フィリピンで法人を設立して従業員を雇用する場合、個人所得税の仕組みを正しく理解しておくことは不可欠です。給与水準の設計や福利厚生の組み立て方にも影響するため、人事・経理担当者だけでなく経営者にも知っておいてほしい知識です。本記事では、所得税率の仕組みから課税所得の計算方法、具体的な計算例まで解説します。

所得税率テーブル

個人所得税は、年間の課税所得に応じて以下の6段階の超過累進税率で計算します。2018年1月に施行された税制改革第1弾(TRAIN法)により税率の大幅な見直しが行われ、2023年1月からは最終段階の税率が適用されています。

Tax Bracket
(課税区分)
Taxable Income
(課税所得)
Income Tax Rate
(所得税率)
区分-1₱250,000以下0%
区分-2₱250,000超〜₱400,000以下₱250,000超過分の15%
区分-3₱400,000超〜₱800,000以下₱400,000超過分の20% + ₱22,500
区分-4₱800,000超〜₱2,000,000以下₱800,000超過分の25% + ₱102,500
区分-5₱2,000,000超〜₱8,000,000以下₱2,000,000超過分の30% + ₱402,500
区分-6₱8,000,000超₱8,000,000超過分の35% + ₱2,202,500

課税所得₱250,000までは非課税で、₱250,000を超えた部分から15%の税率がかかります。日本と単純比較はできませんが、相対的に低い所得水準から課税が始まる点が特徴です。一方で最高税率は35%であり、日本(最高45%+住民税10%)と比べると最高税率は低くなっています。

フィリピンで勤務する日本人(駐在員・現地採用)の場合、多くのケースで区分-5または区分-6に該当します。

所得税の計算方法

ここからは、所得税の計算方法について紹介します。所得税を計算する際は、まず始めに「課税所得」を算出し、それに所得税率を乗じて算出します。それぞれ、以下でもう少し詳しく見ていきます。

「課税所得」の計算

課税所得は、総所得から以下の非課税項目を差し引いて求めます。

  • 社会保険料の従業員負担分:Social Security System(社会保険)・PhilHealth(国民健康保険)・Pag-IBIG Fund(住宅積立基金)の各従業員負担分
  • 少額手当(De Minimis Benefit):後述する各手当の非課税上限内の金額
  • 法定の13か月目給与およびその他手当:非課税上限₱90,000/年以内の金額

これらを合計しても、控除できる最大額はおおよそ₱200,000/年程度です。

フィリピンには、日本のような基礎控除・給与所得控除・扶養控除に相当する制度がありません。そのため、総所得のほとんどがそのまま課税所得になります。日本と同額の給与を受け取っていても、フィリピンの方が課税所得ははるかに高くなるため、税率の数字以上に実際の税負担が重くなる傾向があります。

所得税額の計算

課税所得が確定したら、上記の税率テーブルに当てはめて所得税額を算出します。「課税所得 × 税率」という単純な掛け算ではなく、各区分の下限額を超えた部分に税率を乗じ、それに固定の累積税額を加算するという仕組みです。

少額手当(De Minimis Benefit)

少額手当(De Minimis Benefit)とは、BIRが定める非課税の少額給付制度です。以下の各手当について、規定の上限金額内であれば所得税が課されません。

この制度を活用し、給与の一部を少額手当に組み替えることで、従業員の手取り額を増やしつつ会社の社会保険料負担を抑えることが可能です。ただし、導入にあたっては各手当に細かな規定があること、一度設けた手当は原則として減額・廃止ができないことに注意が必要です。

なお以下の上限金額は、BIR Revenue Regulations No. 29-2025(2025年12月22日発布、2026年1月6日施行)に基づく最新の数値です。

手当内容手当上限金額
a. 従業員の未利用有給休暇の買取(管理職除く)12日以内 / 年
b. 政府職員に付与された有給休暇・病気休暇の買取省略
c. 従業員扶養家族向け医療費現金手当₱2,000 / 半期(₱333 / 月相当)
d. お米手当₱2,500 / 月(または50kg入り1袋)
e. ユニフォーム・衣服手当₱8,000 / 年
f. 医療費実費補助₱12,000 / 年
g. 洗濯手当₱400 / 月
h. 従業員表彰記念品(現金・商品券以外の現物)₱12,000相当 / 年
i. クリスマス・記念日ギフト₱6,000 / 年
j. 時間外勤務に対する日次食事手当地域最低賃金の30%
k. 団体交渉協約(CBA)・生産性向上奨励金制度による報奨金合計₱12,000 / 年

