フィリピン固有の実務として、日本からの進出企業が最初に戸惑いやすいのが「法定の会計帳簿(Books of Accounts)」とBIR認定の「請求書・領収書(Invoice / Receipt)」の取り扱いです。どちらも法人設立時のBIR登録時に種類を選択して事前登録する必要があり、日常の業務効率に直結します。本記事では、それぞれの制度の概要と選択肢ごとの特徴、そして企業タイプ別の組み合わせ例をまとめます。
法定の会計帳簿とは
フィリピンでは、会社が使用する会計帳簿をあらかじめBIRに登録し、公式な会計帳簿として認定を受けることが義務付けられています。日々の取引をその帳簿に記帳し、会計年度終了後にBIRへ提出することが求められます。BIRへの事前登録なしに会計帳簿を作成・使用することは禁じられており、例えば会計システムをそのまま帳簿として利用することも、建前としては認められていません。
初回の登録はSEC登記後のBIR登録時に行います。その際に帳簿の種類を選択し、後から変更する場合は改めてBIRに申請・事前登録が必要です。
会計帳簿の種類
法定の会計帳簿には、以下の3種類があります。
- ①Manual Books of Accounts(手書き式会計帳簿)
- ②Looseleaf Books of Accounts(ルーズリーフ式会計帳簿)
- ③Computerized Books of Accounts(コンピュータ式会計帳簿、通称CBA)
なお③CBAには発展形としてComputerized Accounting System(コンピュータ式会計システム、通称CAS)もあり、詳細は後述します。制度上のデフォルトは①手書き式で、②・③はそのアップグレード版として位置付けられています。ただし「最初は必ず手書き式からスタートしなければならない」と誤解している方も多くいますが、初期登録時点から②・③を選択することも可能です。
①手書き式会計帳簿
文房具店で購入できる既製の帳簿(冊子)をBIRに持参してスタンプをもらい、日々の取引を手書きで記帳する方式です。初期コストは帳簿代のみで全部合わせても数百ペソ程度、登録手続きも簡単という点がメリットです。
ただしデメリットは明らかで、すべて手書きのため膨大な作業量が避けられず、結局はデータでも別途管理せざるを得ません。法人設立直後の一時的な対応や取引がほとんどない段階ならともかく、それ以外の場合は②か③を選択するべきです。弊社では①手書き式会計帳簿はあまりにも非効率なため、お客様からご要望があっても受け付けていません。

②ルーズリーフ式会計帳簿
ExcelでデータとしてしてまとめたものをBIR指定の形式で印刷・製本して提出する方式です。BIR登録時に各帳簿の形式を提示して承認を受け、会計年度終了後にその形式で印刷・製本した帳簿を提出します。近年は実際の提出はオンライン(ORUSシステム)で行いますが、製本までの手続きは引き続き必要です。
なおルーズリーフ式は建前上「Excelで日々の記帳を行う」ことが前提で、会計システムの使用は禁止されています。ただし実務上は、会計システムで記帳したデータをExcelにエクスポートして提出しているケースが大半です(会計システムは使用していないことになっている、という建前)。BIRが不定期にオフィスの抜き打ち検査(Tax Mapping)を実施することがあり、その際に会計システムの使用が発覚するとペナルティの対象となるため、注意が必要です。
メリットは手書きを回避できることによる作業効率の改善で、取引規模が大きくなるほど効果が増します。デメリットは、会計年度終了後の提出期限が15日以内(暦年決算であれば翌年1月15日)と非常にタイトであること、製本の手間とコストが発生することです。
③コンピュータ式会計帳簿(CBA)/コンピュータ式会計システム(CAS)
会計帳簿の作成から提出まで、すべて会計システム上でデジタル完結させる方式です。BIR登録時に使用する会計システムの仕様書や帳簿レイアウトなどを提出して承認を受ける必要があり、BIRが定める要件を満たした会計システムでなければ登録できません。
CASはCBAの上位互換に相当し、CASに登録することで会計帳簿のデジタル提出だけでなく、BIR認定の請求書・領収書を会計システムから直接発行することも可能になります。手書き式・ルーズリーフ式と異なり、請求書をPDFで送付するだけで完結するため、取引件数が多い会社ほど業務時間の削減効果が大きく出ます。BIR Form 2307(源泉徴収票)も会計システムから作成・発行できる点も実務上の大きなメリットです。提出期限は30日以内(暦年決算であれば翌年1月30日)で、ルーズリーフ式より余裕があります。
