Fringe Benefit Tax(FBT、フリンジベネフィット税)は、日本には存在しないフィリピン固有の税金です。管理職に対して会社が現物給与(フリンジベネフィット)を提供した場合に課されるもので、個人ではなく会社側が納税義務を負う点が最大の特徴です。
この税目は、フィリピンの税務調査で指摘が入りやすい項目の一つです。日系企業では制度の存在自体を把握していないケースが多く、結果として申告漏れが発生しています。駐在員に住居や車を提供している会社であれば、まず自社の対応を確認してください。
フリンジベネフィット税とは
Supervisor以上の役職(管理職)に対して会社が現物給与を支給した場合に課される税金です。現物給与の典型例としては、駐在員用のコンドミニアム、社用車や専属ドライバー、帯同家族の渡航費、子女の学費などが挙げられます。現物支給したモノやサービスの金銭的価値をもとに、グロスアップ計算で税額を算出します。
この制度が設けられた背景には、現金給与の代わりに現物給与として支給した場合、個人所得税の捕捉対象から外れてしまうという制度的な穴があります。給与の支給方法を決定できる立場にある管理職が、現物給与の比率を高めることで所得税を意図的に回避できてしまうわけです。これを防ぐ仕組みとして、個人所得税の代替的な位置付けでフリンジベネフィット税が設けられています。個人所得税は従業員本人が負担するのに対し、フリンジベネフィット税は支給した会社側が負担する点が異なります。
対象となる従業員
Supervisor以上の管理職に対する現物支給が対象です。Rank & File(非管理職)への現物支給はフリンジベネフィット税の対象外となります。日本人従業員の場合はSupervisor以上のポジションであるケースが大半のため、実務上はほぼすべての現物支給がフリンジベネフィット税の対象になると考えておくべきです。
対象となるフリンジベネフィットの例と評価ルール
課税対象となる現物支給とその評価方法は、以下のとおり例示されています。例示にない場合でも、性質が同等であれば課税対象となります。原則は会社負担額の100%が評価額となりますが、住居と車両については50%評価という優遇があります。
- Housing(住居費):リース料の50%
- Expense account(経費口座):従業員名義での交際費その他の100%
- Vehicle of any kind(車両費):リース料の50%
- Household personnel(家事使用人):メイド・ドライバー等、会社負担額の100%
- Interest on loan at less than market rate(低利融資):基準金利12%と実際の金利の差額
- Membership fees, dues(会員権・会費):会社負担額の100%
- Expenses for foreign travel(海外渡航費):会社負担額の100%
- Holiday and vacation expenses(休暇費用):会社負担額の100%
- Educational assistance(子女教育支援費用):会社負担額の100%
- Life or health insurance(生命保険・健康保険料):法定限度超過分の100%
※会社所有の資産を貸与する場合もフリンジベネフィット税の課税対象ですが、ここでは割愛します。
フリンジベネフィット税の計算方法
計算式
フリンジベネフィット税額 = 評価額 ÷ 65% × 35%
計算の手順はやや独特で、まず評価額を65%で割り戻し(グロスアップ)、そこに35%を乗じて税額を算出します。
この計算式の意味を理解しておくと実務の整理がしやすくなります。住居費などは本来、従業員が自分の手取り給与から支払うものです。そのため、会社が負担した評価額を「税引き後の手取り給与」とみなし、「では税引き前の課税所得はいくらだったか」を逆算する目的で65%(=1−35%)で割り戻しています。そして算出した課税所得に35%を乗じることで、「現金で支給していたとしたら本来かかっていたであろう所得税」に相当するフリンジベネフィット税額を求める、という構造です。管理職は高所得者と想定されるため、最高税率の35%が一律適用されます。
計算の手順
ステップ1:評価額の算定
現物給付の金銭的価値(評価額)を算出します。原則は会社負担額の100%ですが、住居・車両については50%が評価額となります。例えば月額Php100,000のコンドミニアムを会社が負担している場合、評価額はPhp50,000です。
ステップ2:グロスアップによる課税価額の算定
評価額を65%で割り戻して課税価額を算出します。上記の例ではPhp50,000 ÷ 65% = Php76,923となります。
ステップ3:フリンジベネフィット税額の算定
課税価額に35%を乗じます。Php76,923 × 35% = Php26,923がフリンジベネフィット税額となります。
フリンジベネフィット税の申告・納税
四半期ごとに申告・納税します。申告書式はBIR Form 1603Qを使用し、期限は四半期終了後の翌月末です。例えば1〜3月に生じた現物給付は、翌4月30日までに3か月分をまとめて申告・納税します。
その他知っておくべきポイント
日本本社が駐在員にフリンジベネフィットを付与した場合
フリンジベネフィット税の納税義務者は、現物給付を行った会社です。フィリピン法人(支店・駐在員事務所含む)はBIR登録済みのため申告・納税に支障はありません。問題になるのは、日本本社のようにフィリピン非居住法人が直接駐在員に現物給付をするケースです。この場合、BIR登録がないため申告・納税ができないという状況が生じます。対応策は以下の2つです。
① フィリピン法人が「見なし支給」として代理納税
駐在員の出向先であるフィリピン法人(支店・駐在員事務所含む)が、「日本本社の代わりに現物給付をしたと見なして」フリンジベネフィット税を申告・納税し、そのコストを日本本社に請求する方法です。例えば駐在員のコンドミニアムを日本本社名義で契約していても、フィリピン法人が契約したと見なして申告・納税します。
② 「駐在員への追加給与と見なし」確定申告で所得税を納税
日本本社からの現物給付を「追加的な給与」と位置付け、駐在員の個人所得税として処理し確定申告で納税する方法です。駐在員の所得税は会社負担とするケースが大半のため、フリンジベネフィット税と同様にグロスアップ計算で所得税額を算出します。確定申告のみで完結するため手続きとしてはシンプルです。
事業用途と私用が混在する場合
現物給付であっても、事業目的であればフリンジベネフィット税の対象外、私用目的であれば対象となります。現実には両方が混在するケースが少なくありません。例えば社用車を平日は業務に使用し、週末はゴルフやプライベートに利用するといったパターンです。この場合、原則として私用扱いとするか、私用が限定的であれば50%分のみを私用扱いとしてフリンジベネフィット税を申告・納税することが推奨されています。
給与支給とフリンジベネフィットのどちらが得か
「現金で給与を支給するのと、現物で支給するのはどちらが税負担として有利か」という質問をよく受けます。前提として、いずれも手取り保証(所得税は会社負担)の条件での比較です。
一概に言い切れる問いではありませんが、評価額が100%となる費用(交際費、渡航費など)については概ね給与支給の方が税負担が軽くなる傾向があります。一方、評価額が50%となる住居費や車両費については、現物支給によってフリンジベネフィット税を納付した方が若干有利になりやすい面があります。ただし差額は誤差程度であり、この税負担の大小を意思決定の主要な根拠にする必要はないでしょう。駐在員の生活環境や管理のしやすさといった実務上の観点を優先して判断することをお勧めします。
おわりに
フリンジベネフィット税は仕組みこそシンプルですが、「自社がどの現物給付に対して申告できているか」を改めて確認してみると、漏れが見つかるケースは珍しくありません。駐在員に住居や車両を提供している会社は、特に日本本社名義での契約がある場合の取り扱いを含め、一度整理しておくことをお勧めします。フリンジベネフィット税に関するご相談は、弊社までお気軽にお問い合わせください。