フィリピンにおける会社清算では、SECやBIRの手続だけでなく、従業員との雇用関係を適切に終了させる必要があります。従業員への通知、解雇手当、最終給与、社会保険機関への届出などは相互に関係しており、対応を誤ると労務紛争や追加負担につながる可能性があります。
特に、会社閉鎖を理由として従業員を解雇する場合、原則として解雇日の1か月前までに、従業員と労働雇用省(Department of Labor and Employment:DOLE)の双方へ書面で通知しなければなりません。そのため、労務手続は会社清算のスケジュールを決める重要な要素となります。
本稿では、フィリピンの会社清算に伴う解雇、解雇手当、最終給与、社会保険および外国人駐在員に関する手続を解説します。
事業閉鎖を理由とする解雇
フィリピン労働法第298条では、事業所の閉鎖または事業活動の停止は、一定の条件の下で従業員を解雇できる「正当な経営上の理由(Authorized Cause)」とされています。会社閉鎖を理由として解雇するためには、主に次の要件を満たす必要があります。
- 事業閉鎖が実際に行われ、労働法上の義務を回避するための形式的な閉鎖ではないこと
- 対象となる従業員へ書面で解雇通知を行うこと
- 管轄するDOLEの地域事務所へ所定の通知を行うこと
- 原則として、法定の解雇手当を支給すること
従業員とDOLEへの通知は、解雇予定日の少なくとも1か月前に行う必要があります。従業員への通知とDOLEへの通知は別の手続であり、どちらか一方だけでは不十分です。
DOLEへの通知は、所定の様式を管轄事務所へ提出する方法のほか、DOLEのEstablishment Report Systemを利用して行う方法があります。通知後は、提出記録、受付メール、受領印などを保存しておくことが重要です。
解雇手当の計算
会社閉鎖が深刻な事業損失または財務上の悪化を理由とするものでない場合、対象となる従業員には、解雇手当(Separation Pay)として次のいずれか高い金額を支給します。
- 直近の1か月分の給与
- 直近の月額給与の2分の1に勤続年数を乗じた金額
勤続期間に6か月以上の端数がある場合、その端数は1年として計算します。また、計算の基礎となる給与には、基本給だけでなく、従業員が継続的に受け取っている通常の手当が含まれる場合があります。雇用契約、就業規則、労働協約および実際の給与支給内容を確認する必要があります。たとえば、計算基礎となる月額給与がPHP 30,000、勤続年数が8年の場合、計算は次のとおりです。
PHP 30,000 ÷ 2 × 8年 = PHP 120,000
この金額は1か月分の給与であるPHP 30,000より高いため、最低解雇手当はPHP 120,000となります。
深刻な事業損失がある場合
会社閉鎖が深刻な事業損失または財務上の悪化によるものであることを会社が十分に立証できる場合、労働法上の解雇手当を支給する義務が生じない可能性があります。
ただし、単に赤字であることを主張するだけでは不十分です。監査済財務諸表、税務申告書、会計帳簿、取締役会議事録など、損失の重大性と実在性を示す客観的な資料が必要となります。立証責任は会社側にあるため、証拠が不十分な状態で解雇手当を支給しないことは大きなリスクになります。
解雇手当の非課税と免税証明
フィリピン内国歳入法第32条では、従業員本人の意思によらない理由で雇用関係が終了し、その結果として雇用主から受け取る一定の解雇手当は、原則として課税所得に含まれないとされています。実際の事業閉鎖に伴う法定の解雇手当は、通常、この規定の対象となります。
ただし、会社閉鎖に伴う支給額がすべて自動的に非課税になるわけではありません。法定の解雇手当、未払給与、未使用休暇の換金額、賞与、会社が任意に上乗せする特別手当などは、それぞれ税務上の取扱いが異なる可能性があります。
BIR RMO No. 66-2016では、会社閉鎖など、従業員が制御できない理由による解雇手当について、雇用主を管轄するRDOまたはLarge Taxpayer Officeが、Certificate of Tax Exemptionの申請を処理することとされています。申請の要否と必要書類は、支給前に管轄RDOへ確認することが重要です。一般的には、次のような資料の提出が求められます。
- 会社から従業員への解雇通知
- DOLEへ提出した通知
