フィリピンで事業を行う上で避けて通れないのが「税金」です。種類が多く、日本には存在しない固有の制度もあるため、最初は複雑に感じるかもしれません。ただ、「何に対して課税されるのか」という視点で整理すると、体系が一気に見えやすくなります。

本記事では、フィリピンで事業を行う上で押さえておくべき主要な税金を、以下の4つのカテゴリーに分類して概説します。そして最後に、フィリピンの税務を複雑にしている最大の要因である「Withholding Tax(源泉徴収)」の仕組みについて解説します。各税金の詳細については、それぞれの詳細記事をご参照ください。

  1. 所得(儲け)にかかる税金
  2. 消費・取引・輸入にかかる税金
  3. 資産・財産にかかる税金
  4. 地方自治体の税金

「所得(儲け)」にかかる税金

法人や個人が経済活動によって得た課税所得(儲け・利益)に対して課される税金です。他の税金と異なり、所得がなければ課税されないのが基本的な特徴です。

Corporate Income Tax(法人税)

法人の事業年度ごとの課税所得に対して課される税金です。税務上の益金(≒売上)から損金(≒経費)を差し引いた課税所得に、法人税率を乗じて税額を求めます。

税率

  • 標準税率25%
  • 軽減税率20%(課税所得500万ペソ以下、かつ総資産1億ペソ以下の法人 ※土地除く)

特徴・留意点

フィリピン特有の制度として「Minimum Corporate Income Tax(MCIT、最低法人税)」があります。課税所得が極端に少ない、またはマイナスの場合に、Gross Income(売上総利益)の2%が最低法人税として算出され、通常計算による税額を上回る場合にはMCITが優先して適用されます。法人設立後3事業年度はMCIT対象外ですが、4事業年度目から適用が始まります。「赤字だから法人税はゼロ」と思い込んでいるケースがありますが、売上総利益の水準によってはMCITが課されるため注意が必要です。

※法人税についての詳細はこちら

Personal Income Tax(個人所得税)

個人の給与所得や事業所得に対して課される税金です。給与の総支給額から非課税手当や社会保険料などを控除して給与所得を算出し、これに所得税率を乗じて税額を求めます。

税率

0% ~ 35%の超過累進課税(所得が高いほど税率が上がる)

特徴・留意点

フィリピンの個人所得税率は日本と比べて決して高いわけではありませんが、控除項目・金額が限定的です。日本では基礎控除・給与所得控除・配偶者控除などが大きく、総支給額に比べて課税所得が大幅に圧縮されます。一方、フィリピンにはこれらの控除が少なく、結果的に実質的な税負担が重くなりやすい傾向があります。

また、駐在員のように日本法人とフィリピン法人の双方から給与を受け取る場合は、原則としてその合算額を基にフィリピンで所得税を納税することになり、確定申告が必要です。

※個人所得税についての詳細はこちら

Capital Gains Tax – CGT(キャピタルゲイン税)

保有する資産を売却して得た利益(キャピタルゲイン)に対する税金です。M&Aなどを積極的に行う企業を除き、実務上は発生機会が少ないため、他の税金と比べると優先度は低めです。

税率

  • 非上場株式の売却:売却益に15%
  • 上場株式の売却:売却額に0.1%
  • 不動産の売却:販売価格または公正価値のいずれか高い方に6%

特徴・留意点

キャピタルゲイン税は、法人税や個人所得税と異なり、取引の時点で納税が完結する「分離課税」です。非上場株式は「売却益」に対して課税されるため、売却益が生じなければ課税されません。一方、上場株式と不動産については売却益の有無にかかわらず課税されます。

※キャピタルゲイン税についての詳細はこちら

Fringe Benefits Tax – FBT(フリンジベネフィット税)

Supervisor以上の管理職に対して会社が現物給与(フリンジベネフィット)を提供した場合に課される税金です。駐在員用のコンドミニアム、社用車、帯同家族の渡航費、子女の学費などが典型的な対象です。現物給付の金銭的価値をもとに、グロスアップ計算で税額を算出します。