一方でデメリットとして、CAS登録の要件を満たす会計システムが限られることが挙げられます。フィリピンでも普及しているQuickBooks・Xero・MYOBは原則として登録不可であり、これらを使用している会社はCAS登録ができません(会計システムの変更が必要)。また初期登録の手続きが煩雑なため、システム会社や専門家のサポートが不可欠です。
なお、Large Taxpayer(大規模納税者)等を対象にCAS登録が義務化されており、その対象範囲は段階的に拡大しています。いずれはあらゆる企業にCAS登録が強制される可能性が高いことを踏まえると、要件を満たせる環境にある会社は早めに対応しておくことも一つの判断です。CASの詳細についてはこちらの記事でご紹介しています。
各会計帳簿の比較表
| 比較項目 | Manual Books (手書き式会計帳簿) | Looseleaf Books (ルーズリーフ式会計帳簿) | Computerized Books (コンピュータ式会計帳簿) |
|---|---|---|---|
| 記帳方法 | 手書き | Excel ※実際は会計システム | 会計システム |
| 初期コスト | 冊子の帳簿代 ※数百ペソ | 特になし | 登録手続き委託費 ※数万ペソ(自社対応不可) |
| 提出する会計帳簿 | 冊子の会計帳簿 | 印刷&製本した会計帳簿 | 会計帳簿データ |
| 提出期限 | 15日以内 | 30日以内 | |
| 提出コスト | 特になし | 印刷&製本代、USB代 ※数千~数万ペソ/年程度 | USB代 |
| 対応可能な会計システム | – | すべて可 | 限定的 |
| 法的な会計システム可否 | 不可 | 不可 | 可 |
| 対応可能な取引量 | 極小のみ | 小~大 | 小~大 |
BIR認定の請求書・領収書
フィリピンでは、BIR認定のInvoice(請求書)やReceipt(領収書)を販売時に発行することが義務付けられています。BIRに事前登録されたものだけが正規証憑として扱われ、会計システムやExcelで独自に作成した請求書は、特にVATの申告においては認められません。
初回の手続きはBIR登録時に行います。使用する請求書・領収書の種類を選択し、レイアウト案を提示してBIRからAuthority to Print(ATP、印刷許可)を取得したうえで、BIR認定の印刷所で印刷してもらいます。印刷された請求書・領収書は複写式の3枚綴りで、1枚目は顧客送付用、2枚目は自社保管用、3枚目はBIR提出用(通常は指示があるまで自社保管)となっています。請求書・領収書には自社のロゴ・会社名・TIN・住所などがあらかじめ印字された状態で納品されます。

請求書・領収書の種類
BIR認定の請求書・領収書にも、以下の4種類が存在します。
- ①Manual Invoice / Receipt(手書き式)
- ②Looseleaf Invoice / Receipt(ルーズリーフ式)
- ③Computerized Accounting System(CAS)
- ④CRM/POSレジ(小売業向け)
①手書き式請求書・領収書
買い手の情報や取引内容を手書きで記入する方式です。フィリピンでの生活経験がある方であれば、現地の店舗等で手書きの請求書を受け取ったことがあると思います。初期投資がほぼ不要ですぐ使い始められる点がメリットである一方、1件ごとに手書きが必要で非常に煩雑です。記入ミスが生じた場合は作り直しが原則で、同じ取引先であっても毎回記入しなければならないなど、デメリットが目立ちます。
②ルーズリーフ式請求書・領収書
ExcelなどでデータとしてまとめたものをBIR承認済みのフォーマットに印字する方式で、ドットプリンター(専用印刷機)が必要です。安いものであれば1〜2万ペソ程度で入手できます。必要情報をデータで管理できるため書き損じを防ぎ、作業効率も手書き式より向上します。ただし、ドットプリンターの置き場所の確保や、完成した請求書の原本を顧客に郵送する必要がある点は手書き式と変わりません。

③コンピュータ式会計システム(CAS)
前述のとおり、会社の会計システムをBIRに正式登録する方式です。CASに登録すれば、請求書・領収書を会計システムから発行してPDFで送付するだけで完結します。手書き式やルーズリーフ式と異なり、請求書や領収書を紙で作成したり、原本を顧客に郵送する必要はありません。
