フィリピン法人の清算では、BIRの登録抹消とタックスクリアランスの取得が全体の日程を大きく左右します。事業を停止しただけでは税務申告義務は終了せず、過去のOpen Case、未納税額、税務調査、親会社との債権債務などが残っていると、その整理に時間を要します。

また、清算前に親会社への債務を返済するのか、債権放棄、Debt Equity Swap、資本拠出として整理するのかによって、法人所得税、源泉徴収税、印紙税、SEC手続きが変わります。清算の最後に行う残余財産の分配も、通常の配当とは異なる税務処理が必要です。

この記事では、BIR登録抹消、閉鎖時の税務調査、親会社債務の整理、NOLCO(繰越欠損金)、残余財産の分配、LGUの事業許可抹消について説明します。会社清算の全体像はシリーズ第1回「フィリピンの会社清算の流れ ①全体編」で整理しています。

BIRの登録抹消の流れ

2026年5月に発行されたRMC No. 47-2026は、国内法人、外国法人、支店、その他の事業納税者を対象として、事業閉鎖とBIR登録抹消の手続きを定めています。BIR登録抹消では、一般に次の書類を管轄RDOへ提出します。

  • BIR Form No. 1905
  • VAT登録事業者の場合は、商品、消耗品および資本財の期末在庫一覧
  • 未使用のインボイス、補助書類、会計帳票とその一覧
  • Certificate of Registration(登録証書)
  • Authority to Print(印刷許可証)、Notice to Issue Invoice、POS等の許可書類
  • 代理人が手続きを行う場合は、取締役会決議書またはSecretary’s Certificateなどの権限証明

これらの書類に加えて、事業年度の開始日から閉鎖日までを対象とする最終申告または短期申告を行い、納付すべき税金を支払います。事業活動がなかった期間についても、閉鎖日までに申告期限が到来する税目はゼロ申告が必要になる場合があります。

RMC No. 47-2026では、完全な必要書類を提出すると、登録税目がderegisteredへ変更され、その後の未申告によるOpen Caseの新規発生を止める取扱いが示されています。ただし、これはタックスクリアランスの発行やBIR上のClosedへの最終更新が同時に完了するという意味ではありません。

タックスクリアランスが3営業日で発行される条件

Micro Taxpayer、前年度の総売上高が300万ペソ以下の納税者、または閉鎖時の総資産が800万ペソ以下の納税者については、Open Caseと未納税額がなく、完全な必要書類が提出されていれば、原則として3営業日以内にタックスクリアランスを発行する取扱いがあります。

一方、既存のLetter of Authorityに基づく税務調査が進行中の場合や、前年度の総売上高が300万ペソを超える場合、閉鎖時の総資産が800万ペソを超える場合は、税務調査の終了後にタックスクリアランスが発行されます。

同通達は一方の基準を満たし、もう一方を超える場合について読み方が重なるため、例えば売上高が300万ペソ以下でも総資産が800万ペソを超える会社は、3営業日での処理を前提とせず、管轄RDOへ確認します。詳しい基準は、当社記事「RMC No. 47-2026でフィリピン法人の閉鎖手続きは短縮されるのか」でも説明しています。

閉鎖時の税務調査で確認される項目

閉鎖時の税務調査では、通常の税務調査と同様に、申告書、財務諸表、会計帳簿、インボイス、源泉徴収記録、銀行取引などが確認されます。特に、事業停止に伴う資産処分、関係会社債権債務、最終事業年度の申告は、通常年度にはない論点です。

BIRによる税務査定の期間は、原則として法定申告期限または実際の申告日のいずれか遅い日から3年です。無申告や、虚偽・不正な申告に該当する場合には、例外的に発見から10年の期間が問題になります。ただし、申告書に誤りがあるだけで当然に10年間になるわけではなく、虚偽性や不正の立証を含めて個別に判断されます。閉鎖前の自主点検では、可能な範囲で次の項目を確認することが推奨されます。

  • 監査済財務諸表と法人所得税申告書の数値が一致しているか
  • 売上、仕入れ、経費が取引先の提出情報と整合しているか
  • 経費と仕入税額控除の根拠となるインボイスが保存されているか
  • 給与、賃料、専門家報酬、親会社への支払いについて源泉徴収が行われているか
  • 関連者間取引の契約書、請求書、移転価格資料が揃っているか
  • 貸付契約、株式発行、資産譲渡などに関する印紙税が処理されているか
  • 固定資産、棚卸資産、投資その他の資産処分が適切に申告されているか
  • BIR上のOpen Caseと未納税額が解消されているか

