フィリピン子会社の解散でよく利用されるのが、定款に定める会社の存続期間を短縮する方法です。手続き自体が簡単になるわけではありませんが、一定の条件を満たせば、BIRのタックスクリアランスを待たずにSECの定款変更手続きを進められます。
この記事では、取締役会・株主総会の決議要件、満了日の決め方、SECへの申請、BIR登録抹消との関係、解散後の清算期間について説明します。会社清算の方法と全体的な流れは、シリーズ第1回「フィリピンの会社清算の流れ ①全体編」で整理しています。
存続期間の短縮とは
フィリピンの改正会社法(Republic Act No. 11232)が2019年に施行されて以降、会社の存続期間は原則として無期限になりました。旧会社法のもとで設立され、定款に50年などの存続期間が記載されていた会社も、所定の期間内に従来の存続期間を維持する旨を届け出ていなければ、原則として無期限で存続する会社として扱われます。
存続期間が無期限の会社であっても、定款を変更して将来の満了日を定めることができます。改正会社法第136条により、SECが承認した変更後の定款に記載された存続期間が満了すると、会社は満了日の翌日に自動的に解散します。
この場合、満了時に改めてSECへ解散を申請する必要はなく、Certificate of Dissolution(解散証明書)も発行されません。定款変更の承認によって、将来の解散日をあらかじめ決める方法と考えると分かりやすいでしょう。
この方法が選ばれる理由
改正会社法第134条に基づく株主総会決議による解散では、SECへの解散申請にBIRタックスクリアランスが必要です。したがって、株主総会やBIRの準備を進めることはできますが、タックスクリアランスを取得するまでSECへの解散申請を完了できません。
これに対し、存続期間の短縮では、現在のeAMEND上、短縮後の満了日をSECの承認時点から1年以上先に設定する区分であれば、SEC申請時にBIRタックスクリアランスを求めない取扱いが示されています。BIRの登録抹消が完了していなくても、将来の解散日を定めるSEC手続きを先に進められることが、この方法の大きな特徴です。
解散日が決まれば、事業停止、従業員対応、契約終了、資産処分、BIR・LGUの登録抹消などのスケジュールを逆算できます。日本本社に対して撤退計画を説明しやすくなる点も実務上の利点です。
ただし、SEC申請時にタックスクリアランスが不要であっても、BIRの登録抹消が免除されるわけではありません。最終申告、納税、未使用インボイスの処理などは別途必要です。
決議の要件
存続期間の短縮は定款変更として扱われるため、会社法36条の要件に従います。取締役会の過半数の賛成と、株主総会で発行済株式の3分の2以上の賛成が必要です。134条の解散が過半数で足りることと比べると決議のハードルは高くなりますが、日本の親会社が全株式を保有している子会社であれば障害にはなりません。
反対株主の株式買取請求権
会社法80条により、存続期間を変更する定款変更に反対した株主は、自らの株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できます。完全子会社であれば考える必要のない論点ですが、フィリピンでは外資規制への対応や取締役の員数を満たすために少数株主を置いている会社が少なくありません。名義だけの少数株主であっても、法律上は買取請求権を持ちます(信託契約に基づくノミニー株主を除く)。
撤退の局面では株主との関係が円満でなくなっていることもあり、決議の直前に反対を表明されると手続き全体が止まります。誰がどれだけ株式を持っているかを最新のGISで確認し、決議に先立って同意書を取り付けておくのが安全です。
満了日の決め方
存続期間の短縮には定款変更が伴うため、改正会社法第36条に基づき、次の承認が必要です。
- 取締役会における取締役の過半数の賛成
- 株主総会における発行済株式総数の3分の2以上の賛成
株主総会の議決には、通常は議決権を持たない種類株式も含まれます。また、株主に対して、存続期間の短縮案、株主総会の日時・場所などを書面で通知する必要があります。通知方法は、改正会社法、定款、付属定款の規定に従います。
