フィリピンで事業を行うにあたり、経理業務をどのように担うかは、経営の安定性やコスト構造に直結する重要な判断です。大きく分けると「内製」(自社の経理担当者が対応する)と「外注」(専門機関に委託する)の2つの選択肢があります。本記事では、それぞれの特徴をコスト・品質・リスクなど多角的な観点から比較し、自社に合った選択の参考としていただけるよう解説します。

経理の「内製」とは

経理の内製とは、自社の従業員が経理業務を担う形態です。日本では総務・経理を兼任するケースも珍しくありませんが、フィリピンでは職務記述書(Job Description)に基づく分業制が一般的であり、経理は専門職として切り分けて採用するのが通常です。そのため、内製化にあたっては「経理担当者」として専任の人材を採用することが前提となります。

必要な人数は業種・業態によって異なりますが、従業員5〜10人規模の会社であれば1名、11〜30人規模であれば2名程度が目安です。それ以上の規模になると、ある程度は会社の成長に比例して経理人材の必要人数も増えていきます。

採用にあたって注意したいのは、経験の浅いスタッフだけでは経理業務を完結できないケースが多い点です。記帳・仕訳から決算対応・税務申告まで一通りをこなすには、相応のスキルと経験が求められます。そのため、まずはマネージャーまたは経験豊富なスーパーバイザーを優先的に採用し、業務量の増加に応じてスタッフを順次追加していくのが理想的な進め方です。

経理の「外注」とは

経理の外注とは、経理業務の一部または全部を外部の専門機関に委託する形態です。委託先は一般的に、会計事務所や経理代行(BPO)サービスを提供する専門企業となります。

外注を活用することで、経理人材を採用・育成・管理する必要がなくなり、外注先とのコミュニケーションに必要な最低限のリソースさえ確保できれば、経営者や管理部門は本業に集中できるようになります。立ち上げ直後で社内の経理体制が整っていない段階や、フィリピン特有の会計・税務実務に不慣れな時期においては、専門家のサポートを外部から得られる外注が特に有効です。

年間コストの比較

内製と外注のコストを、具体例を挙げながら比較します。内製の場合、経理スタッフ1名(スタッフレベル)とマネージャー1名の2パターンを想定しています。外注は当社のスタンダードプラン(株式会社向け)を基準としています。

比較項目内製
(スタッフ1名の場合)
内製
(マネージャー1名の場合)
外注
(Kamakuraの場合)
 基本給₱30,000/月₱100,000/月
 少額手当(De Minimis)₱3,000/月₱3,000/月
 社会保険料会社負担分₱2,500/月₱5,500/月
 住宅・交通等諸手当₱10,000/月₱20,000/月
 民間保険料(HMO)₱1,500/月₱1,500/月
 月額小計₱47,000/月₱130,000/月
年額換算₱564,000/年₱1,560,000/年
13カ月目給与₱30,000/年₱100,000/年
賞与(2か月分想定)₱60,000/年₱200,000/年
未使用有給買取₱10,000/年₱30,000/年
会社イベント
(アウティング・クリスマス等)
₱30,000/年₱30,000/年
研修・資格手当等₱10,000/年₱30,000/年
月額外注委託費
(株式会社のスタンダードプラン)
₱45,000/月
年額換算₱540,000/年
年間合計₱704,000/年₱1,950,000/年₱540,000/年

内製のコストは、採用する人材のレベルや給与水準によって大きく変動します。上記はあくまでも目安ですが、外注と比較した際のコスト感をつかむ参考としてください。

また、上記の内製コストには採用コストが含まれていない点に注意が必要です。人材エージェントを経由して採用する場合、初年度は年収の30%程度が別途必要になります。さらに退職リスクを考慮すると、その都度採用コスト・教育コスト(費用および投入時間)が繰り返し発生します。実態としての総コストは、表の数字よりも高くなることが少なくありません。

