フィリピン進出の形態は大きく3つ

フィリピンへの進出を検討する際、まず直面するのが「どの形態で拠点を設けるか」という判断です。代表的な選択肢は、株式会社(現地法人)・支店・駐在員事務所の3つです。

この3形態は、よく横並びで比較されますが、「どれが優れているか」という問いに対して一概に答えることはできません。それぞれに特徴があり、自社が想定する事業内容・規模・将来計画によって、最適な選択肢が変わります。形態の選択は後から変更することが難しいため、最初の段階でしっかりと見極めることが重要です。

3形態の比較表

比較項目株式会社
(現地法人)
支店駐在員事務所
法人格の有無
※本店と同一法人格

※本店と同一法人格
販売活動の可否
収益あげる営業活動
不可
※情報収集や調査等のみに限定
設立の所要期間3~4か月程度3~5か月程度3~5か月程度
最低払込資本金額
(初期送金)
輸出型:5,000ペソ
国内型:20万USドル
外資40%以下:制限なし
輸出型:5,000ペソ
国内型:20万USドル
3万USドル
出資比率柔軟に設定可
※パートナー企業との合弁可
自動的に100%
※厳密には出資ではなく本店と同一法人格
自動的に100%
※厳密には出資ではなく本店と同一法人格
SEC法人登記
申請料
授権資本金の0.2%初期送金額の1%初期送金額の0.1%
式発行
印紙税
引受資本金の0.75%
預託証券不要市場価値50万ペソ以上の
有価証券の預託
※本店の財務状況により
追加で求められる場合あり
原則不要
※本店の財務状況により
求められる場合あり
設立時の審査対象株式会社(現地法人)本店本店
最終的な責任の所在株式会社(現地法人)本店本店
形態の切替不可不可支店への切換可
法定役員社長
秘書役(フィリピン国籍&居住者)
財務役(フィリピン居住者)
居住代理人
(フィリピン居住者)
居住代理人
(フィリピン居住者)
取締役数2~15名本店取締役本店取締役
意思決定機関株式会社(現地法人)本店
※日常的な運営管理事項は除く
本店
※日常的な運営管理事項は除く
税務申告の対象範囲原則すべて原則すべて一部免除あり
※現法・支店の70%程度の負担感
フィリピンでの
法人税課税
居住法人として
全世界所得に課税
フィリピン国内源泉所得に課税
本店所在地国での
法人税課税
課税
※フィリピンと本店所在地国で二重課税
※租税条約がある場合は外国税額控除可
本店所在地国での
損金算入
運転資金の
主な注入方法
資本金
親子ローン
本店からの送金
※柔軟に実施可
本店からの送金
※柔軟に実施可
本店への利益剰余金の
還流方法
配当金
※原則25%、日比租税条約適用時は10%
利益送金
※原則15%、日比租税条約適用時は10%

どの形態を選ぶべきか – 選択のポイント

3形態を横並びで検討したくなるのは自然なことですが、実務的な観点では、まず株式会社(現地法人)を軸に検討し、特定の条件に当てはまる場合にのみ他の形態を選ぶというアプローチが現実的です。以下の選択フローを参考にしてください。

まず確認すべき「販売活動を行うかどうか」

最初に判断すべきは、フィリピンで収益をあげる営業活動(すなわち販売活動)を行うかどうかです。販売活動を行う場合、駐在員事務所は選択肢から外れます。駐在員事務所で認められる活動は、情報収集やマーケット調査、委託先の品質管理、顧客と本店の間の連絡業務、商品の一時的な保管などに限定されており、直接の営業・販売行為は認められていません(詳細は日比租税条約第5条に規定)。

また、駐在員事務所から現地法人への形態変更は認められていないため、「まずは駐在員事務所で様子を見て、後から現地法人に切り替える」という選択肢はありません。将来的に販売活動を行う可能性が少しでもあるなら、最初から株式会社または支店を選択しておくことが重要です。

販売活動を行う場合 – 株式会社か支店か

販売活動を行う場合、選択肢は株式会社と支店の2択になります。ただし、支店には以下のようなデメリットが存在します。

  • 設立の難易度が最も高く、期間も要する傾向にある
  • 設立直後、時価500,000ペソ以上の証券をSecurities and Exchange Commission(証券取引委員会、以下SEC)に預託する必要がある
  • その後も、売上総利益10,000,000ペソごとに2%相当の証券をSECに預託する必要がある
  • 本店(親会社)の財務状況次第では、追加の預託が必要となる可能性がある
  • 預託可能な証券を取り扱う銀行は地場銀行に限定されるため、必然的に地場銀行の口座開設が求められる
  • SEC登記、銀行口座開設、その他重要な契約などの際、本店が審査対象となるため、本店の取締役決議書などが都度必要になる
  • 株式会社と比べて、税優遇やコンプライアンス負担の軽減などの特典は特にない

