VATの納税額は、預かったOutput VATから支払ったInput VATを差し引いて計算します。このInput VATを控除できるかどうかは、手元の証憑がBIRの定める要件を満たしているかにかかっています。そして証憑のルールは、2024年に施行されたEOPT法によって大きく変わりました。本記事では、この制度変更の中身、すなわちInvoiceとORの位置づけがどう変わったのかを解説します。

なお、受け取ったInvoiceを実際にどう確認すればよいかという受領時のチェック実務は、別記事「請求書を受け取った際にチェックすべきポイント」で具体的に取り上げています。本記事は制度の背景と考え方の整理に重点を置いていますので、あわせてご覧いただくと理解が深まります。VATの全体像については「これだけは押さえたいVATの基本」もあわせてご覧ください。

なぜ証憑が控除の前提になるのか

Input VATの控除は、形式要件を満たした証憑があって初めて認められます。実際に代金を支払い、VATを負担していたとしても、証憑が要件を満たしていなければ控除は認められません。控除できないInput VATはそのまま納税額の増加につながり、場合によっては法人税の損金算入まで否認されることもあります。

フィリピンの税務では、この形式要件が日本以上に厳しく運用されます。取引の実態があれば控除できるはず、という感覚は通用しにくく、書類そのものが整っているかどうかが問われます。だからこそ、どのような書類が正規の証憑になるのかという制度の理解が、実務上不可欠です。

EOPT法による証憑制度の変更

証憑制度は、2024年に施行されたEase of Paying Taxes Act(EOPT法、納税容易化法。RA 11976)によって大きく変わりました。これを受けてBIRが発出したRR No. 7-2024(2024年4月27日施行)と、その経過措置を修正したRR No. 11-2024が、現在の実務の根拠になっています。

最大の変更点は、Invoice(請求書)が、モノ・サービスのいずれの取引でも正規証憑として位置づけられたことです。それまでサービス取引では、後述するOR(Official Receipt、公式領収書)が正規証憑として扱われていましたが、EOPT法はこれをInvoiceに一本化しました。Input VATの控除も、売り手のOutput VATの計算も、このInvoiceを基礎として行われます。

なお、制度の細部は通達の改正や経過措置の延長によって動いてきた経緯があります。本記事は執筆時点の整理であり、最新の取り扱いはBIRの公表情報もあわせてご確認ください。

正規証憑となる「Invoice」とは

正規証憑となるのは、BIRの認定を受けたInvoiceです。名称はSales Invoice、Billing Invoice、Service Invoiceなどさまざまで、事業者が自由に決められますが、いずれの場合も「Invoice」という文言が含まれていることが要件になります。逆に、Billing StatementやStatement of Accountといった名称の書類は、この要件を満たさないため正規証憑として認められません。会計システムやExcelから独自に作成しただけの請求書も同様です。

つまり、同じ「請求書」に見える書類でも、Input VATの控除に使えるものとそうでないものがあります。受け取った書類が要件を満たしているかをどう見分けるか、記載事項に抜けがないかをどう確認するかといった具体的な手順は、別記事「請求書を受け取った際にチェックすべきポイント」で詳しく解説しています。

ORの位置づけの変更

EOPT法の施行前は、サービス取引においてORが正規証憑として機能していました。この慣習が長く続いていたため、「ORさえあれば問題ない」と考えている方は今でも少なくありません。フィリピンでのビジネス経験が長い方ほど、その傾向が見られます。

しかし現在は、ORは正規証憑の位置づけを失い、補助証憑(Supplementary Document)へと変わりました。代金を受け取ったことを示す書類としての役割は引き続き持ちますが、Input VATの控除にはORだけでは足りません。サービスの対価を支払った場合でも、控除のためには必ずInvoiceを取得する必要があります。長年の慣行を前提にしていると見落としやすい部分なので、社内で改めて共有しておくとよいでしょう。

経過措置と未使用ORの取り扱い

制度の切り替えにあたっては、手元に残った未使用のORについて経過措置が設けられました。未使用・未発行のORは、「Official Receipt」の文言を抹消して「Invoice」等のスタンプを押すことで、一定期間まで正規証憑として転用することが認められました。その期間を過ぎたものは、補助証憑としてのみ使用できる扱いになっています。

また、補助証憑として使い続ける場合には、「This document is not valid for claim of input tax(Input VATの控除には使用できない)」の文言を書類面に記載することが求められます。この記載がある書類は、控除には使えません。

この経過措置の期限は、通達の改正によって複数回延長されてきました。現時点では細かい日付を追うよりも、Invoiceが正規証憑であり、ORは補助証憑である、という原則を押さえておくことが実務では大切です。

サプライヤーへの差し替え依頼

取引先から受け取った書類が正規証憑の要件を満たしていない場合は、BIR認定のInvoiceへの差し替えを依頼することになります。要件を満たさない書類の発行には罰則(おおむね1,000ペソから50,000ペソ)が定められており、これは差し替えを求める際の根拠にもなります。

一方で、追徴課税のリスクを負うのは、控除を否認される買い手の側です。BIR認定のInvoiceを正しく発行することは売り手の義務であり、買い手がその発行を求めるのは当然のことです。取引先との関係に配慮しつつ、必要な是正は遠慮なく依頼していくのが現実的です。

おわりに

EOPT法によるInvoice制度への移行は、長年の慣行を前提にしているとつまずきやすい部分です。正規証憑はInvoiceであること、ORは補助証憑にとどまること、この原則を押さえておくだけでも、証憑をめぐるリスクは大きく下がります。そのうえで、個々のInvoiceを受領時にどう確認するかは「請求書を受け取った際にチェックすべきポイント」で具体的に確認していただければと思います。

証憑管理の体制づくりや経理実務についてお困りの際は、お気軽に弊社までご相談ください。