日本の親会社が発行済株式の全部を保有する完全子会社であれば、3分の2以上という株主要件を満たすことは難しくありません。ただし、日本側で取締役会決議、委任状、署名者の権限確認などが必要になることがあるため、フィリピン側の株主総会日から逆算して準備します。
取締役会や法定役員の基本的な位置づけについては、フィリピンの取締役・法定役員の基礎も参照してください。りの日付を置いた結果、承認が下りた時点で1年を切っており追加書類を求められる、という事態は避けたいところです。
反対株主の株式買取請求権
改正会社法第80条により、存続期間の短縮に反対した株主は、一定の条件のもとで、保有株式を公正な価格で買い取るよう会社へ請求できます。株式買取請求権を行使するには、原則として対象となる決議に反対票を投じ、決議日から30日以内に会社へ書面で請求しなければなりません。また、会社による支払いは、支払いに充てられる制限のない利益剰余金があることなどを前提とします。
したがって、少数株主が反対しただけでSEC手続きが当然に停止するわけではありません。ただし、買取請求が行われると、価格の協議、株式の評価、支払資金の確保が必要になり、撤退スケジュールや資金計画に影響します。
実質的な出資者が一社であっても、株主名簿上に複数の株主が登録されている場合は、各株主の議決権と意向を確認します。名義株主が関係する会社では、フィリピンのノミニー株主の仕組みと活用方法もあわせて確認してください。
満了日の決め方
存続期間の満了日は、主に次の点を考慮して決めます。
- SECの承認時点から満了日までに必要な期間を確保できること
- 満了日までに通常の事業活動を終了できること
- 従業員、顧客、仕入先、賃貸人などへの通知・契約終了に必要な期間を確保できること
- 解散まで会社を維持する費用が過大にならないこと
現在のeAMENDでは、満了日がSEC承認時点から「1年以上」となる場合と「1年未満」となる場合が区分されています。判定の基準は申請日ではなくSECの承認日であるため、申請時点で満了日まで1年しかなければ、審査中に1年を下回る可能性があります。
実務上は、例えば申請時点から1年半程度先の日付を検討するなど、SECの審査期間を見込んだ余裕が必要です。 ただし、1年半という期間は法定の基準ではありません。会社の申告状況、事業停止予定日、SECの審査状況を踏まえて決定します。
満了日を遠くに設定しすぎると、その間もSECへの年次報告、会計・監査対応、登記住所、銀行口座などの維持費用が発生します。一方、満了日を近くしすぎると、通常の営業活動を終了できないまま解散日を迎える可能性があります。
解散後も、売掛金の回収、資産の売却、債務の支払いなど、清算を目的とする行為は可能です。したがって、すべての資産処分や債権回収を満了日までに終える必要はありませんが、満了日以後に新規取引などの通常事業を継続することはできません。
SECへの申請
存続期間の短縮を伴う定款変更は、SECのeAMENDにおけるRegular Processingの対象です。オンライン上で会社情報、変更内容、取締役会・株主総会の承認内容を入力し、必要書類をアップロードします。オンライン申請が事前審査を通過すると、Payment Assessment Formが発行されます。手数料を支払った後、申請状況が「For Submission of Hard Copies」に変わり、署名・公証済みの原本をSECへ提出します。手数料支払い後、30日以内に紙の書類を提出しなければ、申請は取り消され、支払済みの申請手数料も没収されます。
なお、eAMENDへの入力を開始したものの、申請を完了して送信しない場合は、5日で入力中の申請が失効します。オンライン送信前の5日と、手数料支払い後の紙書類提出までの30日を混同しないように管理します。紙の書類が受理されると、SECによる追加審査が行われます。不備がなければ、Certificate of Filing of Amended Articles of Incorporationと、SEC承認済みの変更後定款が発行されます。
提出書類
満了日をSEC承認時点から1年以上先に設定する場合、通常は次の書類を準備します。
- eAMENDが生成する申請書類・カバーシート
- 公証済みのDirectors’ Certificate