こうしたデメリットを踏まえてもなお、支店を選ぶ合理的な理由がある場合に限り、支店を選択することになります。代表的なケースとしては以下が挙げられます。

  • 法規制上、支店として出店しなければならない業種・業態である
  • 資金需要が旺盛で、本支店間で頻繁に資金移動する必要がある
  • 社内の決裁上、支店の方が承認を得やすい
  • 支店のオペレーションを、本店がコントロール・モニタリングする必要がある
  • 支店で十分な収益確保が見込めないため、本店で損失として取り込みたい

販売活動を行わない場合 – 駐在員事務所という選択肢

情報収集や市場調査、連絡業務など、収益を伴わない活動のみを想定している場合は、駐在員事務所が選択肢になります。会計税務コンプライアンスの負担が株式会社・支店と比べて軽減されるため(負担感のイメージとして約70%程度)、コスト面でのメリットがあります。

ただし、前述のとおり形態変更の制約が大きいため、「当初は調査目的だったが、事業化することになった」というケースでは、新たに株式会社を設立した上で駐在員事務所を閉鎖するという二重の手続きが発生します。将来の事業展開に少しでも可能性がある場合は、最初から株式会社を選んでおくほうが、長期的なコスト・手間の観点からも賢明です。

各形態の詳細解説

設立の所要期間・難易度

株式会社の場合、審査対象は新設法人そのものです。一方、支店・駐在員事務所の場合は本店が審査対象となります。そのため、本店の定款・登記簿・決算書をすべて英訳した上で提出しなければならず、日本での公証・アポスティーユ認証の取得も必須です。事前準備から時間を要する傾向があり、審査プロセスにも時間がかかることから、支店・駐在員事務所は設立の所要期間が長くなりがちです。

また「支店や駐在員事務所の方が簡易に設立できる」と思われることがありますが、実際はそうではありません。提出書類の数や調整の手間を考慮すると、むしろ難易度は高くなる傾向にあります。

設立後の維持運営コスト

設立後の維持運営コストは、株式会社と支店でほぼ同等です。会計税務コンプライアンスの観点でも、対応事項に差はほとんどありません。ただし、支店の場合は銀行口座開設や重要な契約の際に本店の取締役決議書等を都度求められる可能性があり、その点では株式会社よりも手続きが煩雑になりやすいです。

駐在員事務所は、VATをはじめとする一部の会計税務コンプライアンスが対応不要となるため、株式会社・支店と比べると負担は軽くなります。全体的なイメージとしては、株式会社・支店の負担を100%とすると、駐在員事務所では70%程度の感覚です。

形態を変更したい場合の注意点

3形態の中で形態変更が認められているのは、「駐在員事務所→支店」への切り替えのみです。それ以外の変更はできません。

たとえば駐在員事務所から株式会社に変更したい場合、まず株式会社を新設した後、別途駐在員事務所の閉鎖手続きを進めることになります。閉鎖手続きには一般的に1〜2年程度を要し、専門家に委託しなければ対応が難しい作業です。従業員が在籍している場合は、先に株式会社を設立して従業員を転籍させてから閉鎖手続きを進める必要があります。閉鎖手続き中も一定のコンプライアンス対応が求められるため、継続的なコストが発生する点も見落とせません。

駐在員事務所から支店への切り替えであれば、新設・閉鎖という二重の手続きは不要です。ただし、前述のとおり支店にはデメリットが多く、切り替え後も維持運営の負担は変わりません。どちらの経路にも一長一短があります。

繰り返しになりますが、将来的に販売活動を行う可能性が少しでもあるなら、最初から株式会社を設立しておくことが、長い目で見れば最も合理的な選択です。

拠点を設けない選択肢も

フィリピン進出の形態として上記3つが代表的ですが、事業内容や進出のタイミングによっては、拠点を設けないアプローチも十分に現実的な選択肢です。

出張ベースでの対応

フィリピンはビザ免除での滞在が30日間まで認められており、その後も観光ビザへの切り替えによる延長が可能です。また、一度出国すれば連続滞在日数がリセットされるため、他国に比べて滞在のハードルが低く、出張ベースで対応できる範囲も広いのが特徴です。