なお少額手当は、13か月目給与の₱90,000非課税枠とは別枠で非課税となります。上限内であれば、₱90,000の枠を消費することなく非課税の恩恵を受けられる点が重要です。

所得税の計算例

以下は、計算の手順とイメージをつかむための概算例です。社会保険料の金額は拠出率・拠出上限の変更により変わることがあるため、あくまで目安としてご活用ください。

ケース①(月収₱30,000・スタッフレベルのイメージ)

  • 総所得(年間):₱360,000(₱30,000 × 12か月)
  • 社会保険料の従業員負担分:₱26,400(SSS ₱16,200 + PhilHealth ₱9,000 + Pag-IBIG ₱1,200)
  • 少額手当(上限金額内):₱34,800(米手当₱2,500 + 洗濯手当₱400 × 12か月)
  • 13か月目給与:₱30,000(非課税枠₱90,000以内)

〔課税所得〕₱360,000 − ₱26,400 − ₱34,800 − ₱30,000 = ₱268,800(区分-2)

〔年間所得税〕(₱268,800 − ₱250,000) × 15% = ₱2,820(月額約₱235)

ケース②(月収₱100,000・マネージャーレベルのイメージ)

  • 総所得(年間):₱1,200,000(₱100,000 × 12か月)
  • 社会保険料の従業員負担分:₱50,100(SSS ₱18,900 + PhilHealth ₱30,000 + Pag-IBIG ₱1,200)
  • 少額手当(上限金額内):₱54,800(米手当₱30,000 + ユニフォーム手当₱8,000 + 医療費実費補助₱12,000 + 洗濯手当₱4,800)
  • 13か月目給与:₱100,000のうち非課税枠₱90,000のみ控除

〔課税所得〕₱1,200,000 − ₱50,100 − ₱54,800 − ₱90,000 = ₱1,005,100(区分-4)

〔年間所得税〕(₱1,005,100 − ₱800,000) × 25% + ₱102,500 = ₱153,775(月額約₱12,815)

ケース③(月収₱400,000・日本人駐在員のイメージ)

日本人駐在員で、出向元の日本法人と出向先のフィリピン法人から支給される給与が、年間で₱4,800,000程度となるケースを想定したシミュレーションです。実務上は、会社側が所得税を負担するケースが多いため、その場合はグロスアップ計算によりさらに膨らむことになります。

  • 総所得(年間):₱4,800,000(₱400,000 × 12か月)
  • 社会保険料の従業員負担分:₱30,000(PhilHealth のみ)
  • 少額手当(上限金額内):₱45,000
  • 13か月目給与:₱400,000のうち非課税枠₱90,000のみ控除

〔課税所得〕₱4,800,000 − ₱30,000 − ₱45,000 − ₱90,000 = ₱4,635,000(区分-5)

〔年間所得税〕(₱4,635,000 − ₱2,000,000) × 30% + ₱402,500 = ₱1,193,000(月額約₱99,417)

源泉徴収と年末調整

従業員を雇用するフィリピン法人は、給与支給のたびに所得税を源泉徴収し、Bureau of Internal Revenue(以下「BIR」)に申告・納付する義務があります。月2回の給与支給時および賞与支給時に源泉徴収を行い、年末に年末調整を実施することで、その年の所得税納付が完結します。年末調整後、フィリピン法人から従業員に対してBIR Form 2316(源泉徴収票)が発行されます。

なお年の途中で退職する場合も基本的な流れは同じで、退職のタイミングで年末調整に準じた精算処理を行い、源泉徴収票を発行します。退職した従業員は、その源泉徴収票を次の勤務先に提出し、次の会社側で改めて年末調整が行われます。

確定申告

上記の源泉徴収・年末調整で所得税の納付が完結するのは、フィリピン法人からの給与のみを受け取っているケースです。日本本社からも給与を受け取っている駐在員などは、源泉徴収の対象外となる所得があるため、別途確定申告が必要となります。

確定申告では、フィリピンで所得税の対象となるすべての所得を合算して税額を計算し、源泉徴収済みの税額を差し引いた差額を申告・納付します。詳細については、別記事「駐在員の確定申告」をご参照ください。

おわりに

個人所得税は、給与設計や福利厚生の組み立て方によって従業員の手取り額が大きく変わります。De Minimis Benefitの非課税枠を正しく活用することで、従業員の実質的な処遇改善とコスト最適化を同時に実現できます。一方で、制度の適用には細かな要件があり、誤った運用は税務リスクにつながる可能性もあります。

個人所得税の計算・源泉徴収・年末調整の実務については、当社にお気軽にご相談ください。