フィリピン法人の自主的な解散方法の一つに、株主総会の決議に基づく解散があります。この方法では、SECへの解散申請にBIRタックスクリアランスが必要ですが、取得できれば、存続期間の満了を待たずにSECのCertificate of Dissolution(解散証明書)を取得できます。

2026年5月に発行されたRMC No. 47-2026により、一定の条件を満たす会社について、BIR登録抹消とタックスクリアランスの手続きが簡素化されました。ただし、すべての会社が3営業日で処理されるわけではなく、売上高・総資産の基準や税務調査の有無を個別に確認する必要があります。

この記事では、フィリピンの改正会社法第134条に基づく解散の要件と手続き、債権者への対応、存続期間の短縮との選び分けについて説明します。会社清算の全体像はシリーズ第1回「フィリピンの会社清算の流れ ①全体編、存続期間の短縮は第2回「フィリピンの会社清算の流れ ②存続期間の短縮」で整理しています。

債権者に影響がない場合の解散

改正会社法第134条は、解散によって債権者の権利を害さない場合の手続きを定めています。取締役会と株主総会で解散を決議し、SECへVerified Request for Dissolution(宣誓付き解散申請書)を提出すると、SECの審査を経て解散証明書が発行されます。

第134条の要件は「債権者が一人もいないこと」ではなく、「解散によって債権者の権利を害さないこと」です。買掛金、未払給与、親会社借入金などが残っているだけで、直ちに第134条を利用できなくなるわけではありません。ただし、債権者への支払いを完了するか、支払方法について合意し、解散後も債権者の権利が確実に保護される状態にする必要があります。

解散によって債権者の権利が害される場合は、改正会社法第135条の手続きになります。この場合は、発行済株式総数の3分の2以上の賛成による決議、全債権者を記載したVerified Petition for Dissolutionの提出、SECが発する命令の公告・掲示、30日から60日の異議申立期間などが必要です。異議申立てがあれば審理が行われるため、第134条より所要期間を予測しにくくなります。

債権者の権利に影響する可能性があるにもかかわらず、形式的に第134条を選択することはできません。債権・債務の状況を確認し、必要に応じて第135条や倒産法上の手続きを検討します。

存続期間の短縮との選び分け

株主総会決議による解散には、主に二つの利点があります。

一つ目は、SECから解散証明書が発行されることです。存続期間の短縮では、満了日の翌日に会社が自動的に解散するため、別途の解散証明書は発行されません。銀行や日本本社などへ解散を証明する場面では、解散証明書がある第134条のほうが説明しやすい場合があります。

二つ目は、将来の満了日を待つ必要がないことです。存続期間の短縮で、SEC申請時のBIRタックスクリアランス提出を避けるには、満了日をSEC承認時点から1年以上先に設定する区分を選びます。第134条では、タックスクリアランスを取得できれば、満了日を待たずにSECへ解散を申請できます。

一方、第134条ではBIRタックスクリアランスをSEC申請前に取得しなければなりません。 株主総会の準備、債権・債務の整理、BIRの登録抹消などは並行して進められますが、タックスクリアランスがなければSECへの解散申請を完了できません。したがって、二つの方法は次のように選び分けるのが良いと考えられます。

  • BIRタックスクリアランスを早期に取得できる見込みがある場合:第134条による解散
  • BIRの税務調査や未解決事項により取得時期が読めない場合:存続期間の短縮
  • SECの解散証明書が必要な場合:第134条による解散
  • 解散日を早い段階で確定し、BIR手続きを並行して進めたい場合:存続期間の短縮

所要期間をタックスクリアランスだけで判断するのではなく、希望する解散時期、債権者への対応、申請書類の準備状況、会社の維持費用も含めて比較します。

RMC No. 47-2026 をどう読むか

RMC No. 47-2026は、事業閉鎖に伴うBIR登録抹消とタックスクリアランスについて、簡素化された手続きを定めています。同通達では、Micro Taxpayerまたは次の規模基準に該当する納税者について、一定の条件を満たす場合、完全な書類提出や未納税額の支払いから3営業日以内にタックスクリアランスを発行する取扱いが示されています。

