フィリピンの法人税は、2021年のCREATE法(Corporate Recovery and Tax Incentives for Enterprises Act)施行により税率が大幅に引き下げられ、現在は標準25%・中小企業向け20%という体系になっています。仕組み自体は日本の法人税と共通する部分も多いですが、MCIT(最低法人税)やNOLCO(繰越欠損金)、接待交際費の損金算入上限など、フィリピン固有の論点もあります。本記事では、法人税の基本から実務上の重要ポイントまでまとめます。

法人税の概要と税率

法人税は、法人の事業年度ごとの課税所得(Taxable Income)に対して課される税金です。課税所得に法人税率を乗じて税額を算出し、四半期ごとの暫定申告・納税と、事業年度末の確定申告という流れで処理します。

法人税概要

法人税は、法人の事業年度ごとの課税所得(Taxable Income)に対して課される税金です。課税所得に法人税率を乗じて算出し、四半期ごとに暫定申告・納税、事業年度末に確定申告を行います。

法人税率

2021年4月に施行されたCREATE法により、それまで30%だった標準法人税率が25%に引き下げられました。またMSEs(中小企業)の競争力確保を目的に、課税所得が500万ペソ以下かつ総資産が1億ペソ以下(土地除く)の法人には、軽減税率20%が適用されます。

なおPEZAやBOI等の投資優遇機関に登録した場合は、4〜7年のIncome Tax Holiday(ITH、法人税免除)を受け、その後Special Corporate Income Tax(SCIT、特別法人税)またはEnhanced Deduction Regime(EDR、追加控除制度)が適用される優遇税制の体系となっています。本記事ではこれらの登録のない一般的な企業を対象としているため、詳細は割愛します。

法人税の計算方法

法人税の計算方法

法人税は、まず課税所得を算出し、それに法人税率を乗じて税額を求めます。課税所得は、税務上の益金(おおむね売上に相当)から損金(おおむね費用に相当)を差し引いたものです。実務上は、会計上の税引前利益を出発点として、以下の4項目を加減算することで税務上の課税所得を求めます。

「売上と益金」「費用と損金」はそれぞれ似て非なる概念であり、その違いを正しく把握することが法人税計算の土台となります。

益金不算入(減算)

会計上は収益として計上するが、法人税の課税対象から除外されるものです。銀行預金の利息や配当金のように、支払時の源泉徴収(最終源泉税)により既に課税関係が完結しているもの、未実現為替差益などが該当します。これらは課税所得の計算にあたり、会計上の利益から減算します。

損金不算入(加算)

会計上は費用として計上するが、税務上の経費として認められないものです。罰金、証憑類の不備がある支出、接待交際費の限度超過額、未実現為替差損などが該当します。これらは課税所得の計算にあたり、会計上の利益に加算します。

益金算入(加算)

会計上は収益として計上していないが、税務上は収益として課税されるものです。発生機会は多くありませんが、税務調査において「本来収益に計上すべき取引が計上されていない」として、みなし収益の追加計上を求められるケースがあります。

損金算入(減算)

会計上は費用として計上していないが、税務上は経費として控除できるものです。後述するNOLCO(繰越欠損金)や、税務上認められた追加控除などが該当します。これらは課税所得の計算にあたり、会計上の利益から減算します。

法人税の申告・納税

四半期の申告・納税

法人税は各四半期末と事業年度末の合計4回、申告・納税の機会があります。四半期ごとの申告・納税期限は四半期終了から60日後です。例えば6月末で四半期が終了する場合、8月29日が期限となります。申告書式はBIR Form 1702Qを使用します。

第2四半期以降は期首からの累積数値を記載し、前四半期までの累積納税額を差し引く形で当四半期の納税額を確定します。税額確定後は、法人税の前払いに相当するEWT/CWT(拡大源泉税/控除可能源泉税)を税額控除したうえで、差額を実際に納税します。

年次の申告・納税

事業年度末の確定申告の期限は事業年度終了から3か月15日後です。12月決算の場合は翌年4月15日が期限となります。申告書式はBIR Form 1702(年次法人税申告書)を使用し、四半期同様にEWT/CWTの税額控除が可能です。

BIR Form 1702は法定会計監査の一環として監査法人のチェックを経たうえで提出します。監査済財務諸表(Audited Financial Statement)はBIR Form 1702の提出後15日以内にBIRへ電子提出(eAFS)し、その後所定の期限内にSECへも提出します。

その他知っておくべきポイント

EWT/CWT(拡大源泉税/控除可能源泉税)

Withholding Tax(源泉徴収税)は税金の「種類」ではなく、税金の「納付方法」です。通常は受取側が納税しますが、源泉徴収税は支払側が税額を天引きして受取側の代わりにBIRへ納付する仕組みです。