- 会社閉鎖を承認した取締役会決議
- 対象従業員の一覧と解雇手当の計算表
- 雇用契約や在職期間を確認できる資料
- 会社閉鎖または事業損失を裏付ける資料
- その他、管轄RDOが指定する書類
非課税の確認に時間がかかる場合があるため、最終給与の支給直前に準備を始めるのではなく、閉鎖方針を決定した段階から税務上の取扱いを確認しておく必要があります。
最終給与の支給
DOLE Labor Advisory No. 06-20では、会社にこれより有利な規程や合意がある場合を除き、最終給与は原則として雇用終了日から30日以内に支給することとされています。最終給与には、従業員ごとの状況に応じて、主に次の項目が含まれます。
- 最終勤務日までの未払給与
- 法定の解雇手当
- 日割り計算した13か月目給与
- 未使用の法定Service Incentive Leaveの換金額
- 就業規則などで換金が認められている未使用休暇
- 年間税額調整による所得税の還付または追加控除
- 立替経費など、会社が支払うべきその他の金額
- 法令または有効な合意に基づく貸付金などの控除
未使用の休暇がすべて当然に換金対象となるわけではありません。法定のService Incentive Leaveに該当するか、会社の就業規則や雇用契約に換金規定があるかを確認します。
会社貸付金、備品の未返却、その他の債務を最終給与から控除する場合も、法的根拠や従業員の書面による承認を確認する必要があります。社内クリアランスの未完了を理由として最終給与を無期限に保留することは避けなければなりません。
従業員からCertificate of Employmentの発行を求められた場合、原則として請求から3日以内に交付します。また、BIR Form No. 2316(源泉徴収票)は、雇用終了後の最後の給与支払日に従業員へ交付する必要があります。
SSS・PhilHealth・Pag-IBIGの登録終了
従業員との雇用関係を終了した後は、SSS、PhilHealthおよびPag-IBIG Fundについて、最終拠出と従業員の雇用終了報告を行い、雇用主登録を終了させます。
| 機関 | 主な対応 |
|---|---|
| SSS | 最終拠出金とローン控除額を確認し、Employer Data Change Requestで事業終了を報告する。必要な従業員の雇用終了報告も行う |
| PhilHealth | 最終保険料を確認し、Employer Data Amendment Form(ER3)と会社閉鎖に関する資料を提出する |
| Pag-IBIG Fund | 最終拠出金とローン控除額を確認し、Employer’s Change of Information Form(HQP-PFF-106)で事業終了を報告する |
単に拠出金の支払いを止めただけでは、雇用主登録が自動的に終了するとは限りません。各機関に登録されている従業員数、未納拠出金、ローン控除、保留中の給付申請などを確認したうえで、事業終了の届出を行います。
社会保険機関によっては、SEC、BIRまたは地方自治体が発行・受領した会社閉鎖関係書類の提出を求めることがあります。そのため、各機関の必要書類と取得時期を確認し、会社清算全体のスケジュールに組み込むことが重要です。
SSSの疾病給付や出産給付など、会社を経由して処理している申請がある場合は、会社閉鎖前に処理状況を確認します。従業員がSSSの失業給付などを申請する際に必要となる雇用終了証明についても、担当者が離職する前に発行体制を整えておくと安心です。
外国人駐在員の就労許可とビザ
外国人駐在員や外国人役員がいる場合は、一般の従業員に対する手続に加えて、Alien Employment Permit(AEP)、就労ビザおよびAlien Certificate of Registration Identity Card(ACR I-Card)への対応が必要です。
DOLE Department Order No. 248-25では、会社の事業閉鎖や外国人従業員の雇用終了を理由として、雇用主がAEPの取消しを申請できることとされています。また、雇用状況や事業活動の停止など、AEP申請時の重要情報に変更があった場合には、所定の期限内にDOLEへ報告する必要があります。