- Amended Articles of Incorporation(変更後定款)
- SECのMonitoring Clearance
- 会社内部の紛争が係属していないことを証明する公証済みSecretary’s Certificate
- 必要に応じて、SECの他部署または業種別監督官庁のクリアランス・推薦書
Directors’ Certificateには、取締役会の過半数と発行済株式総数の3分の2以上による承認、株主総会の日時・場所、署名者のTINなどを記載します。SEC Memorandum Circular No. 5, Series of 2022では、取締役の過半数とCorporate Secretaryによる署名・証明が求められています。
Monitoring Clearanceは、SECへの年次報告やペナルティなどに未解決事項がないかを確認するものです。過去のAudited Financial StatementsやGeneral Information Sheetに未提出がある場合は、定款変更の審査が進む前に対応を求められる可能性があります。eAMENDに表示される提出書類や追加指示が最新の申請要件となるため、申請時にはシステム上のDocumentary Requirementsの再確認が必須です。
満了まで1年を切る日付を設定する場合
満了日がSEC承認時点から1年未満となる場合は、1年以上先に設定する場合の書類に加え、主に次の資料が必要になります。
- 直近年度の監査済財務諸表
- 解散が債権者の権利を害さず、債権者から異議がないことを示すPresidentおよびTreasurerの宣誓供述書
- BIRタックスクリアランス
- 株主総会開催通知の公告に関するPublisher’s Affidavit
- その他、SECが指定する財務・債権者保護関係の書類
監査済財務諸表については、設立後に事業を行っていない会社、一定期間事業を停止している会社、総資産または総負債が60万ペソ未満の会社などについて、宣誓済みの貸借対照表や非営業証明書で代替できる場合があります。
BIRタックスクリアランスが必要になるため、SEC手続きをBIRより先に進められるという利点は失われます。ただし、早期の解散が必要な事情があれば、1年未満の区分を選ぶ余地はあります。単に書類が増えるという理由だけで、常に不適切な方法になるわけではありません。
BIRの手続きとの関係
存続期間の満了日は、BIR登録抹消の完了期限ではありません。満了日を1年以上先に設定する区分では、BIR登録抹消が完了していなくても会社は満了日の翌日に解散し、残る税務手続きは解散後の清算期間中に継続できます。
一方、BIRの登録を抹消するには、事業停止日までのFinal ReturnまたはShort-period Returnを提出し、税金を納付したうえで、BIR Form No. 1905、棚卸資産一覧、未使用インボイス、Certificate of Registrationなどの必要書類を提出します。
RMC No. 47-2026では、必要書類を完全に提出すると、登録税目が「deregistered」に変更され、その後について新たな未申告Open Caseや不申告ペナルティを発生させない取扱いが示されています。事業を停止しただけでは申告義務は止まらず、BIRへ必要書類を完全に提出することが基準になります。
したがって、満了日を待ってからBIR手続きを始める必要はありません。通常の事業を停止し、最終申告と必要書類の準備ができた段階でBIR登録抹消を申請すれば、タックスクリアランスの発行を待つ間に新たな未申告案件が増えるリスクを抑えられます。
また、内国歳入法第52条(C)は、会社が解散に関する決議または計画を採択してから30日以内に、その内容を記載した申告をBIRへ提出するよう定めています。存続期間の短縮を決議する場合も、株主総会の日程が決まった段階で、提出書類と提出方法を管轄RDOへ確認します。
BIR登録抹消、タックスクリアランス、税務調査の詳細は、シリーズ⑤「税務編」で説明します。
満了日の到来と解散後の3年間
SECが承認した変更後定款に記載された満了日が到来すると、会社はその翌日に自動的に解散します。満了時にSECへ新たな申請を行う必要はなく、Certificate of Dissolutionも発行されません。
