フィリピンへの進出を検討する際、または現地法人の設立準備を進める中で、避けては通れないのが「外資規制」の問題です。本記事では、フィリピン進出の可否を左右する外資規制の仕組みと、実務的な対応策について解説します。

フィリピンにおける外資規制とは

Foreign Equity Restrictions(外資規制)とは、外国人がフィリピン国内で事業を行う際、特定の業種において株式の保有比率(議決権)を制限するルールのことです。フィリピンにおいて外資規制が設けられている背景には、大きく分けて2つの理由があります。

  1. 国家資産と安全保障の確保
    1987年憲法には、「土地や天然資源はフィリピン国民の共有財産である」という強い思想(National Patrimony)が反映されています。そのため、土地の所有や資源開発、世論に影響を与えるマスメディアなどは、外国人の支配から守るべき領域とされています。
  2. 国内産業の保護
    圧倒的な資金力を持つ巨大な外国資本が参入することで、地場のフィリピン企業(特に中小企業)が淘汰されてしまうのを防ぐ目的があります。

一方で、フィリピン政府は外国からの投資を積極的に誘致する姿勢も強めています。外国企業の資本や先進的な技術を取り入れることは、フィリピン国内における雇用創出や、経済全体の持続的な発展に不可欠だからです。そのため、現在は Foreign Investments Act(外国投資法)に基づき、ネガティブリストに記載された特定の業種を除き、原則として外資100%での出資が可能という方針が採られています。

実務上の最初のステップは、進出予定のビジネスが「例外(ネガティブリスト)」に該当するかどうかを確認することから始まります。

外資規制の法的根拠とネガティブリスト

外資規制は単一の法律で決まっているわけではなく、以下の3層構造で成り立っています。

まず最上位に位置するのが、1987年フィリピン共和国憲法です。土地の所有、天然資源の開発、マスメディア運営など、国家の根幹に関わる分野について外国人による支配を制限しており、これが規制の最上位概念となっています。

次に、個別の特別法(Specific Laws)があります。小売業自由化法や公共サービス法など、特定の業界ごとに定められた法律で外資比率が規定されています。

そして、これら憲法や個別法の規定をまとめて投資家向けに一本化したリストが、Foreign Investment Negative List(以下「ネガティブリスト」)です。ネガティブリストは、Foreign Investments Act(外国投資法)第8条に基づき、Department of Economy, Planning, and Development(経済計画開発省)の勧告を受けて大統領が定期的に改訂・公布するものです。

2026年4月13日、マルコス大統領は Executive Order No. 113(大統領令第113号)に署名し、第13次ネガティブリストを公布しました。同令は公布から15日後に施行されています。本記事では、特に日系企業に関連する項目に絞って解説します。全項目の参考日本語訳については、別記事「Negative List(第13次 外国投資ネガティブリスト)」をあわせてご参照ください。

ネガティブリストの主な内容

ネガティブリストは、List A(憲法および個別法による規制)とList B(安全保障・国防・公衆衛生・道徳・中小企業保護を理由とした規制)の2つのパートで構成されています。リストに記載されていない業種については、原則として外資100%での参入が認められます。

外資参入が禁止されている分野(外資0%)

以下の業種は、憲法または個別法により外国人の出資が一切認められていません。日系企業の進出検討においても関係しうる主な項目は以下の通りです。

  • マスメディア(録音・録画、インターネット事業を除く):テレビ・ラジオ放送、新聞などは外資参入不可です。ただし、インターネットのみを利用したメディア事業やプラットフォームビジネスは規制対象外とされており、100%外資での参入が可能です。
  • 建築士としての法人業務:ただし、互恵主義に基づき実務を行うことが認められた外国人有資格者は、同一職種の法人に出資できる場合があります。
  • 民間警備業:自社ビルや工場の警備員を「自社雇用」することはできません。必ず現地の警備会社(100%フィリピン資本)と契約する必要があります。

なお、弁護士・公認会計士・エンジニア・医師・看護師・教員などの専門職ライセンスを要する業務については、個別法および資格制度上の制約から、原則としてフィリピン国籍者のみに実務が許されています。企業として専門家を雇用してサービスを提供する場合(BPOなど)は例外となるケースがありますが、業種ごとに確認が必要です。

