フィリピンで法人を設立するとき、「資本金はいくらにすればよいか」は必ず出てくる質問です。日本の感覚で最低限の金額を置くと、外資規制の要件を満たせなかったり、設立直後に運転資金が尽きて増資に走ることになります。判断の材料は、規制が求める最低額と、事業が軌道に乗るまでに必要な資金の2つです。改正会社法(Revised Corporation Code)の定める考え方から順に説明します。

3種類の資本金

フィリピンの改正会社法では、資本金が3種類に区分されています。「資本金」と一括りに話していると、SECや現地の会計士とのやり取りが噛み合わなくなります。

Authorized Capital(授権資本金)

定款で定めた、会社が発行を許可された株式の総額または株式数の上限です。すべてを発行する必要はなく、将来の資金調達に備えた発行枠として機能します。

気をつけたいのは、この枠を超えて増資する場合に定款変更とSECへの申請が必要になることです。承認まで数か月かかることもあり、資金が要るとなってから動いたのでは間に合いません。設立当初から将来の増資を見越し、余裕のある金額にしておくのが実務上の定石です。

ただし、授権資本金を大きくすればそのぶん設立時の費用も増えます。SECの登録手数料は授権資本金の0.2%を基準に計算され、Legal Research Feeが加算されます。さらに発行する株式の額面総額に対して0.75%の印紙税(Documentary Stamp Tax)がかかり、2025年7月の改正で1%から下がったとはいえ、額面₱5,000,000分を発行すれば₱37,500の負担です。金額として効くのは登録手数料よりこちらですので、現実的に必要な上限を見積もって枠を決めます。

Subscribed Capital(引受資本金)

株主が購入を引き受けた株式の総額です。会社が発行した株式のうち株主が割り当てを受けた部分を指し、払い込みが完了していない段階でも、引き受けに合意した時点で計上されます。払い込みが済んでいない株式には株券が発行されず、払い込みを遅らせる利点も特にないため、実務上は払込資本金と同額になることがほとんどです。

Paid-In Capital(払込資本金)

Paid-Up Capitalとも呼ばれ、株主が実際に会社へ払い込んだ金額です。運転資金や事業拡大の原資として会社に入る資金であり、外資規制の最低資本金要件の基準になるのもこの払込資本金です。設立の可否を左右するのは授権資本金ではなくこちらの数字です。

資本金設定時に留意すべきこと

資本金の設定は、法定の最低額をクリアすれば済む話ではありません。外資規制上の要件と、事業運営に必要な運転資金の2つの軸から検討します。

外資規制に伴う出資比率と最低払込資本金

外国資本が参入する際の規制は、業種ごとの出資比率の制限と、最低払込資本金額の要件です。

業種ごとの出資比率の制限

外国資本の出資比率は業種ごとに上限が定められています。代表的なものは次のとおりです。

規制対象の代表的な業種出資比率の上限備考
国内及び国外向け雇用斡旋25%
広告30%
土地保有40%
公共工事の建設・修繕40%政府資金による事業に限る。BOT法の対象事業と、国際競争入札を要する外国資金による事業は除く
公益事業の運営40%電力の送配電、石油パイプライン、上下水道、港湾、公共交通車両
教育機関40%正規の教育課程以外の短期能力開発事業は除く(日本向けオンライン英会話等)
マッサージ、サウナ等40%公衆衛生・公序良俗に悪影響を与えるものは除く

規制業種の詳細はForeign Investment Negative List(外国投資ネガティブリスト)にまとめられています。数年おきに更新され、執筆時点の最新版は2026年5月に発効した第13次リスト(Executive Order No. 113)です。ここに載っていない業種は、原則として外国資本100%で設立できます。