  • 前年度の売上が300万ペソ以下
  • 廃業時の総資産が800万ペソ以下

ただし、同じ通達の後段では、前年度の総売上高が300万ペソを超える場合、または廃業時の総資産が800万ペソを超える場合は、税務調査の完了後にタックスクリアランスを発行するとされています。そのため、例えば売上高は300万ペソ以下でも総資産が800万ペソを超える場合は、二つの記載が重なる可能性があります。

両方の基準を満たさない会社は、3営業日での処理を前提にせず、管轄RDOへ事前に取扱いを確認することが安全です。3営業日での処理には、少なくとも次の状態が必要です。

  • 必要書類が完全に提出されている
  • 未申告の税務申告書やOpen Caseがない
  • 未納税額やペナルティがない、または必要な支払いを完了している
  • 未解決のLetter of Authorityがない

すでにLetter of Authorityが発行されている場合は、会社の規模にかかわらず、原則として税務調査の終了後にタックスクリアランスが発行されます。

また、3営業日は事業停止日から数えるものではありません。必要書類を完全に提出し、未納税額などを解消した日が起点になります。資産を処分して総資産が800万ペソ以下になったという理由だけで簡素化手続きの適用を断定せず、売上高、既存の税務調査、Open Caseを含めて確認します。

前提となる債権債務の整理

第134条を利用するには、債権者の権利を害さない状態を作る必要があります。SECへの提出書類には、解散が債権者の利益を害さず、公告から申請までの間に債権者から異議が出ていないことを示すPresidentおよびTreasurerの宣誓供述書が含まれます。実務上は、次のような方法で債権者を保護します。

  • SEC申請前に債務を全額支払う
  • 支払日や支払方法について債権者と書面で合意する
  • 支払いに必要な資金を確保する
  • 必要に応じて担保や保証などの措置を講じる
  • 支払記録、合意書、債務残高などを一覧化する

日系子会社で見落とされやすいのが、親会社や関係会社への債務です。借入金だけでなく、長期間未払いとなっている仕入代金、ロイヤルティ、技術指導料、立替金なども会社の債務です。

関係会社債務の処理方法としては、返済、債務免除、株式への振替、追加払込資本への振替などが考えられます。ただし、債務免除益に対する課税、印紙税、資本取引に関するSEC手続きなどが生じる可能性があるため、会計処理だけで決定することはできません。資本の基本的な考え方は、フィリピンの資本金の概要とポイントも参照してください。

従業員に対する最終給与、13th Month Pay、未使用休暇、解雇手当なども、支払いが完了するまで会社の債務として残ります。取引先への未払金、賃貸物件の原状回復費用、専門家報酬、最終税額なども含め、決議とSEC申請の前に債務一覧を更新します。

決議と公告の要件

第134条による解散には、次の承認が必要です。

  • 取締役会における取締役の過半数の賛成
  • 株主総会における発行済株式総数の過半数の賛成

解散に関する議決には、通常は議決権を持たない種類株式も含まれます。存続期間の短縮が定款変更として3分の2以上の株主承認を必要とするのに対し、第134条による解散は過半数で足ります。

一般的な株式会社の場合、第134条による解散への反対だけを理由として、改正会社法第80条の株式買取請求権が当然に発生するものではありません。この点も、少数株主がいる会社における二つの方法の違いです。

株主総会については、会議の日時・場所と、解散の決議を目的とすることを、株主名簿上のすべての株主へ通知します。株主への通知は会議の少なくとも20日前までに行い、会議前に通知内容を新聞へ1回公告する必要があります。通知は本人への交付、書留郵便、または付属定款で認められた方法によって行います。新聞公告は、本店所在地で発行されている新聞、またはフィリピン国内で一般に流通する新聞に掲載します。

SEC申請では、公告を証明するPublisher’s Affidavitなどを提出します。通知や公告を行わずに株主総会を開催すると、決議またはSEC申請の有効性に影響するため、株主総会日から逆算して手配します。

また、内国歳入法第52条(C)は、会社が解散の決議または計画を採択してから30日以内に、その内容を記載した申告をBIRへ提出するよう定めています。タックスクリアランスをすでに取得している場合でも、株主総会の決議に伴うこの義務は別途確認します。

