フィリピンでは、固定資産の会計処理について会社ごとに会計方針を定める裁量が大きく、日本のように税法で細部まで定められているわけではありません。本記事では、実務で必要な固定資産の計上基準・減価償却の考え方・残存価値や除却・売却の処理までをまとめます。

固定資産とは何か

固定資産とは、事業目的で使用するために保有し、1年を超えて使い続けることが見込まれる有形の資産のことです。会計・税務の世界では Property, Plant and Equipment(PPE)と呼ばれます。典型的な例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • オフィス家具・デスク・チェア
  • パソコン・プリンター・サーバーなどのIT機器
  • 車両
  • エアコン・冷蔵庫などの設備機器
  • 賃借オフィスの内装工事(Leasehold Improvement)

これらを「固定資産」として貸借対照表に計上し、使用期間にわたって少しずつ費用化(=減価償却)していくのが、会計の基本的な考え方です。

固定資産として計上する基準

金額で判断する

すべての購入品を固定資産に計上するわけではありません。一般的には、一定金額以上のものを固定資産、それ未満のものを消耗品費などの経費として処理します。

フィリピンでは、この金額基準(Capitalization Policy)を各社が自社の会計方針として設定します。実務上は数万ペソを目安とするケースが多いですが、会社の規模や業種によって異なります。重要なのは、一度決めた基準を一貫して適用することです。

規模が小さく、わざわざ独自の基準を策定するほどでもない場合——たとえば駐在員事務所や設立初期の小規模法人——は、親会社(日本本社)や関連会社の会計方針をそのまま横展開するのも実務上有効なアプローチです。グループ全体での財務報告の整合性が保たれるという利点もあります。

日本との違いとして、日本の税法では10万円未満の資産は全額損金算入(即時費用処理)、20万円未満は3年均等償却、30万円未満は中小企業に限り全額損金算入できるといった具体的な特例が税法で明確に定められています。フィリピンにはこのような明確な法的特例はなく、会社が合理的な方針を定めて継続適用することが求められます。

Leasehold Improvement(内装工事)の取り扱い

賃借しているオフィスや店舗に内装工事を施した場合、その費用はLeasehold Improvementとして固定資産に計上します。「借りているスペースへの工事だから資産ではない」と考えて費用処理してしまうケースがありますが、これは誤りです。

耐用年数は、リース契約の残存期間と工事の見積耐用年数のいずれか短い方を適用するのが原則です。たとえばリース残存期間が3年、工事の耐用年数が5年であれば、3年で償却します。

減価償却の考え方

基本的な仕組み

固定資産は購入した時点で全額を費用にするのではなく、使用する期間にわたって少しずつ費用化します。これが減価償却です。

計算式はシンプルです。

年間減価償却費 =(取得原価 ― 残存価値)÷ 耐用年数

たとえば、₱100,000のパソコンを耐用年数3年・残存価値₱10,000で償却する場合、年間の減価償却費は(100,000 − 10,000)÷ 3 = ₱30,000 となります。

残存価値について

残存価値(Residual Value)とは、耐用年数が経過した後に資産をまだ売却・処分できる場合に見込まれる回収可能額のことです。

フィリピンの会計基準では残存価値をゼロと設定することも認められており、実務上は残存価値をゼロとして計算するケースが大多数です。特に理由がない限り、残存価値はゼロで設定して構いません。

会計と税務を一致させる

フィリピンでは、会計上の減価償却年数と税務上の減価償却年数を一致させるのが実務上の標準的なアプローチです。両者を意図的に異ならせると、税効果会計の処理が必要になり、申告書の作成や外部監査での説明が複雑になります。特段の理由がない限り、会計と税務で同じ耐用年数・同じ償却方法を使用することを推奨します。

償却方法は定額法(Straight-line Method)が一般的です。毎年同額を費用計上する最もシンプルな方法であり、フィリピンでも大多数の企業が採用しています。

主要固定資産の耐用年数の目安

フィリピンの税法(National Internal Revenue Code、以下「NIRC(内国歳入法典)」)では、日本のように資産ごとに耐用年数を細かく定めた法定耐用年数表はありません。ただし、BIRの実務通達や過去の審決等を踏まえた業界慣行として、以下のような耐用年数が広く使われています。オフィス業務を中心とした法人における参考目安は以下のとおりです。

資産の種類耐用年数の目安
パソコン・ノートPC3年
プリンター・複合機3〜5年
サーバー・ネットワーク機器3〜5年
スマートフォン・タブレット3年
エアコン5年
冷蔵庫・電子レンジ等の設備5年
オフィス家具(デスク・チェア等)5〜10年
車両5年
Leasehold Improvement(内装工事)リース残存期間または5〜10年のいずれか短い方
建物(自社所有の場合)20〜40年

※ 上記はあくまで実務上の参考目安です。資産の実態・使用状況・社内方針に応じて合理的な耐用年数を設定してください。

残存価値・除却・売却の処理

除却(使えなくなった資産を帳簿から落とす)

資産が破損・老朽化などで使用できなくなった場合、帳簿から取り除く処理(除却)を行います。この際、帳簿価額(取得原価 − 累計減価償却額)が残っていれば、その金額を損失として計上します。

実務上よく見られる問題として、使用を停止した資産をそのまま固定資産台帳に残し続け、減価償却を続けてしまうケースがあります。すでに使用していない資産の償却費は税務上の損金として認められないリスクがあるため、使用を停止した時点で適切に除却処理を行うことが重要です。

売却(固定資産を売った場合)

固定資産を第三者に売却した場合、売却価額と帳簿価額の差額が売却損益として損益計算書に計上されます。

売却益/損 = 売却価額 ― 帳簿価額(取得原価 − 累計減価償却額)

売却益が生じた場合は課税所得に含まれます。一方、売却損は税務上の損金として認められる場合があります。なお、不動産(土地・建物)の売却についてはCapital Gains Tax(キャピタルゲイン税)の対象となるため、通常の固定資産売却とは扱いが異なります。

固定資産台帳(Fixed Asset Register)の整備

固定資産の管理において、固定資産台帳(Fixed Asset Register)の整備は必須です。Excelや会計ソフト上で、少なくとも以下の情報を資産ごとに記録・管理してください。

  • 資産名・資産番号
  • 取得日・取得原価
  • 耐用年数・残存価値
  • 年間減価償却費・累計減価償却額
  • 帳簿価額(残存価額)
  • 除却・売却日(該当する場合)

税務調査では、減価償却費の根拠として固定資産台帳の提示を求められることがあります。台帳が整備されていないと、計上した減価償却費が否認されるリスクがあります。台帳は常に最新の状態に保つよう心がけてください。

おわりに

固定資産の会計処理は、一つ一つの金額が大きく、複数年にわたって財務諸表に影響し続けます。日本のように税法で細部まで定められているわけではないフィリピンでは、会社として合理的な会計方針を定め、それを一貫して適用することが、適正な財務報告と税務申告の両立につながります。

固定資産の計上基準の設定、固定資産台帳の整備、減価償却年数の見直しなど、固定資産管理に関するご相談は弊社までお気軽にお問い合わせください。