コスト以外の要素の比較

コストだけが判断基準ではありません。業務品質・専門性・リスク管理など、実務上重要な要素についても比較します。

比較項目内製外注
費用の性質× 固定費(正社員が前提)○ 変動費(柔軟に変更可能)
初期費用× 採用コスト、セットアップコスト○ 初期費用なし、又は少額
業務品質△ 担当者のレベルによる○ 一定程度が確保される
専門性△ 担当者のレベルによる○ 会計税務の専門家が対応
法改正や規制対応× 最新情報を入手できない恐れ○ 専門家が最新情報を入手し対応
日本語サポート× フィリピン人が英語で対応○ 日本人が日本語でサポート可
ノウハウの蓄積○ 社内にノウハウが蓄積× 社内にノウハウを蓄積できない
コミュニケーション・指示○ 内部のためやりやすい× 外部のため多少のハードルあり
業界独自の業務対応○ 対応可能△ 経験値次第では対応できない恐れ
会社独自の業務対応○ 対応可能× 原則は対応不可、又は追加料金
業務迅速化・決算早期化○ 会社方針で実施可能× 業務頻度が月単位、月次決算の作業日数として数営業日必要
業務の標準化× 会社独自の方法になりやすい○ ベストプラクティスによる標準化
退職時の対応× 引継ぎや後任確保が必要○ 外注先の対応事項
業務量変動時の柔軟性× 固定人員で対応のため柔軟性低い
× 業務過多 or 手持ち無沙汰発生
○ 外注先の対応事項
財務諸表の透明性
(経営成績・経営状態)
△ 担当者による
(ブラックボックス化の恐れ)
○ 透明性が高い
不正リスク△ 担当者・内部統制による
(理論上は不正行為可能)
○ 低い
(第三者目線で監視する効果も期待できる)

内製には「社内にノウハウが蓄積される」「指示がスムーズ」「会社独自の業務に対応できる」などの強みがあります。一方で外注は、専門性・透明性・リスク管理・柔軟性の面で優位に立ちます。どちらが有利かは、会社の規模・成長フェーズ・業務の複雑さによって変わります。

どちらを選ぶべきか – 弊社の見解

経理の内製と外注に「絶対的な正解」はありません。各社のポリシー・成長ステージ・規模・業種・業態・予算など、あらゆる要素を総合的に考慮して判断するものです。

ただし一般論として申し上げると、立ち上げ初期から従業員10人程度の規模までは、外注の方が有利に働くケースが多いです。その主な理由は、小規模であるほど変動要素が多く、経理人材を社員として抱えることのリスクが相対的に高くなるためです。具体的には以下のようなリスクが挙げられます。

  1. スキル不足リスク:採用した人材の能力が業務水準を満たさない可能性
  2. 業務量変動リスク:繁忙期は手が足りなくなる一方、閑散期は1人工にも満たない作業量となり手持ち無沙汰が生じる
  3. 退職リスク:退職のたびに採用コスト・教育コストが再発生する
  4. ブラックボックス化リスク:担当者1人に業務が集中し、経営者が内容を把握できなくなる
  5. 不正リスク:牽制機能が働きにくく、理論上は不正行為が可能な状態になる

さらに、1人で記帳から決算・税務申告まで対応できる人材となると、相応のスキルと経験が求められます。そのような優秀な人材を少人数の会社で雇用すると、業務量に対してオーバースペックとなりコスト高になりやすく、人材側も物足りなさを感じて早期退職に至るケースが実務上よく見られます。

こうした背景から、小規模の段階では経理業務を外注して社内をスリムに保ち、事業規模が拡大して複数の経理人材が必要となる段階で内製化を検討するのが妥当だと考えます。複数名体制になれば、上記のリスクの多くが自然と軽減されます。また、外注先が蓄積したデータや業務フローを引き継ぐことができるため、ゼロから内製化を進めるよりも移行がスムーズになる点もメリットです。

おわりに

経理の内製・外注の選択は、会社の成長フェーズや業務の実態に応じて、柔軟に見直していくことが大切です。「今の自社にとって最適な形は何か」を起点に判断することをお勧めします。

当社では、フィリピン現地法人向けの経理代行サービスを提供しており、特に小規模の会社様の経理業務を得意としています。内製・外注のどちらが自社に向いているか迷われている方も、まずはお気軽にご相談ください。