誤解が多いのが「公益事業」の範囲です。2022年の公共サービス法の改正で40%の上限がかかる範囲が上の表の事業に絞られ、通信・空港・鉄道・有料道路は外れました。通信は、相互に投資を認め合う国の資本なら100%まで、そうでなければ50%までとされています。古い一覧表には「通信は40%まで」と書かれたままのものがありますので、発行年を確かめてください。

建設業は、出資比率だけを見て判断できない業種です。ネガティブリスト上で40%の上限がかかるのは政府資金による公共工事であり、民間工事の請負そのものに比率の制限はありません。ただし建設業を営むにはPCAB(建設業者認定委員会)のライセンスが必要で、通年で使えるRegular Licenseは国内資本60%以上の会社に限るという運用が現在も続いています。外資系はプロジェクトごとのSpecial Licenseを取得する形になり、求められる純資産の水準も国内資本の会社より高く設定されています。最高裁がこの国籍要件を無効と判断した経緯はあるものの、実務上の扱いが変わったとまでは言えません。

最低払込資本金

満たすべき最低払込資本金は、事業形態によって異なります。

分類最低払込資本金備考
国外市場向け(輸出型)₱5,000売上・サービス提供の60%以上が国外向けの場合
国内市場向けUS$200,000売上・サービス提供の60%以上が国内向けの場合
小売(外資40%超)₱25,000,000飲食業も含む。この水準を満たせば外資100%も可能
小売(外資40%以下)規制無し飲食業も含む
国外市場向け支店₱5,000資本金ではなく初期送金額
国内市場向け支店US$200,000資本金ではなく初期送金額
駐在員事務所US$30,000資本金ではなく初期送金額

国内市場向けには、一定の要件を満たす場合にUS$100,000まで下がる例外もありますが、使える場面は限られます。

運転資金としての資本金

外資規制の要件を満たすだけでは足りません。設立直後は売上が立つまでに時間がかかる一方で、オフィスの保証金、人件費、就労ビザの費用、各種登録の手数料が先に出ていきます。これらを賄う運転資金は、親子ローンを用いる場合を除けば資本金が原資です。

設立前に、少なくとも6〜12か月分のキャッシュフロー計画を立てて金額を決めてください。後から積み増すこともできますが、そのたびに手続きと費用が発生します。

資本金の送金とBSPへの登録

日本の親会社から資本金を送金するときは、送金の記録を銀行から必ず受け取っておいてください。あわせて検討したいのが、Bangko Sentral ng Pilipinas(中央銀行)への外国投資の登録です。義務ではありませんが、登録しておくと配当や投資回収資金を海外へ送金する際の手続きが通りやすくなります。設立時に気に留めず、数年後の送金で書類を探し回る例が少なくありません。

増資の手続き

運転資金の不足や事業拡大への対応は増資で行います。手続きの重さは、授権資本金の枠内で行うか、枠そのものを変更するかで大きく変わります。

授権資本金枠内での増資

授権資本金に空き枠がある場合、その範囲内での増資は比較的簡単です。定款の変更は原則として不要で、取締役会の決議により未発行株式を発行できます。将来の増資が視野にあるなら、設立時に枠を厚めにしておく価値があります。この場合も新株には0.75%の印紙税がかかります。

授権資本金の変更を伴う増資

授権資本金の枠を超える増資では、株主総会の特別決議と定款の変更が必要です。定款変更に関して、従来はSECの承認に数か月かかるのが一般的でしたが、最近はSECのシステム化により大幅に短縮されています。

なお、この場合は増加後の授権資本金のうち25%以上が引き受けられ、その引受額の25%以上(最低₱5,000)が払い込まれていることが改正会社法上の要件です。設立時ではなく増資時に適用される点にご留意ください。

おわりに

資本金の設定は、外資規制をクリアしつつ事業の実態に合う金額を選ぶ作業です。最適な金額は業種や売上の向き先で変わりますので、事業計画が固まった段階で一度整理しておくことをお勧めします。設立手続きの流れとあわせて見ると、資金を用意すべき時期も見えてきます。

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