最大のメリットは、設立・維持管理・撤退のコストが一切発生しないため、投資リスクを最小限に抑えられる点です。市場調査段階やテスト販売の段階であれば、まずは出張ベースで事業の行く先を見極めてから、拠点設立を判断するというアプローチが取れます。BtoB事業であれば拠点なしでも販売活動は可能ですし、BtoCでもECプラットフォームを通じたスモールスタートが現実的な選択肢になります。

一方で注意すべき点もあります。フィリピンでの滞在が長期化すると、日本法人としてフィリピンにPermanent Establishment(恒久的施設、以下PE)が存在すると見なされるリスクがあります。その場合、フィリピンで得た所得に対してフィリピンでも法人税が課されることになり、日本とフィリピンの二重課税が生じる可能性があります。出張者個人についても、フィリピンで個人所得税の対象となる場合があります。日比租税条約に基づく外国税額控除の制度はありますが、実務上の対応は容易ではなく、国際税務に詳しい専門家への相談が不可欠です。

加えて、出張ベースの対応では、現地でのネットワーク構築やフィリピン市場への深い理解という点で限界があります。また、フィリピンに拠点があることを対外的に示せないため、信頼・ブランドイメージの構築という観点では不利になりやすいです。

代理店・フランチャイズ契約

現地企業や個人を販売代理店として指定し、自社の商品・サービスを販売してもらう代理店契約は、特にBtoB事業で活用される傾向にあります。信頼できるパートナーを確保できれば、迅速かつ低リスクでフィリピン市場に参入することができます。ただし、優良なパートナーの選定自体が難しく、コントロールが効きにくいという側面もあります。一定の手数料が発生するため、マージンが圧縮される点も考慮が必要です。

フランチャイズ契約は、現地パートナーにブランドやビジネスモデルを提供し、それに基づいて事業を運営してもらう仕組みで、飲食業や小売業などのBtoCビジネスで多く活用されています。フィリピンでは小売業が外資規制の対象となっており、資本金や店舗あたり投資額の要件が通常よりも高く設定されています。フランチャイズ契約によりフィリピン企業が運営会社となれば、外資規制を事実上回避できるため、スモールスタートが可能になります。フィリピンで展開する日系の飲食・小売業の多くが、このフランチャイズモデルを活用しています。

業務委託契約

特定の業務を現地企業や個人に委託する業務委託契約は、依頼内容が明確に定まっている場合に特に有効です。会計・税務・法務などの専門業務であれば、弊社のような専門家との間で業務委託契約を締結する形が一般的です。

また、有能なフィリピン在住人材を活用したいが、フィリピン拠点の設立まではコストが見合わないというケースでも、業務委託契約が選択肢になります。雇用関係ではないため、プロジェクト完了時に契約を終了させることも柔軟に行えます。ただし、業務委託契約の性質上、勤務時間や業務の進め方に対して具体的な指示を出すことはできません。また、他業務との兼務禁止など雇用に近い制約を設けることも、法的に有効とならない場合があります。

GEO(Global Employment Outsourcing)

近年、GEO(Global Employment Outsourcing)と呼ばれる手法も活用されるようになっています。GEOは、現地法人を設立せずに現地人材を雇用・管理するためのサービスで、GEOプロバイダーが法的な雇用主となり、給与支払いや税務処理、社会保険手続きなどを代行します。フィリピン拠点の設立を要しないため、業務委託契約と同様にコストとリスクを抑えて迅速に事業を開始できる点が魅力です。

ただし、GEOプロバイダーを介した雇用となるため、指示命令が機能しない場面が生じる可能性があります。プロバイダーのマージンが加算されるコスト面の問題に加え、労使問題が発生した場合の対処や法的な位置付けなど、実務上の不透明さも残ります。総合的に判断すると、法的な透明性が確保されている業務委託契約の方が、実務上は確実な選択肢といえます。

GEOについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

おわりに

進出形態の選択は、その後の事業運営・コスト・税務・撤退可能性に至るまで、広範囲にわたって影響を及ぼします。そして一度選択した形態を変更することは、多くの場合、容易ではありません。それだけに、進出前の段階で自社の事業計画を精査し、適切な形態を選んでおくことが重要です。

「どの形態が自社に合っているかわからない」「比較表を見てもなお判断が難しい」という場合は、お気軽に弊社までご相談ください。事業内容・規模・将来計画をヒアリングした上で、最適な進出形態のご提案をいたします。