税率

評価額 ÷ 65% × 35%

特徴・留意点

フリンジベネフィット税は日本に存在しないフィリピン固有の税金であり、個人ではなく会社側が納税義務を負う点が最大の特徴です。日系企業ではこの制度の存在自体を把握していないケースが多く、税務調査で最も指摘が入りやすい税目の一つです。なお、給付の目的が明らかに事業用途であればフリンジベネフィット税の対象にはなりません。

※フリンジベネフィット税についての詳細はこちら

「消費・取引・輸入」にかかる税金

モノやサービスの移動、契約行為、輸入などに対して課される税金です。

Value Added Tax – VAT(付加価値税)

日本の消費税に相当する間接税です。買い手は売り手に対してVATを支払い、売り手はOutput VAT(仮受消費税相当)とInput VAT(仮払消費税相当)を相殺した差額を納税します。

税率

  • 標準税率:12%
  • 優遇税率:0%(輸出型事業者やPEZA等の登録事業者が対象)
  • 対象外:Exemption(免除)

特徴・留意点

フィリピンのVAT制度は形式要件が非常に厳格です。仕入時に受領したInvoiceにわずかでも記載不備(TINの記載漏れなど)があると、Input VATを税額控除できず、コスト増につながります。0%VATやExemptionの適用要件も厳密に定められており複雑です。税務調査時の追徴税額が最も大きくなりやすい税目であり、フィリピンで事業を行う上で最重要の税金と言えます。

※VATについての詳細はこちら

Percentage Tax(パーセンテージ税)

年間売上高がVAT登録基準(現在は300万ペソ)に満たない小規模事業者や、銀行・金融業など特定業種に課される税金です。VATの代替的な位置付けであり、特定業種に関与しない限りはあまり意識する必要はありません。

税率

売上総額に3%(※一部特定業種は異なる税率が適用される場合があります)

特徴・留意点

利益ではなく「売上総額」に対して直接課税されます。

※パーセンテージ税についての詳細はこちら

Documentary Stamp Tax – DST(印紙税)

契約書や証書を作成した際に課される税金です。新株発行・株式譲渡契約、リース契約(オフィス・車両)、ローン契約、不動産売買契約などが典型的な課税対象です。

税率

文書の種類によって細かく定められていますが、代表的なものは以下のとおりです(単位の関係で厳密には誤差あり)。

  • 新株発行・株式譲渡契約:0.75%
  • リース契約:0.2%
  • ローン契約:0.75%
  • 不動産売買契約(譲渡証書):1.5%

特徴・留意点

印紙税も知識不足による納税漏れが起きやすい税目です。契約締結の際は、印紙税の対象になり得るかを都度確認する必要があります。また、印紙税は売り手/買い手・貸し手/借り手のいずれが負担してもよい建前となっているため、二重納税や「お見合い」による納税漏れが発生しやすく、契約締結時にどちらの負担とするかを契約書に明記しておくことが重要です。なお、印紙税の納付期限は翌月5日と非常に短いため注意が必要です。

※印紙税についての詳細はこちら

Import Duty / Customs Duty(輸入関税)

海外からフィリピンへ物品を輸入する際に、BOC(税関)で課される税金です。CIF価格に輸入関税率を乗じて算出します。

税率

HSコード(品目分類)によって0%〜数十%まで大きく異なります。

特徴・留意点

どのHSコードに分類されるかでコストが大きく変わるため、慎重な確認が必要です。フィリピンは日本・韓国との二国間EPA、ASEAN諸国との多国間FTA、RCEPなどを締結しており、これらを活用して輸入関税率の低減を図ることが重要です。なおFOB価格が₱10,000以下の少額輸入は、De Minimisルールに基づき輸入関税と輸入VATが原則として免除されます。

「資産・財産」にかかる税金

Real Property Tax – RPT(固定資産税)

土地・建物・機械設備などを保有する者に対し、その資産が所在するLGU(地方自治体)が課す税金です(通称:Amilyar)。製造業などを除き、これらの固定資産を保有しない限りは課税されないため、サービス業など多くの企業ではあまり意識する必要はありません。