税務調査開始後に資料を集め始めると、退職者が作成したファイルや過年度の証憑を回収できないことがあります。撤退方針を決めた段階で対象年度と不足資料を洗い出し、BIR登録抹消の申請前に説明可能な状態にしておきます。

親会社との債権債務を整理する

日系子会社では、親会社からの借入金、未払仕入代金、立替金、未払ロイヤルティ、技術支援料などが残っていることがあります。改正会社法第134条による解散は、債権者が一人もいないことを要件としているわけではありませんが、解散によって債権者の権利を害さない状態にする必要があります。また、残余財産はすべての債務を支払い、または適切に処理した後でなければ株主へ分配できません。

親会社債務の主な整理方法には、返済、債権放棄、Debt Equity Swap、株式を発行しない資本拠出としての整理があります。ただし、どの方法も会計上の振替だけで完了するものではありません。

返済する場合

借入元本の返済は、通常、子会社の所得にはなりません。ただし、未払利息、ロイヤルティ、サービスフィーなどを同時に支払う場合は、源泉徴収税と租税条約の適用を確認します。借入契約自体の印紙税、為替差損益、移転価格上の利率も、過去の処理を含めて点検する必要があります。

手元資金で返済できる場合は比較的整理しやすい方法ですが、返済資金を作るために資産を売却すれば、売却益、VAT、キャピタルゲイン税、印紙税などが別途生じる可能性があります。

親会社が債権を放棄する場合

債権放棄を受けた子会社側では、免除された金額が課税所得になるのか、株主による資本拠出として扱えるのかを検討します。この判定は、債権の発生原因、会社の財務状態、親会社の意図、取締役会決議、契約書、会計処理などによって変わります。

親会社による債権放棄であるという理由だけで、自動的に非課税の資本取引になるわけではありません。課税所得として認識する場合は、利用可能なNOLCOと相殺できる可能性がありますが、NOLCOの対象年度、残高、使用期限、所得税区分を確認する必要があります。

日本の親会社側でも、債権放棄損が寄附金として扱われるか、損金算入が認められるかという日本税務上の判断が必要です。フィリピン側の処理だけで決定せず、日本の顧問税理士とも事前に確認することを推奨します。

Debt Equity Swapを行う場合

Debt Equity Swapは、親会社の債権を子会社の株式へ転換する方法です。新株を発行するため、未発行株式が十分に残っているかを確認し、不足する場合は授権資本の増加と定款変更が必要になります。撤退直前に授権資本を増加すると、SECの承認待ちによって全体の日程が延びる可能性があります。

新株の発行には、現行法上、額面株式について0.75%のDocumentary Stamp Tax(印紙税)が課されます。無額面株式の場合は、実際の発行対価が計算の基礎になります。

株式を発行しない資本拠出として整理する場合

親会社が債権を免除し、追加払込資本などの資本勘定(Additional Paid In Capital)へ振り替える方法が検討されることもあります。株式を発行しないため、Debt Equity SwapとはSEC手続きや印紙税の考え方が異なります。

ただし、会計上の勘定科目を追加払込資本へ変更するだけでは、税務上の資本拠出であることは確定しません。取締役会決議、親会社の拠出意思、返済義務が消滅したことを示す契約書、会計基準上の処理などを揃え、必要に応じてSECとBIRの取扱いを確認します。

親会社債務を資本へ振り替える場合の基本的な考え方は、当社記事「フィリピンの資本金の概要とポイント」も参照してください。

NOLCOを利用できるか確認する

Net Operating Loss Carry-Over(繰越欠損金。以下、NOLCO)は、一定の要件を満たす事業上の欠損金を翌年度以降の課税所得から控除する制度です。通常の繰越期間は、欠損が発生した年度の翌年度から3年間です。

NOLCOは帳簿上の累積損失と同じではありません。税務申告書上の発生額、過年度の使用額、使用期限を年度別に確認します。また、NOLCOを利用できても、Minimum Corporate Income Tax、源泉徴収税、VAT、印紙税などの負担までなくなるわけではありません。

