「立ち上げ期で投資が先行している」「慢性的に赤字が続いている」「輸出やPEZA登録企業向けの0%売上が大半を占めている」。こうした状況では、支払ったInput VATが預かったOutput VATを上回り、控除しきれないInput VATが残ることがあります。これをExcess Input VAT(超過Input VAT)と呼びます。本記事では、この超過Input VATをどう処理するか、翌期への繰り越しと還付申請の2つの方法を整理し、それぞれの実務上の留意点を解説します。

VATの基本的な仕組みについては「これだけは押さえたいVATの基本」をあわせてご覧ください。

超過Input VATが生じる仕組み

VATの納税額は、預かったOutput VATから支払ったInput VATを差し引いて計算します。通常はOutput VATの方が大きく、その差額を納税することになりますが、Input VATの方が大きくなると、その期の納税額はゼロとなり、控除しきれなかったInput VATが手元に残ります。これが超過Input VATです。

超過Input VATは、決して例外的な現象ではありません。設備投資や仕入が先行する事業の立ち上げ期、売上が伸び悩む赤字局面、そして売上の多くが0%VATとなる輸出型・PEZA登録企業などでは、構造的に発生します。特に0%VAT売上が中心の事業では、Output VATがほとんど立たない一方で、国内の仕入や経費にはInput VATがかかるため、超過が継続的に積み上がっていきます。処理方法は、①翌期への繰り越しと、②BIRへの還付申請の2つです。

処理方法① 翌期への繰り越し(Carry-over)

最も一般的なのが、翌期への繰り越しです。控除しきれなかったInput VATを資産として帳簿に計上しておき、翌期以降にOutput VATが発生した際に相殺することで、その期のVAT納税額を抑えます。繰り越しに期限はなく、特別な手続きも必要ありません。

一時的な投資の先行や短期間の赤字であれば、繰り越しで十分に対応できます。事業が軌道に乗ってOutput VATが増えてくれば、蓄積した超過Input VATは自然に消化されていくためです。

問題になるのは、翌期以降も構造的に超過Input VATが発生し続けるケースです。0%VAT売上が大半を占める輸出型の事業や、慢性的な赤字が続く事業では、相殺の機会が乏しいまま超過Input VATが積み上がる一方になります。こうした場合は、繰り越しだけでは滞留が解消されません。次に説明する還付申請のほか、事業構造の側から超過の発生を抑える方法も選択肢になります。

なお、0%VAT(Zero-Rated)と免税(Exemption)では、関連する仕入のInput VATの扱いが異なります。0%VATは控除・還付の対象になりますが、免税は対象外です。この違いについては別記事「Zero-Rated VATとExemption(免税)の違い」で解説しています。

事業構造から超過の発生を抑える方法

還付申請以外にも、Output VATを増やす、あるいはInput VATの発生自体を抑えるという方向から、超過Input VATの積み上がりを和らげる方法があります。自社の事業構造に応じて、次のような対応が考えられます。

  • PEZA等の登録企業向け売上が多い場合:PEZA等の登録企業や輸出型企業への販売は0%VATとなり、Output VATが立ちません。一般企業(標準課税企業)への販売割合を意図的に増やせば、その分Output VATを確保でき、蓄積したInput VATの相殺が進みます。
  • 輸出売上が多い場合:直接の輸出販売も0%VATであり、同じ構造の問題を抱えます。この場合も、国内の標準課税企業への販売を増やすことでOutput VATを確保するのが一案です。
  • 輸出売上(PEZA等向けを含む)の割合が特に高い場合:そもそも仕入段階でInput VATを発生させないという方向もあります。CREATE MORE法のもとでは、輸出売上が前年の総生産・総売上の70%以上を占める輸出志向企業(Export-Oriented Enterprise)は、DTI傘下の輸出マーケティング局(DTI-EMB)の認定を受けることで、国内仕入のVAT0%調達と輸入のVAT免除が認められます。これはPEZA等のIPA(投資奨励機関)に登録していない企業でも対象になり得ます。認定を受ければ調達時点でInput VATがかからなくなるため、超過Input VATの蓄積そのものを抑えられます。

これらは事業の方針に関わる判断であり、還付申請と組み合わせて検討することもあります。なお、輸出志向企業の認定要件や手続きは制度改正で変わることがあるため、検討の際は最新の規定をご確認ください。

処理方法② 還付申請(Refund Application)

もう一つの方法が、超過Input VATをBIRから直接返還してもらう還付申請です。Input VATは本来、立替的に支払っているものであり、Output VATとの相殺に使えないのであれば、理屈のうえでは還付されるべきものです。