外資出資が25%までに制限される分野

  • 民間人材紹介業(リクルートメント):国内雇用・海外就労を問わず、現地での雇用斡旋や海外への労働者派遣(OFW送出し機関)を行う場合が該当します。
  • 防衛関連施設の建設工事

外資出資が30%までに制限される分野

  • 広告業:広告代理店や広告制作会社が該当します。日系広告代理店が進出する際の大きなハードルとなっています。

外資出資が40%までに制限される分野

  • 私有地の所有 最も相談が多い項目です。法人は土地を所有できませんが、コンドミニアム区分所有権については、プロジェクト全体の40%までなら外国人が所有可能です(第13次ネガティブリストで明示)。不動産開発業も通常はこの規制に抵触します。
  • 公益事業の運営 2022年の Public Service Act(公共サービス法)改正により「公益事業(Public Utility)」の定義が大幅に狭まっています。
    • 規制対象(40%制限): 送配電、送油管、水道・下水システム、港湾、公共車両(ジープニー等)の6分野。
    • 規制対象外(100%可): 通信(Telecommunication)、航空、海運、鉄道など。これらは「公共サービス(Public Service)」として区別され、外資規制が撤廃されました。
  • 教育機関 学校運営など。ただし、宗教団体・ミッション系、外国外交官とその家族向け、その他外国の一時居住者向けの学校、および短期高度技能開発を目的とする正規教育に含まれない機関は規制対象外です。
  • 天然資源の探査・開発・利用 鉱山開発、林業、漁業などが該当します。再生可能エネルギー(太陽光・風力など)については、2022年に規制が緩和され、条件付きで100%外資が認められます。
  • サウナ、マッサージクリニック等 ウェルネス・スパ事業などは、公衆衛生や道徳の観点から規制対象です。
  • 払込資本金が2,500万ペソ未満の小売業 2022年の小売業自由化法(RTLA)改正により、最低資本金要件が大幅に引き下げられました。2,500万ペソ(約6,500万円前後)以上の資本金を用意できれば、小売業(飲食店含む)でも外資100%での設立が可能です。
  • 払込資本金が20万米ドル未満の国内市場向け企業 【最重要】これが日系中小企業にとって最大のハードルとなる「最低資本金規制」です。 輸出を行わず、フィリピン国内でサービスや商品を販売する企業(Domestic Market Enterprise)は、資本金20万米ドル(約3,000万円前後)以上を払い込まない限り、外資比率を40%以下に抑えなければなりません。
    ※先端技術企業としての認定や、50名以上の直接雇用を行う場合は、資本金要件が10万米ドルに引き下げられますが、そのような規模の事業を行う前提であればあまり関係ないと思われます。

物流業の外資規制

物流業は、2022年の公共サービス法改正により、最も大きくルールが変わった分野の一つです。「物流」と一口に言っても、具体的に「何を・どう運ぶか」によって、100%外資でできることと40%規制が残ることに分かれます。したがって、物流業での進出を検討する場合は、「自社の業務のうち、どの部分が規制対象に該当するか」を事前に精査することが不可欠です。

外資100%参入が可能になった分野

  • 国内海運(Domestic Shipping): 船舶による島間輸送。
  • 航空輸送(Air Carriers): 航空貨物や旅客。
  • 鉄道(Railways / Subways)
  • 国際フォワーディング(International Freight Forwarding): 以前から可能でしたが、改めて規制対象外であることが明確化されています。
  • 倉庫業(Warehousing): 土地を所有せず、賃貸倉庫で運営する限り、資本金要件を満たせば100%外資で可能です。
  • 宅配便(Express Delivery / Courier): 最新の法解釈では、宅配便事業自体はPublic Utilityリストに含まれないため、100%外資でのライセンス取得が可能とされています。

依然として外資規制(40%上限)が残る分野

一方で、以下の分野は憲法上の「公益事業(Public Utility)」として残されたため、引き続き厳しい規制がかかります。

  • 公共車両(Public Utility Vehicles – PUV)による運送 これが最大の注意点です。トラック、バス、ジープニーなどを使って、**「運賃をもらって他人の荷物を運ぶ行為(Trucking for Hire)」**は、依然として40%規制の対象です。 LTFRB(陸運フランチャイズ規制委員会)から営業用ナンバー(黄色/緑ナンバー)を取得する必要がある事業は、外資40%までしか認められません。
  • 港湾の運営

