部のデータをもとに、システムがリスクの高い納税者を抽出します。
Priority Cases の選定基準として、次のような例が挙げられています。
- 売上やVAT納付額が大幅に減少している
- 仕入VATが売上VATの75%を超えている
- 法人税額が売上の2%に満たない
- 相応の売上がありながら純損失を計上している
- VAT登録が必要な売上規模なのに Percentage Tax(事業税)を申告している
- 設立から5年を超え、一度も調査を受けていない
- 収益の大半を親会社・関連会社から得ている、またはグループ内で費用を配賦している
- 前年より資産が50%以上増えているのに純損失を計上している
日系企業の場合、親会社との取引や費用配賦を理由に該当してしまうことがあります。ただし、基準に当たることと申告に誤りがあることは別で、BIRが優先順位を決める材料にすぎない、と受け止めるのが実態に近いところです。なお、税制優遇を受けている企業は Mandatory Cases に列挙されていますが、それだけで自動的に調査対象になるわけではなく、リスク評価を経てeLAが発行される建て付けになっています。
eLAを受け取ったら確認すること
調査や検証は、有効な eLA(Electronic Letter of Authority、電子調査権限書)、TVN(Tax Verification Notice)または Mission Order に基づく場合に限って行えます。これらのない調査は、権限のないものとして扱われます。通知を受け取ったら、対象年度、対象税目、担当の Revenue Officer と Group Supervisor の氏名、要求資料、提出期限を最初に確認してください。
同じ課税年度については、原則としてすべての税目を1つのeLAにまとめる扱いです。同一年度で複数のeLAが出ている場合や、eLAに書かれていない年度・税目の資料を求められた場合は、その場で応じる前に範囲を確認する余地があります。調査そのものは、eLAの発行日から180日(大口納税者は240日)以内に報告書をまとめる建て付けですが、この期限を過ぎたからといって査定が無効になるわけではありません。
資料提出と調査場所の選び方
eLAには、標準の要求資料リストに加えて、調査場所と代理人に関する同意書が添付されます。この同意書で、資料をBIRの事務所に持ち込むか、自社の事業所で調査を受けるかを選べます。資料が大量で、社外に持ち出すと業務が回らなくなる場合は、自社で受ける選択肢を検討する価値があります。提出する資料は写しで足り、真正である旨を証明したものであれば受け付けられます。原本は、内容の確認のために提示を求められることがあります。
提出期限は10暦日です。応じない場合は First Notice が発行され、その受領からさらに10暦日以内に提出しなければ Second and Final Notice に進みます。それでも提出がなければ Subpoena Duces Tecum(資料提出命令)の発行が検討され、これにも従わない場合は刑事手続きに進む流れが定められています。命令が出た後は、調査場所を選ぶ余地はなくなります。
とはいえ、10暦日ですべてをそろえるのは簡単ではありません。要求資料を「すぐ出せるもの」「所在の確認が必要なもの」「そもそも存在しないもの」に仕分けし、期限内に出せる分を先に提出したうえで、残りの提出時期を担当官と調整するのが現実的な進め方です。提出日、提出物、受領者の記録は必ず残してください。受付や現地スタッフが通知を受け取ったまま止めてしまう例もあるため、その日のうちに社内の責任者と会計事務所へ回す体制を先に決めておくと、初動の遅れを防げます。調査が始まった後の対応については、「フィリピンの税務調査④:税務調査対応と交渉のポイント」でも解説しています。
おわりに
RMO No. 22-2026 によって、BIRは申告データと第三者情報を使ったリスクベースの選定を、これまでより明確に打ち出しました。平時にできる備えとしては、BIRからの通知を誰に回すのか、申告書と帳簿を誰が保管しているのかを決めておくことに尽きます。実際に通知を受けた場合は、調査範囲と期限を確認したうえで、社内外の窓口を早めに一本化してください。初動の対応に迷う場合は、弊社にお気軽にご相談ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別案件に関する税務・法務上の助言ではありません。実際の対応にあたっては、最新の法令・通達および個別事情をご確認ください。