SECへの申請と解散証明書

存続期間の短縮はeAMENDの対象ですが、第134条による解散は現在のeAMEND対象手続きには含まれていません。SEC Memorandum Circular No. 5, Series of 2022では、会社の本店所在地を管轄するSECのCompany Registration and Monitoring DepartmentまたはExtension Officeへ申請することとされています。主な提出書類は次のとおりです。

  • Verified Request for Dissolution
  • 解散を承認し、申請担当者を指定する公証済みの取締役会決議またはDirectors’ Certificate
  • 株主への通知と株主総会決議に関する情報
  • 新聞公告を証明するPublisher’s Affidavit
  • 直近の提出期限が到来しているGeneral Information Sheet
  • 直近年度の監査済財務諸表または適用される代替書類
  • 解散が債権者の利益を害さず、債権者から異議がないことを示す宣誓供述書
  • BIRタックスクリアランス
  • 社内紛争が係属していないことを示すSecretary’s Certificate
  • 必要に応じて、業種別監督官庁の推薦書・クリアランス

Verified Request for Dissolutionには、会社名、SEC登録番号、本店住所、解散理由、株主への通知方法、解散を承認した取締役・株主、株主総会の日時・場所、公告内容などを記載します。申請後の提出方法や予約の要否は変更される可能性があるため、申請時点のSEC案内を確認します。SECが追加書類を求めた場合は、書類が完全に受理されるまで審査期間を見込む必要があります。

改正会社法第137条により、SECがVerified Requestを受領してから15日以内であれば、所定の要件に従って申請を撤回できます。撤回がなく、SECが申請を承認すると、Certificate of Dissolutionが発行されます。会社の解散は、株主総会の決議日やSECへの申請日ではなく、SECがCertificate of Dissolutionを発行した時点で効力を生じます。

改正会社法第134条には、申請受領後15日以内に撤回がなければSECが申請を承認し、解散証明書を発行する旨が定められています。ただし、提出書類の不備、追加照会、他の監督官庁のクリアランスなどがある場合に、申請開始から必ず15日で完了するという意味ではありません。実際の予定には、事前準備と不備対応の期間も含めます。

解散後の3年間

改正会社法第139条により、解散した会社は、解散の効力発生日から原則として3年間、清算目的に限って法人として存続します。通常事業を継続することはできませんが、債権回収、資産処分、債務弁済、訴訟対応、残余財産の分配などは行えます。

第134条による解散では、SEC申請前にBIRタックスクリアランスを取得しますが、解散後の作業が残余財産の分配だけになるとは限りません。LGUや社会保険機関の登録抹消、銀行口座の処理、契約終了、税務上の追加対応などが残る可能性があります。会社の資産は、債務を支払い、債権者の権利を保護した後でなければ株主へ分配できません。解散前に概算した残余財産と、最終的に株主へ分配できる金額が異なる場合もあります。

日本の親会社へ残余財産を送金する場合は、投資時の送金記録、BSP登録の有無、銀行が要求する解散・税務書類などを確認します。外国投資のBSP登録はすべての投資について一律に義務付けられているものではありませんが、フィリピンの銀行から購入する外貨で海外送金する際に必要となる場合があります。詳細はフィリピンのBSP登録|配当や資本金償還のために必要な手続きで説明しています。

おわりに

株主総会の決議による解散は、BIRタックスクリアランスを取得できれば、将来の満了日を待たずにSECの解散証明書を取得できる方法です。一方、タックスクリアランスの取得時期が読めない会社では、SEC手続きを先に進められる存続期間の短縮のほうが計画を立てやすい場合があります。

第134条を利用するうえで確認すべきなのは、債権者が一人もいないかではなく、債権者の権利を害さない状態を作れるかという点です。関係会社債務、従業員債務、賃貸借契約、最終税額などを一覧化し、支払いまたは保護措置を決めてから決議・公告・SEC申請へ進みます。

当社では、フィリピン事業からの撤退を検討する企業に対し、税務・会計面を中心とした論点整理や、必要な手続きの進め方に関するご相談を受けています。具体的な対応範囲は会社の登録・申告状況によって異なるため、現状を確認したうえでご案内します。

参考リンク(公的機関の一次情報)