税率

基本税にSpecial Education Fund(SEF、特別教育基金)が加算される仕組みです。

  • マニラ首都圏:基本税(最大2%)+ SEF(1%)= 合計 約3%
  • Provinces(州):基本税(最大1%)+ SEF(1%)= 合計 約2%

特徴・留意点

フィリピンでは、土地・建物だけでなく、事業用の「Machinery(機械設備)」についても、不動産に固着し事業運営に不可欠である場合には課税対象となります。

Donor’s Tax(贈与税)

財産を無償で譲渡(贈与)した場合にかかる税金です。

税率

譲渡額に対し一律6%(₱250,000以下の場合は免税)

特徴・留意点

たとえ有償の取引であっても、時価より著しく低い価格で資産を売買した場合、その差額が「みなし贈与」と認定されて課税される場合があります。贈与人が納税義務を負う点に留意が必要です。

Estate Tax(相続税)

死亡した人の財産を相続人が受け継ぐ際に課される税金です。

税率

相続額に対し一律6%(₱5,000,000の標準控除等があります)

特徴・留意点

日本が累進課税であるのに対し、フィリピンは一律6%と低く抑えられており、資産家にとって有利な設計になっています。ただし、被相続人がフィリピン居住者であった場合には、全世界の資産が課税対象となる点に注意が必要です。

地方自治体の税金

Local Business Tax – LBT(地方事業税)

国税とは別に、法人登記場所の管轄市役所に対して納める税金です。毎年1月のBusiness Permit(営業許可証)更新の際に地方事業税を納付します(分割納付も選択可)。前年の売上高に税率を乗じて算出します。

税率

業種や登録自治体により異なりますが、一般的には0.2%〜2%程度の範囲内です。

特徴・留意点

売上高に対して課税されるため、薄利多売の事業モデルでは地方事業税の負担が重くなる傾向があります。なお、PEZA等でSCIT(特別法人税)5%の適用を受けている場合は、地方事業税がすでにSCIT5%に包含されているため、別途納税する必要はありません。

【参考情報】フィリピンにおける「源泉徴収制度」の仕組み

最後に、フィリピンの税務を最も複雑にしている「Withholding Tax(源泉徴収)」について解説します。

Withholding Tax(源泉徴収税)とは

Withholding Tax(源泉徴収税)は、税金の「種類」ではなく税金の「納付方法(集金システム)」です。通常の税金は金銭を受け取る側が納税しますが、源泉徴収税は金銭を支払う側が税額を天引きし、受取側に代わってBIRへ納付する仕組みです。

給与源泉税が最も分かりやすい例です。本来、従業員が受け取った給与に対する個人所得税は従業員本人が納税するものです。しかし、専門家でもなければ自分の所得税を正確に計算するのは難しく、毎月の期日までに各従業員が個人で納税するのも現実的ではありません。そこで、国が効率的に徴税するため、雇用主である会社に納税義務を課し、給与から所得税を天引きして納税させる仕組みが設けられています。

Expanded Withholding Tax / Creditable Withholding Tax – EWT/CWT(拡大源泉税/控除可能源泉税)

オフィス家賃・専門家報酬をはじめとする、BtoB取引全般に課される源泉税です。一般的には「拡大源泉税(Expanded Withholding Tax)」として知られていますが、実態は法人税の前払いであり、将来の法人税申告時に税額控除できることから「控除可能源泉税(Creditable Withholding Tax)」という名称の方が制度の本質を正確に表しています。源泉徴収した税額は、原則として翌月10日まで、四半期終了月は翌月末までに納税します。

税率

取引の性質により異なり、1 ~15%

特徴・留意点

日本でも一部の取引で源泉税が課されますが、フィリピンは課税対象となるサービスの範囲が非常に広い点が特徴です。さらに、BIRからLarge Taxpayer(大規模納税者)やTaxpayer Account Management Program(TAMP)の対象に指定された場合は、原則としてあらゆるモノ・サービスの購入に対して源泉徴収が必要となり、実務上の負担が増します。

