はじめに
2026年6月17日、Court of Tax Appeals(租税裁判所、以下「CTA」)の特別第二部は、Watsons Personal Care Stores (Philippines), Inc.(以下「Watsons」)によるCWT(Creditable Withholding Tax:控除可能源泉税)の還付請求について、一部認容の判決を言い渡しました(CTA Case No. 11119)。
請求額の約4億5,335万ペソに対し、CTAは約4億4,711万ペソの還付をBIR(内国歳入庁)に命じています。本判決は、CWT還付に関わる実務上のいくつかの論点に触れており、フィリピンで還付を行う日系企業にとっても参考になります。なお、本判決はCTAの部(Division)レベルの判断であり、確定判決ではない点には留意が必要です。
事案の概要
Watsonsは、2020年度に生じた未利用CWTの還付を求めていました。Watsonsは2021年4月に2020年度のAITR(Annual Income Tax Return:年次法人所得税申告書)を提出し、過納付のうち約4億5,335万ペソを2020年度のCWTとして「還付」を選択しました。2022年12月にBIRへ行政上の還付請求を行いましたが、BIRが期限内に判断を示さなかったため、2023年4月、その不作為(inaction)を理由にCTAへ提訴しています。CIR(内国歳入庁長官)が却下通知を発したのは提訴後でした。
つまり本件は、「BIRによる却下への不服」ではなく、「BIRが判断を示さなかったこと」を理由とする提訴であった点が特徴です。
判決の要旨
CTAは、証憑によって裏付けられた部分について還付を認め、裏付けが不十分な一部を否認しました。CIRは「行政段階で書類が不十分なら司法請求も認められない」と主張しましたが、CTAはこれを退けています。判断の主なポイントは次のとおりです。
- CTAはde novo(新規)審理であること:行政段階で提出しなかった証拠も、CTAに改めて提出して立証できます。行政段階の証憑不足が、ただちに司法段階での請求を退ける理由にはなりません。
- 実際の納付(remittance)の立証は不要であること:源泉徴収した税をBIRへ納付する責任は源泉徴収義務者(payor)にあり、還付請求者にはありません。請求者は、BIR Form 2307(控除源泉税証明書)で「源泉徴収の事実」を示せば足ります。
- 一部否認の理由:否認された約624万ペソは、CWT還付の3要件のうち「対応する所得が総所得として申告されていること」を立証できなかった部分です。一部の売上が有効なSales Invoice(売上請求書)で裏付けられず、帳簿まで追跡できないと判断されました。
今後のビジネスに影響を与えるポイント
本判決で特に注目されるのは、CTAが電子的に作成・送付・署名されたBIR Form 2307を有効な証憑として認めた点です。
2020年はCOVID-19の影響下にあり、Watsonsには紙の原本ではなく電子的に受領した2307が含まれていました。CTAは、RA No. 8792(Electronic Commerce Act of 2000:電子商取引法)や電子証拠規則を根拠に、ICPA(独立公認会計士)の認証を経た電子版2307を有効と認めています。あわせて、BIR Form 2307がデジタル手段で送付されても、それだけを理由にCWTを否認しない旨を明確化したRMC No. 014-2025にも言及し、その考え方を本件にも適用しました。
2020年当時、BIRは電子版2307の有効性を正面から認める規則を出していませんでしたが、本判決と同通達を併せて見ると、「紙の原本でなければ還付が受けられない」という前提に必ずしも縛られない方向性が読み取れます。原本の保管が難しいケースも少なくないため、電子証憑を活用する事業者にとって参考になる判断です。
ただし、これは署名の形式を問わず無条件で有効という意味ではなく、重視されるのは後述の真正性の検証です。
実務上の留意点
第一に、本判決はCTAの部レベルの判断であり、上訴によって判断が変わる可能性があります。税率・手続き・通達は改正が多いため、最新の規則はBIR公式情報などでご確認ください。
第二に、証憑の真正性は、SAWT(源泉徴収義務者別の支払調書一覧)と、源泉徴収義務者が提出するBIR Form 1604E/1601Eに添付されたAlphalist(支払先一覧)との突合で検証されるのが実務上の流れです。データが一致すれば原本か否かの問題は実質的に解消されますが、逆に一致しなければ、形式が整っていても否認されるリスクがあります。
第三に、本件で一部が否認されたように、2307を揃えるだけでは不十分で、対応する所得が申告書・帳簿まで追跡できる状態になっていることが欠かせません。証憑と帳簿の整合性は、日頃の経理処理の段階から意識しておく必要があります。
おわりに
Watsons判決は、CWT還付をめぐる論点について納税者にとって参考になる判断を示した一例です。もっとも、還付の成否は最終的に、要件を満たしていることを「立証できるか」にかかっています。証憑の整理や帳簿との整合性は、還付請求の直前ではなく、日頃の準備が重要です。
CWT還付の手続きや、その前提となる証憑・帳簿の整備にお悩みの場合は、当社までお気軽にご相談ください。
参考資料 本判決の全文(PDF)はこちらからご確認いただけます。