本記事では、源泉税の一種であるFinal Withholding Tax(最終源泉税)について、その仕組みと実務上押さえておくべきポイントを解説します。あわせて、国外からフィリピン向けの役務提供に対する課税判断をめぐる実務上の論点についても触れます。
最終源泉税とは
Final Withholding Tax(最終源泉税)とは、特定の所得支払いに対して課される源泉税の一種です。最大の特徴は、所得の支払者が税金を源泉徴収してBIRに納付した時点で、その所得に関する課税関係が完結(Final)するという点にあります。
通常、所得を受け取った者は年度末にIncome Tax Return(所得税申告書)を提出して税額を確定させる必要があります。しかし最終源泉税の対象となる所得については、Payer(所得の支払者)がWithholding Agent(源泉徴収義務者)として支払い時に所定の税率分を天引きしてBIRに納付すれば、Payee(所得の受領者)は別途確定申告を行う必要がありません。
この制度が設けられている理由は、BIRの徴税の確実性にあります。所得の受領者が個人であったり、フィリピン国外の法人であったりする場合、BIRがその受領者から直接かつ確実に税金を回収することには現実的な困難が伴います。そこで、通常フィリピン国内に所在する所得の支払者に源泉徴収義務を課すことで、確実な徴税を実現する仕組みです。
拡大源泉税との違い
フィリピンの税務を学ぶ日本人が最も混乱しやすいのが、Expanded Withholding Tax(拡大源泉税)との違いです。
拡大源泉税は「法人税の前払い」という性質を持ちます。源泉徴収された税額は、受取人が法人税申告時に前払い分として控除できます。国内のサービス取引を中心に幅広い取引が課税対象となっている点も特徴です。
一方、最終源泉税は源泉徴収の時点で課税関係が終了します。受取人は拡大源泉税と異なり、法人税から控除することはできません。課税対象も、配当・ロイヤルティ・銀行利息・フィリピン国外法人への支払いなどに限定されており、拡大源泉税よりも範囲が絞られています。
対象となる取引と税率
ここでは日系企業の実務で頻出する取引類型を取り上げます。なお、以下の税率はフィリピン国内法に基づく原則的なものであり、後述する租税条約の適用により軽減される場合があります。
Dividends(配当金)
フィリピン法人が配当金を支払う場合、受取人のステータスに応じた最終源泉税が課されます。
- フィリピン国外の法人(日本の親会社等):原則25%。日比租税条約適用時は10%への軽減が可能(条件あり)。
- フィリピン国内の法人:免税
- フィリピン国外の個人:原則25%
- フィリピン国内の個人:原則10%
Royalties(ロイヤルティ)
技術ノウハウ使用料、特許使用料、ブランド使用料、ソフトウェアライセンス料、フランチャイズ料などをフィリピン法人が支払う場合に課されます。
- フィリピン国外の法人(日本の親会社等):原則25%。日比租税条約適用時は10%への軽減が可能。
- フィリピン国内の法人:原則20%(受動的所得の場合。能動的所得の場合は通常の事業所得として取り扱う)
Interests(支払利息)
銀行利息・債券利息・親子ローン等の利息に対しても、受取人のステータスに応じた最終源泉税が課されます。
- フィリピン国外の法人(日本の親会社等):原則20%。日比租税条約適用時は10%への軽減が可能。
- フィリピン国内の法人:事業所得として取り扱うため最終源泉税の対象外
- フィリピン国外の個人:原則25%
- フィリピン国内の個人:原則20%
Branch Profit Remittance(支店利益送金)
フィリピン支店が蓄積した利益を本店(日本の本社等)に送金する場合、支店利益送金税という名目の最終源泉税が課されます。フィリピン現地法人の配当と類似した位置付けです。
- フィリピン国外の法人(日本の親会社等):原則15%。日比租税条約適用時は10%への軽減が可能。
フィリピン国外の法人による役務提供(国外への支払い)
フィリピン国外の法人がフィリピン国内の法人に対して役務(サービス)を提供した場合、その対価の支払いに最終源泉税が課されるケースがあります。ただし、この取引類型に関しては課税対象の判断が非常に複雑であり、詳細は後述します。
- フィリピン国外の法人(日本の親会社等):原則25%。日比租税条約適用時は免税となる場合あり。
所得支払者の対応事項
所得の支払者は、Withholding Agent(源泉徴収義務者)として源泉徴収を行い、BIRへの申告・納税義務を負います。これを怠った場合、所得の支払者にペナルティが課されます。
申告書式と期限は以下のとおりです。
- 月次申告:BIR Form 0619Fを使用。原則として翌月10日が期限(eFPS利用者は翌月15日)。