本社、銀行、取引先などから解散を証明する書類を求められた場合は、SEC承認済みの変更後定款とCertificate of Filing of Amended Articles of Incorporationを使用します。提出先によっては、SECのCertification on Corporate Filing/Informationなど、追加の証明書を求められることがあります。
改正会社法第139条により、解散した会社は、解散の効力発生日から原則として3年間、清算目的に限って法人として存続します。この3年間は通常事業を継続する期間ではなく、債権回収、資産処分、債務弁済、訴訟対応、BIR・LGUの登録抹消、残余財産の分配を行う期間です。
清算が3年以内に終わらないことが予想される場合は、会社の財産を受託者へ移転する方法などを検討します。係争、不動産、回収困難な債権などがある場合は、3年の満了直前ではなく、清算期間中の早い段階で法的対応を検討します。
実務上の落とし穴
存続期間の短縮では、次のような理由で手続きが遅れることがあります。
- 過去の監査済財務諸表やGISが未提出で、Monitoring Clearanceを取得できない
- eAMENDで手数料を支払った後、30日以内に紙の書類を提出していない
- 満了日を近く設定しすぎ、SEC承認時点で1年未満になった
- 満了後も新規取引などの通常事業を継続する必要が残っている
- BIRへ完全な閉鎖書類を提出せず、申告義務やOpen Caseが残り続ける
- 銀行口座を早く閉鎖し、税金、専門家費用、残余財産の送金に支障が出る
- 会計帳簿、申告データ、SEC書類などの引継ぎが不十分で、清算担当者が資料を入手できない
特に、SECへの年次報告の未提出と、紙書類の30日期限超過は、会社の債権・債務とは関係のない事務的な問題です。申請前にSECの提出状況を確認し、オンライン申請、支払い、原本提出を一つの進捗表で管理します。
銀行口座についても、事業停止と同時に閉鎖するのではなく、税金、従業員への支払い、専門家費用、残余財産の送金が終わるまで、必要な口座を維持することが推奨されます。
おわりに
存続期間の短縮では、次のような理由で手続きが遅れることがあります。
- 過去の監査済財務諸表やGISが未提出で、Monitoring Clearanceを取得できない
- eAMENDで手数料を支払った後、30日以内に紙の書類を提出していない
- 満了日を近く設定しすぎ、SEC承認時点で1年未満になった
- 満了後も新規取引などの通常事業を継続する必要が残っている
- BIRへ完全な閉鎖書類を提出せず、申告義務やOpen Caseが残り続ける
- 銀行口座を早く閉鎖し、税金、専門家費用、残余財産の送金に支障が出る
- 会計帳簿、申告データ、SEC書類などの引継ぎが不十分で、清算担当者が資料を入手できない
特に、SECへの年次報告の未提出と、紙書類の30日期限超過は、会社の債権・債務とは関係のない事務的な問題です。申請前にSECの提出状況を確認し、オンライン申請、支払い、原本提出を一つの進捗表で管理します。
銀行口座についても、事業停止と同時に閉鎖するのではなく、税金、従業員への支払い、専門家費用、残余財産の送金が終わるまで、必要な口座を維持します。
おわりに
存続期間の短縮は、一定の条件を満たせば、BIRタックスクリアランスを待たずにSECの手続きを進め、将来の解散日を確定できる方法です。ただし、定款変更を終えれば清算が完了するわけではなく、従業員対応、契約終了、資産・債務の整理、BIR・LGUの登録抹消、残余財産の分配が必要です。
満了日の設定では、SEC承認時点からの期間だけでなく、通常事業を停止できる時期、従業員や契約先への通知期間、BIR書類の準備状況、解散までの維持費用を確認します。解散後の3年間に何を残すかも含めて計画すると、満了日の前後で手続きが滞るリスクを抑えられます。
当社では、フィリピン事業からの撤退を検討する企業に対し、税務・会計面を中心とした論点整理や、必要な手続きの進め方に関するご相談を受けています。具体的な対応範囲は会社の登録・申告状況によって異なるため、現状を確認したうえでご案内します。