ただし、実務上は還付申請のハードルが高く、安易に勧められる手段ではありません。以下では、申請にあたって押さえておきたい点を順に説明します。

リスクベース審査と処理期間

VATの還付申請については、2024年7月1日から、RR No. 5-2024に基づくリスクベースの審査制度が導入されました。これにより、申請はその金額・申請頻度・納税者のコンプライアンス履歴などに応じて、低・中・高リスクの3段階に分類されます。

分類によって審査の深さが変わります。低リスクに分類された申請は、原則として個別の検証を経ずに処理が進みます。一方、中リスクでは販売・仕入の少なくとも50%、高リスクでは100%が検証の対象になります。BIRは、完全な必要書類が提出されてから90日以内に申請を処理・決定することとされています。

この制度により、コンプライアンスの整った申請であれば以前より処理が円滑に進む余地が生まれました。とはいえ、中・高リスクに分類されれば従来同様に踏み込んだ検証が行われるため、後述する証憑の完全性は引き続き重要です。

税務調査の波及リスク

還付申請を行うと、その内容を確認するためにBIRによる検証・調査が実施されます。本来はVATに対象が限られるはずですが、これをきっかけに、法人税・源泉税・フリンジベネフィット税といった他の税目にまで調査が及ぶケースが少なくありません。

また、VATの検証においては、Input VATの裏付けとなる証憑の完全性が精査されます。証憑に不備があれば該当分の還付は否認され、最終的に認められた金額だけが還付の対象となります。この点で、日常的な証憑管理が還付の実現可能性を大きく左右します。証憑の要件については別記事「Invoice制度とVAT証憑管理」をご覧ください。

現金還付とTCC

還付の方法には、現金還付と、Tax Credit Certificate(TCC、税控除証書)の2種類があります。TCCは将来の税金の支払いに充当できる証書で、BIRにとっては即時の現金支出を伴わないため、現金還付よりも申請が通りやすいとも言われています。自社の納税状況に応じて、どちらが適しているかを検討することになります。

申請期限

還付申請には期限があります。VATの課税四半期の終了から2年以内に行う必要があり、これを過ぎると受け付けてもらえません。数年分をまとめて申請しようとすると期限切れの部分が出てくるため、一定の頻度で対応を進めていく必要があります。

還付申請の要否を判断する3つの視点

還付申請は労力もコストもかかるため、申請するかどうかは慎重な見極めが必要です。判断にあたっては、次の3点を整理しておくことをおすすめします。

  1. 還付見込額:証憑に不備があれば還付は否認され、部分的な還付にとどまります。自社の証憑がどの程度整っているかを確認し、現実的にどの程度の還付が見込めそうかを見積もります。実際に申請してみないと正確には分かりませんが、おおよその目星を付けておかないと検討が進みません。
  2. 事務コスト:還付申請と検証対応には、相当な労力がかかります。社内の担当者や経営陣が多くの時間を割くことになるため、概算でもよいので見込んでおく必要があります。
  3. 外部委託コスト:申請と検証対応は専門的な内容になるため、自社の社員だけで完結させるのは現実的ではありません。外部の専門家への委託が前提になりますが、高度かつスポットの依頼となるため、対応できる専門家は限られます。税務に強い弁護士事務所の場合、着手金・タイムチャージ・成功報酬(還付実現額の一定比率)といった構成で報酬が設定され、数十万ペソが下限となるケースが一般的です。

これらを総合的に考慮して、本当に還付申請をすべきかを判断します。事前の検証を怠ると、還付は受けられたものの、かかったコストの方が高くついた、という事態にもなりかねません。

一つの目安として、還付申請の対象となる超過Input VATが100万ペソに満たない場合は、申請すべきではないと考えるのが妥当でしょう。数百万ペソ規模の超過Input VATがあって、はじめて検討する価値が出てくる、という感覚です。

おわりに

超過Input VATは、まず翌期への繰り越しで対応するのが基本です。一時的な投資先行や短期の赤字であれば、これで十分に対処できます。一方、輸出型事業などで構造的に超過が積み上がる場合には、還付申請も選択肢に入りますが、リスクベース審査の導入で以前より処理が円滑になった面はあるとはいえ、なお相応の労力とコストを要します。申請の要否は、還付見込額・事務コスト・外部委託コストを天秤にかけて慎重に判断することが大切です。

超過Input VATの処理や還付申請の検討についてお悩みの際は、お気軽に弊社までご相談ください。