源泉徴収は買い手/借り手の義務であり、これを怠ると追徴課税の対象となります。日本人にとって馴染みの薄い制度のため、源泉徴収をせずに請求額を満額支払ってしまうケースが非常に多く見受けられます。売り手/貸し手から請求書を受領したら、支払い実行前に必ず拡大源泉税/控除可能源泉税の要否を確認することが欠かせません。

また、買い手/借り手はBIR Form 2307(源泉徴収票)を発行する義務があり、売り手/貸し手はこれを確実に受領することが重要です。BIR Form 2307が回収できないと、法人税申告時の税額控除ができず、前払いした法人税が事実上無駄になってしまいます。

※拡大源泉税/控除可能源泉税についての詳細はこちら

Withholding Tax on Compensation(給与源泉税)

前述のとおり、従業員の給与にかかる個人所得税を天引きする仕組みです。雇用主である会社が従業員に代わって所得税を天引きし、BIRへ納税します。源泉徴収した所得税は、原則として翌月10日までに納税します。

税率

個人所得税のため、前述のとおり0% ~ 35%

特徴・留意点

毎月の源泉徴収額は、BIRが定める源泉徴収テーブルに基づいて算出します。年末または従業員の退職時には年末調整が必要です。年の途中で入社・退職した場合、年末調整時に比較的大きな還付または追加納税が生じるケースが多くなります。

Final Withholding Tax – FWT(最終源泉税)

配当金、銀行利息、ローン金利、ロイヤルティなどにかかる源泉税です。天引きされた時点で課税関係が完結(Finalize)するため、受取側での税務申告は不要です。

税率

通常税率と日比租税条約に基づく軽減税率は以下のとおり。

  • 非居住者への配当金:25% (10%)
  • 国内法人への配当金:0%
  • 国内個人への配当金:10%
  • 銀行利息:20% (10%)
  • ローン金利:20% (10%)
  • ロイヤルティ:25% (10%)
  • 事業所得:25% (免税)
  • キャピタルゲイン:15% (免税)
  • 支店利益送金:15% (10%)

特徴・留意点

通常税率は高税率ですが、日比租税条約に基づく軽減税率を適用すれば税負担を抑えることができます。ただし軽減税率は自動適用ではなく、申請手続きが必要です。必要書類が多く手続きが煩雑なため、軽減税率適用による効果と事務コストのバランスを見極めて判断することが重要です。

※最終源泉税についての詳細はこちら

Final Withholding VAT(最終源泉VAT)

政府機関や非居住法人との取引において適用されるVATの源泉徴収です。政府機関が民間企業に代価を支払う場合はVAT5%が源泉徴収され、残り95%が民間企業に渡ります。フィリピン国内法人が非居住法人からサービス提供を受ける場合は、そのサービスがフィリピン国内で消費される限り原則VAT12%の課税対象となります。本来はVAT12%を源泉徴収した後の残りが非居住法人に払われる仕組みですが、実務上は買い手がグロスアップしてVAT12%を負担するケースが大半です。

税率

  • 政府機関との取引:5%
  • 非居住法人との取引:12%

特徴・留意点

特に非居住法人との取引においては、VAT源泉徴収(またはグロスアップ)が必要であることを把握していないケースが非常に多く、漏れが生じやすいため注意が必要です。2024年に施行されたデジタルサービスVAT法(RA 12023)により、非居住者からデジタルサービスの提供を受けた場合にも、グロスアップによるVATの納税が必要となりました。非居住者からの請求書に記載がないケースも多いため、買い手であるフィリピン国内法人が主体的に対応する必要があります。

※デジタルサービスVAT法についての詳細はこちら

おわりに

フィリピンの税制は、税目の多さと源泉徴収制度の複雑さが相まって、全体像を把握するのに時間がかかります。ただ、今回整理した4つのカテゴリーを軸に理解を積み上げていくと、各税目の位置付けが見えやすくなります。個々の税目の詳細については各記事をご参照ください。フィリピンの税務に関するご相談は、弊社までお気軽にお問い合わせください。