そのうちExpanded Withholding Tax / Creditable Withholding Tax(EWT/CWT、拡大源泉税/控除可能源泉税)は、オフィス家賃・専門家報酬をはじめとするBtoB取引全般に課される源泉税です。「拡大源泉税」という名称が一般的ですが、実態としては法人税の前払いであり、将来の法人税申告時に税額控除できることから「控除可能源泉税」という呼び方の方が制度の本質を正確に表しています。源泉徴収した税額は、原則として翌月10日まで、四半期終了月は翌月末までに納税します。

EWT/CWTはキャッシュフロー管理にも直結する重要な制度です。詳細は別記事「拡大源泉税/控除可能源泉税」をご参照ください。

MCIT(最低法人税)

フィリピン特有の制度として、Minimum Corporate Income Tax(MCIT、最低法人税)があります。課税所得が極端に少ない、またはマイナスの場合に、Gross Income(売上総利益)に2%を乗じた金額が最低法人税として算出されます。この金額が通常の計算による法人税額を上回る場合、MCITが優先して適用されます。

法人設立後3事業年度はMCITの適用対象外ですが、4事業年度目から適用が始まります。「赤字だから法人税はゼロ」と思い込んでいるケースがありますが、売上総利益(売上 − 原価)の水準次第ではMCITが課されるため注意が必要です。

なおMCITが発生した場合、翌期以降3年間繰り越し、将来の通常法人税額から税額控除することができます。黒字転換が見込まれる場合、最終的な追加税負担は生じないことになりますが、その期のキャッシュアウトは避けられません。

NOLCO(繰越欠損金)

課税所得がマイナスとなった場合、Net Operating Loss Carry Over(NOLCO、繰越欠損金)として翌期以降3年間繰り越し、将来の課税所得と相殺することができます。将来の課税所得が圧縮されることで、法人税額の抑制につながる制度です。フィリピンでは繰り越しは3年が上限で、繰り戻し還付は認められていません。

フィリピン法人の設立初期は支出が先行して赤字になるケースが多いですが、この制度を活用することで、黒字転換後の法人税負担を軽減することができます。

BIR Form 2307(源泉徴収票)

BIR Form 2307は、買い手/借り手がEWT/CWTを源泉徴収した際に、その証明として発行を義務付けられている源泉徴収票です。例えば月額Php100,000のオフィス家賃であれば、借り手がPhp5,000を源泉徴収してBIRに納税し、貸し手にBIR Form 2307を交付します。これを受け取った貸し手は、四半期・年次の法人税申告時に同額を税額控除できます。裏を返すと、BIR Form 2307を回収できなければ税額控除が利用できず、事実上の前払い納税が無駄になってしまいます。

発行義務は買い手/借り手にありますが、実際には自主的に発行してくれない相手も多く、地道なフォローアップが欠かせません。確実に回収したい場合は、売り手/貸し手側がBIR Form 2307を先にドラフトして、相手に署名だけ求める方法も実務上有効です。

Tax Effect(税効果会計)

Tax Effect(税効果会計)とは、会計と税務のズレ(一時差異)を調整し、会計上の利益に対応した適切な法人税額を損益計算書に表示するための会計処理です。専門性の高い領域ですが、経営層も概要は把握しておくことが望ましいです。フィリピンの実務では、以下のケースで一時差異が発生することが多く、将来の税金を減らす効果があるためDeferred Tax Asset(DTA、繰延税金資産)として計上できる場合があります。

  1. NOLCO(繰越欠損金):当期の赤字は将来の黒字と相殺して税金を減らせるため
  2. MCITの超過額:当期納付したMCITは将来の通常法人税から控除できるため
  3. 引当金:会計上は当期費用だが、税務上は実際に支払った時点で損金となるため

ただしDTAの計上には、将来十分な課税所得が見込まれることが前提です。恒常的な赤字が続く場合や回収可能性が不透明な場合は、DTAの計上が認められません。

接待交際費の損金算入限度額

フィリピンでも接待交際費の損金算入上限が設けられています。日本のように一定金額までは全額損金算入できる基礎枠はなく、売上規模に応じた比率で上限が決まります。

  • 物品販売業:純売上高の0.5%
  • サービス業:純収益の1.0%
  • 上記両方ある場合:売上比率に応じて按分
    ※純売上高や純収益は、割引や返品等を加味したもので、売上高と収益と同義と捉えていただいて概ね差支えありません。

例えば純売上高1億ペソの製造業であれば上限は50万ペソ、純収益2,000万ペソのコンサルティング会社であれば上限は20万ペソです。会食・接待ゴルフ・贈答品などの機会が多い会社では意外と早く上限に達します。超過分は損金算入が認められないため、計画的な管理が必要です。

接待交際費の損金算入の詳細については、こちらの記事で解説しています。

おわりに

法人税は申告・納税の機会が年4回あり、EWT/CWTの税額控除・MCITへの対応・接待交際費の管理など、日常の経理業務と密接に絡み合っています。仕組みを正確に理解したうえで適切に運用することが、余計なペナルティやコストを避けるうえで重要です。法人税に関するご相談は、弊社までお気軽にお問い合わせください。