そのため、取引件数が多ければ多い会社ほど、日常の請求書や領収書に関連する業務の時間を削減する効果があります。また、実務上作成機会の非常に多いBIR Form 2307(源泉徴収票)も、会計システムから作成・発行でき、作成や郵送に要する手間を削減できます。
④CRM/POSレジ
スーパー・コンビニ・飲食店・美容室など、不特定多数の一般消費者を相手にする小売業が対象です。店舗で使用するCRM(Cash Register Machine、現金レジスター)またはPOS(Point of Sales、販売管理システム)の機器をBIRに申請し、Permit to Use(使用許可)を取得したもののみが使用できます。これらのレジから出力されるレシートも、①〜③と同様にBIR認定の請求書・領収書として扱われます。小売業の特性上、販売と現金受領が同時に発生するため、請求書と領収書を分けずにSales InvoiceやService Invoiceのみを発行するのが一般的です。領収書は顧客からリクエストがない限り、通常は発行されません。
各請求書・領収書方式の比較表
| 比較項目 | Manual (手書き式請求書・領収書) | Looseleaf (ルーズリーフ式請求書・領収書) | Computerized (コンピュータ式会計システム) |
|---|---|---|---|
| 記入方法 | 手書き | Excel & ドットプリンター | 会計システム |
| 初期コスト | 印刷代 | 印刷代 & ドットプリンター代 | CAS登録委託料 (システム会社 or 専門家) |
| 印刷の要否 | 必要 | 必要 | 不要 |
| 原本送付の要否 | 必要 | 必要 | 不要 |
| 作成工数 | 大 | 中 | 小 |
| 対応可能な会計システム | – | – | 限定的 |
| 対応可能な取引量 | 極小のみ | 小~中 | 小~大 |
※CRM/POSレジは小売店のみ該当するため、比較表からは除いています。
企業タイプ別の適切な組み合わせ
会計帳簿と請求書・領収書のいずれについても、どれが一概に優れているということはなく、各社の事業形態・取引量・人員規模に応じた選択が必要です。ただし①手書き式会計帳簿は非効率さが際立つため、早急に脱却すべきです。それ以外については、以下のパターン別の組み合わせを参考にしてください。
駐在員事務所の場合
売上が発生せず人員も限定的なため、取引量は少なめになります。会計帳簿は②ルーズリーフ式が妥当な選択です。請求書・領収書については、発行の機会がほぼないため①手書き式で十分です。なお厳密には請求書・領収書の準備が不要なケースもありますが、実務上は未準備だと税務署担当官からペナルティを指摘されることがあるため、最低限の冊数を用意しておくことを推奨します。
- 会計帳簿→②ルーズリーフ式会計帳簿
- 請求書・領収書→①手書き式請求書・領収書
グループ内オフショア拠点の現地法人の場合
グループ企業向けにサービスを提供する形態では、請求件数・支出件数ともに限定的です。会計帳簿は②ルーズリーフ式が妥当で、請求書・領収書も①手書き式で対応できます。ただし月10件を超えるようであれば、②ルーズリーフ式請求書・領収書への切り替えを検討する価値があります。
- 会計帳簿→②ルーズリーフ式会計帳簿
- 請求書・領収書→①手書き式(月5件超なら②ルーズリーフ式も検討)
フィリピン国内向け事業を行う現地法人の場合
取引件数が多い場合は③CAS(会計帳簿を包含)が有力な選択肢となります。使用中の会計システムがCAS登録の要件を満たしているか、または会計システムを変更できる状況であれば、業務効率の観点から③CASへの移行を推奨します。会計システムの制約から③が難しい場合や取引件数が少ない場合は、②ルーズリーフ式の組み合わせが現実的な選択です。
- 会計帳簿(取引件数中~大)→③CAS推奨だが、不可なら②ルーズリーフ式会計帳簿
- 会計帳簿(取引件数小)→②ルーズリーフ式会計帳簿
- 請求書・領収書(請求件数中~大)→③CAS推奨だが、不可なら②ルーズリーフ式請求書・領収書
- 請求書・領収書(請求件数小)→②ルーズリーフ式請求書・領収書
おわりに
会計帳簿と請求書・領収書の選択は、設立初期に一度決めれば終わりではなく、事業が拡大するにつれて見直しが必要になるテーマです。特に取引量が増えてきた段階でルーズリーフ式の限界を感じ始め、CAS移行を検討するケースが典型的なパターンです。弊社では会計帳簿・請求書の初期登録支援からCAS移行サポートまで対応していますので、ご不明な点はお気軽にご相談ください。