具体的な手続は、保有するビザの種類、経済特区への登録、出国予定日、帯同家族の有無などによって異なります。外国人駐在員本人や会社の署名権者が先に出国すると手続が難しくなる可能性があるため、出国日を決める前にDOLEとBIの手続順序を確認することが重要です。
通知の順序とキーマンの確保
会社閉鎖を従業員へ通知すると、従業員が予定より早く離職し、引継ぎや清算手続を担当する人員が不在となる可能性があります。一方で、解雇通知を遅らせると、1か月前の通知要件を満たせなくなるおそれがあります。実務上は、次の順序で準備を進めます。
- 会社閉鎖日、営業終了日および従業員ごとの最終勤務日を決定する
- 解雇手当、最終給与、税金および社会保険料を試算する
- 清算期間中に必要な担当者と業務を特定する
- 対象従業員とDOLEへ、解雇日の1か月前までに通知する
- 引継ぎ、会計記録の整理、資産回収および行政手続を進める
- 最終給与を支給し、Certificate of EmploymentとBIR Form No. 2316を交付する
- 社会保険、就労許可、ビザおよび会社登録の終了手続を完了する
清算業務を担当する従業員には、他の従業員より遅い雇用終了日を設定し、滞留手当や完了手当を支給する方法も考えられます。この場合も、その従業員の解雇予定日の1か月前までに通知する必要があります。
雇用終了後の従業員を直ちに業務委託契約へ切り替える場合は注意が必要です。会社が勤務時間、作業方法、業務場所などを引き続き管理している場合、契約の名称にかかわらず雇用関係と判断される可能性があります。単に社会保険や解雇手当の負担を避ける目的で業務委託へ変更することは避けるべきです。
会社清算における労務上の注意点
会社清算に伴う労務手続では、特に次の点に注意が必要です。
- 従業員またはDOLEのどちらか一方にしか解雇通知をしていない
- 解雇日の1か月前という通知期限を満たしていない
- 解雇手当の最低1か月分、勤続年数の端数または通常手当を考慮していない
- 深刻な事業損失を裏付ける資料がないまま解雇手当を支給していない
- 法定の解雇手当と任意の追加手当を区分せず、全額を非課税としている
- 社内クリアランスを理由として最終給与を30日以上保留している
- SSS、PhilHealthまたはPag-IBIG Fundの雇用主登録を残したままにしている
- 外国人駐在員や会社の署名権者が、ビザや登録終了の手続前に出国している
- 雇用終了後の従業員を、実態を変えないまま業務委託契約へ切り替えている
従業員数が多い場合、労働組合や労働協約がある場合、労務紛争が発生している場合、または深刻な事業損失を理由として解雇手当を支給しない場合は、労務専門家と個別に確認することが推奨されます。
おわりに
フィリピンの会社清算では、従業員への解雇通知、解雇手当、最終給与、社会保険および外国人駐在員の手続を、SECやBIRの清算手続と並行して進める必要があります。特に、解雇日の1か月前までの通知と、雇用終了日から30日以内の最終給与支給は、清算スケジュールを組むうえで早期に確認すべき項目です。
当社では、毎月定額の経理代行パッケージの一環として、給与計算および税務申告に対応しています。会社清算に伴う最終給与、解雇手当、源泉所得税および社会保険料の精算についてもご相談いただけます。解雇の有効性、労務紛争および就労ビザの申請手続について専門的な判断が必要な場合は、労務・移民法の専門家と連携して対応することが重要です。
参考リンク(公的機関の一次情報)
- DOLE:Handbook on Workers’ Statutory Monetary Benefits 2024 Edition
- DOLE:Labor Advisory No. 06-20 Guidelines on the Payment of Final Pay and Issuance of Certificate of Employment
- BIR:Revenue Memorandum Order No. 66-2016
- SSS:Employer Information / PhilHealth:Amending Employer Data / Pag-IBIG Fund:Employer’s Change of Information Form
- DOLE:Department Order No. 248-25 / Bureau of Immigration:Downgrading of Visa