残余財産の分配にかかる課税

債務の支払いと税務手続きが完了した後、会社に残った現金や財産を株主へ分配します。一般に清算配当またはLiquidating Dividendと呼ばれますが、通常の利益配当とは異なる税務処理が行われます。

内国歳入法第73条およびRevenue Regulations No. 6-2008では、株主が保有株式を会社へ引き渡し、その対価として現金や財産を受け取る取引として扱われます。株主側では、受け取った現金と財産の公正価値の合計額から、株式の税務上の取得価額を差し引いて利益または損失を計算します。

この利益は、非上場株式の通常の売却に対するキャピタルゲイン税率ではなく、RR No. 6-2008上、個人または法人に適用される通常の所得税率の対象とされています。日本の親会社が株主である場合は、非居住外国法人としての課税方法、申告・源泉徴収手続き、租税条約との関係を個別に確認します。

分配予定額と株式取得価額を比較するだけでなく、現物財産を分配する場合は、その公正価値と資産移転時の税金も確認する必要があります。不動産、車両、設備、棚卸資産などを現物で分配すると、分配会社側でもVAT、所得税、キャピタルゲイン税、印紙税、移転登録費用などが生じる可能性があります。

清算分配に関する税金を計算するため、出資時の送金記録、株式引受契約、株券、株主名簿、過去の増資資料を保存しておきます。取得価額を立証できなければ、株主側の課税所得が大きく計算される可能性があります。

なお、実務上、多くの撤退案件ではそもそも益が出ません。払込資本を下回る財産しか残っていないことが通例だからです。

LGUの事業許可を抹消する

BIRとは別に、所在地を管轄するLGUでBusiness PermitのRetirementまたはClosureを申請します。実際に営業を停止しても、LGUで閉鎖手続きを行わなければ、事業許可の登録は自動的には消えません。

必要書類や税額計算はLGUによって異なりますが、一般に廃業申請書、取締役会決議書、Barangay Clearance、過年度の事業許可、申告売上、税金・手数料の支払証明などが求められます。現地確認や各部署のクリアランスが必要になる場合もあります。

閉鎖手続きが翌年へまたがると、翌年度の許可更新や地方事業税について追加の説明または支払いを求められる可能性があります。事業停止日、最終売上、BIRへの閉鎖日、LGUへの申請日をできるだけ整合させ、管轄LGUの締切と計算方法を確認します。

実務上の落とし穴

  • 社清算の税務では、次のような判断や準備の遅れが手続きの長期化につながります。
  • 事業を停止すれば税務申告義務も終了すると考え、BIR登録抹消を後回しにする
  • Open Caseと未納税額を確認せず、短期間でタックスクリアランスを取得できると見込む
  • 売上高と総資産の一方だけを確認し、3営業日の処理対象だと判断する
  • 過年度の申告書、元帳、インボイス、源泉徴収証明書を担当者の退職後に集めようとする
  • 親会社債務の元本、利息、ロイヤルティ、サービスフィーを区分せずに処理する
  • 債権放棄や追加払込資本への振替を、自動的に非課税の資本取引として扱う
  • Debt Equity Swapの前に未発行株式と授権資本の枠を確認しない
  • 利用期限が切れたNOLCOを課税所得と相殺する
  • 清算分配を通常の配当と同じ税率で処理する
  • 現物分配に伴う会社側の資産移転税を見込んでいない
  • LGUの閉鎖手続きを翌年へ持ち越し、許可更新や地方税の問題が生じる

おわりに

フィリピン法人の清算税務では、BIR登録抹消だけでなく、過去の申告、親会社債務、資産処分、NOLCO、残余財産の分配、LGUの閉鎖を一つの工程として整理する必要があります。特に親会社債務は、返済、債権放棄、Debt Equity Swap、資本拠出のどれを選ぶかによって、税金とSEC手続きが大きく変わります。

まず、申告書と会計帳簿を照合し、Open Case、未納税額、関連者間残高、利用可能なNOLCO、処分予定資産を一覧化します。そのうえで、各方法のフィリピン税務、日本税務、必要期間を比較すると、清算方法を決めた後の手戻りを減らせます。

当社では、税務・ビジネス戦略コンサルティングの一環として、撤退前の申告状況、Open Case、親会社との債権債務、資産処分などの税務・会計論点に関するご相談に対応しています。実際の登録状況と資料を確認したうえで、検討すべき項目と対応範囲をご案内します。

参考リンク(公的機関の一次情報)