- 四半期申告:四半期終了月はBIR Form 1601FQを使用。あわせてアルファリスト(所得の受領者・取引情報の一覧)の提出が必要。
- 年次申告:BIR Form 1604Fを使用して年間のサマリーを提出。期限は翌年1月31日。
最終源泉税をどちらが負担するか
原則的な考え方
最終源泉税は、本来は所得の受領者が負担すべき税金です。所得の支払者はあくまで源泉徴収義務を担うだけで、税金そのものを負担するわけではありません。
具体例で整理すると、フィリピン法人が日本の親会社に対して配当100を支払う場合、原則税率25%を適用すれば、フィリピン法人は25を源泉徴収してBIRに納付し、残り75を日本の親会社に送金します。日本の親会社はフィリピン法人を通じて間接的に25を納税したことになり、追加の対応は不要です。この税金25はあくまで日本の親会社の負担であり、フィリピン法人が負担したわけではありません。
実務でよく起きるトラブル
しかし実務では、この税負担の帰属をめぐってトラブルになるケースがあります。
例えば、日本のコンサルティング会社A社(フィリピン国外法人)が、資本関係のないフィリピン法人B社に対してコンサルティングサービスを提供したとします。報酬は100、税率は原則25%とします。
B社の立場では、フィリピンの法律に従って25を源泉徴収・納付し、残り75をA社に送金します。「100のうち25を税金として納め、75を支払った」という認識です。一方A社の立場では、100を請求したのに75しか受け取れず、25が不足しています。「75しか支払われていない」という認識です。
どちらの主張も正当ではあるのですが、最終源泉税25の負担を事前に取り決めていなかったために見解の相違が生じてしまいます。取引額の25%という無視できない金額をめぐって、事後的にトラブルに発展するケースは珍しくありません。
トラブルを未然に防ぐために
最も重要なのは、取引開始前の契約書や見積書の段階で、最終源泉税をどちらの負担とするかを明確にしておくことです。双方が納得していない状態で取引を走らせるべきではありません。
親子会社間の取引であれば連結で考えれば大差はないため問題になりにくいのですが、資本関係のない取引では特に重要です。
グロスアップ計算
実務上は、所得の支払者(上記例ではB社)が最終源泉税を負担するケースも少なくありません。その場合はグロスアップ計算という特殊な計算が必要になります。
上記例で言えば、B社がA社に報酬100を送金したうえで、税負担もB社が持つとします。この場合、「源泉税25%を差し引いた後の75%が100に相当する」という論理になるため、本来の課税ベースは100 ÷ 75% = 133.33…と計算されます。そして133.33… × 25% = 33.33…が、B社がBIRに納付すべき最終源泉税の金額となります。
所得受領者の対応事項
所得の受領者側は、最終源泉税が控除された後の手取り額を受け取るのみで、特段の申告対応は求められません。最終源泉税が前提としている所得受領者は個人やフィリピン国外法人であるため、こうした仕組みが採用されています。
ただし、日比租税条約等に基づく軽減税率の適用を受けたい場合は、別途手続きが必要です。この手続きに際しては、所得受領者側も各種資料の提出を求められます。
国外からフィリピン向けの役務提供に対する課税
フィリピン国外法人からフィリピン国内法人向けに役務提供された場合の課税判断は、近年実務上の大きな論点となっています。いわゆるクロスボーダーサービスに対する課税の問題です。本件は経緯とともに理解する必要があるため、こちらの記事で詳細を解説しています。複雑な内容ですが、日系企業にとって非常に重要なテーマです。
なお、このクロスボーダーサービスに対する最終源泉税の課税については、専門家の間でも見解が分かれています。弊社の基本スタンスとしては、判断が難しいグレーな取引については課税対象外として取り扱うことを推奨するケースが多いです。その理由としては以下が挙げられます。
- 税務調査の実施および追徴課税の指摘はあくまでも確率の問題であること
- 保守的な課税処理は結果として税金の過払いになり得ること
- 抗弁の余地が十分に担保されていること
- 最悪のシナリオでペナルティを支払うことになっても、期待値で言えばより少額に収まること
おわりに
最終源泉税は、見落としや判断の難しい論点が多い税目です。税率も高く、取引の採算に与えるインパクトは小さくありません。仕組みを正しく理解したうえで、取引設計の段階から税負担の帰属を明確にしておくことが重要です。また、クロスボーダーサービスへの課税判断など、近年センシティブな動きが続いているテーマでもあるため、専門家と情報を共有しながら対応することをお勧めします。最終源泉税に関するご相談は、弊社までお気軽にお問い合わせください。