外資規制への実務的な対応策

検討している事業が外資規制に抵触する場合、実務的には以下の対応策が取られるケースが多いです。

① 現地パートナーとの合弁会社(Joint Venture)

信頼できるフィリピン資本の企業や個人と提携し、合弁会社を設立する方法です。フィリピン側60%以上・日本側40%以下の出資比率とし、その割合に応じた議決権および取締役の任命を行うことになります。現地パートナーの人脈やノウハウを活用でき、特に不動産開発や小売業などで多く見られる形態です。経営権(議決権)の過半数を握れないため、そのリスクを十分に承知したうえで、信頼できるパートナーが見つかることが大前提となります。

② フランチャイズ・ライセンス契約の活用

特に飲食業において、最低資本金(2,500万ペソ)の準備が難しい場合や、オペレーションの構築が難しい場合に有効な選択肢です。日本側が直接出資して「直営店」を作るのではなく、フィリピン資本の別法人(パートナー)に対してブランド・ノウハウ・商標・技術などの使用権を与え(ライセンス)、その対価としてロイヤリティを受け取るビジネスモデルです。フィリピンで展開する日系チェーン飲食業の多くがこの方法を採用しています。

店舗のオーナーはあくまで「100%フィリピン資本の企業」となるため、外資規制(資本金要件)の問題が生じません。日本側としても、資本投下リスクを抑えつつフィリピン市場へのブランド展開が可能です。ただし、店舗オペレーションや品質管理(ブランドイメージの保持)が相手任せになりやすいため、マニュアルの徹底や定期的な指導を含む、強固な契約内容の設計が重要です。

③ 業務の切り分けと外注の活用

「規制対象となる業務」と「規制対象外の業務」を明確に切り分け、規制対象部分は現地のライセンス保持企業へ外注(アウトソーシング)する方法です。例えば物流業であれば、フォワーディングや倉庫管理は自社で行い、トラック配送(実運送)のみを現地運送会社へ委託することで、100%外資での進出が可能になります。

④ フィリピン人配偶者名義の活用

フィリピン国籍の配偶者がいる場合、配偶者を名義人として事業を行うケースです。配偶者が株式を保有することで、形式的には外資規制を回避することが可能です。ただし、事業資産は「夫婦共有財産」とみなされる点に注意が必要です。万が一の離婚や死別、または親族間トラブルが発生した際、ビジネスの継続が困難になるリスクがあります。

またこのような場合、フィリピン人配偶者が法的な「社長」となり、実質的な出資者兼経営者は「代表」「CEO」「Managing Director」など、任意の役職名を名乗っています。

⑤ 名義借り【非推奨】

過去に多くの中小企業が選択し、現在大きな問題となっているのが「名義借り」です。実質的な出資金はすべて日本側が出しているにもかかわらず、書類上だけフィリピン人の名前を借りて株主とし、表面上「内資60%:外資40%」に見せかける手法です。この手法には、極めて高いリスクが存在します。

  • Anti-Dummy Law(アンチダミー法)違反 名義借りは明確な犯罪行為です。発覚した場合、外国人投資家だけでなく、名義を貸したフィリピン人・関与した役員に対しても刑事罰が科されます。また、会社資産の没収や外国人の国外追放処分の対象となります。
  • 乗っ取りリスク 「名義を借りているだけ」という裏の覚書(Counter Deed)を作成していたとしても、それが違法行為に基づくものである以上、法廷では無効とされるケースがほとんどです。名義人が「私は法的な株主だ」と権利を主張し始めると、日本側は会社を乗っ取られることになります。

弊社では、コンプライアンスの観点から、名義借りによる法人設立は一切推奨しておりません。

おわりに

フィリピンの外資規制は、単なる手続き上のハードルではなく、事業の永続性を左右する重要な要素です。2022年以降の法改正(小売業自由化法・公共サービス法の改正)や、2026年4月施行の第13次ネガティブリスト(Executive Order No. 113)により規制緩和が進んでおり、正攻法で100%外資設立ができるチャンスは以前より広がっています。また、規制業種であっても、業務プロセスを整理して「外注」や「ライセンス契約」をうまく活用することで、安全にビジネスを展開するスキームは存在します。

個別の業種がネガティブリストに該当するかどうかの判断や、規制に対応した法人設立スキームの検討については、弊社までお気軽にご相談ください。