PEZAとは
Philippine Economic Zone Authority(フィリピン経済区庁、以下「PEZA」)は、フィリピン国内の経済特区を管轄する政府機関です。製造業向けの輸出加工区(Export Processing Zone)を起源とし、現在はIT・BPO向けのサイバーゾーン、物流・商業施設、観光施設など、幅広い業種の特区を認定・管理しています。
PEZA認定エリアに登録した企業(Registered Business Enterprise、以下「RBE」)には、フィリピンの通常の税制とは異なる優遇措置が付与されます。
CREATE法・CREATE MORE法について
PEZAのインセンティブ体系を理解する上で、近年の法改正の流れを押さえておくことが重要です。
2021年4月に施行されたCREATE法は、コロナ禍の経済対策として通常法人税率を30%から25%に引き下げるとともに、PEZA等の税制インセンティブを大幅に再編しました。それまで事実上無期限だったSCIT(5%特別法人税)に最長10年間の上限が設けられ、インセンティブ全体(ITH+SCIT)の合計期間も最大14〜17年間に制限されました。同時に輸入VAT免除やゼロレートVATの適用対象が「Directly and Exclusively(直接的かつ限定的)」に使用される物品・サービスに絞られたことで、実務上の混乱も生じました。
2024年11月に施行されたCREATE MORE法は、こうした問題点への対処と投資誘致の強化を目的として制定されました。主な改正点は、EDR(追加控除方式)適用時の法人税率の25%から20%への引き下げ、インセンティブ期間のさらなる延長、そしてVAT免除の適用対象の拡大(「Directly Attributable=直接帰属する」物品・サービスへ要件緩和)です。本記事では、CREATE MORE法施行後のルールを前提として解説します。
PEZAに登録するメリット
法人税の優遇(ITH・SCIT・EDR)
PEZA登録企業に対する法人税インセンティブは、大きく3つの方式で構成されています。
ITH(Income Tax Holiday、法人税免税) は、登録事業開始後の一定期間、法人税が免除される制度です。適用期間は事業類型や立地(メトロポリタンエリアか地方か)によって異なります。ITH終了後は、SCITまたはEDRのいずれかを選択適用します。
| 方式 | 税率・仕組み | 特徴 |
|---|---|---|
| SCIT(特別法人税) | 売上総所得(粗利)の5% ※地方税を包含 | 計算がシンプル。利益率が高いほど有利。大半の企業がSCITを選択。 |
| EDR(追加控除方式) | 法人税20% ※地方税は別途2% | 追加控除により課税所得を圧縮。赤字発生時は繰越欠損金の活用が可能 |
SCITは売上総所得(Gross Income)に対して5%を課税するため、利益率が高い事業ほど通常課税(25%)との差が大きく出ます。一方EDRは税率は、通常の法人税率より若干低い程度の20%ながら、労務費(50%割増)・電力費(100%割増)・研究開発費(100%割増)・研修費(100%割増)などの費用を割り増しで控除できます。つまり、法人税の対象となる課税所得が圧縮できるため、結果的に法人税が抑制できます。また、CREATE MORE法からは、最初からSCITまたはEDRを選択し、ITHをスキップすることも可能となりました(赤字先行期の繰越欠損金活用を優先する場合などに有効です)。なお、一度選択した方式は変更できないため、自社の収益構造を踏まえた慎重な判断が必要です。
インセンティブ期間の目安(IPAs承認案件・資本投資額150億ペソ以下の場合)
インセンティブ期間は、①業種のTier分類と②立地の2軸で決まります。
業種のTier分類(SIPP基準)
| Tier | 対象業種の例 |
|---|---|
| Tier I | 農業・水産、基礎インフラ、一般製造業、医療・教育など |
| Tier II | 輸出製造業、物流、防衛、食料安全保障に関わる産業など |
| Tier III | サイバーセキュリティ、AI、データセンター、先端技術・ロボティクス、イノベーション分野など |
立地の3区分
| 区分 | 対象エリア |
|---|---|
| エリアA | NCR(メトロマニラ) |
| エリアB | NCR隣接地域・その他主要メトロポリタンエリア(メトロセブ、メトロダバオ等) |
| エリアC | 上記以外の地方エリア |
輸出型企業(Export Enterprise)のITH期間
| Tier | エリアA(NCR) | エリアB(その他メトロ) | エリアC(地方) |
|---|---|---|---|
| Tier I | 4年 | 5年 | 6年 |
| Tier II | 5年 | 6年 | 7年 |
| Tier III | 6年 | 7年 | 7年 |
ITH終了後:SCIT(5%)またはEDR(20%)を10年間適用。合計14〜17年。
国内市場型企業(Domestic Market Enterprise)のITH期間
| Tier | エリアA(NCR) | エリアB(その他メトロ) | エリアC(地方) |
|---|---|---|---|
| Tier I | 4年 | 5年 | 6年 |
| Tier II | 5年 | 6年 | 7年 |
| Tier III | 6年 | 7年 | 7年 |
ITH終了後:EDRのみ(SCITは選択不可)を10年間適用。合計14〜17年。
※資本投資額150億ペソ超の案件はFIRB(財政インセンティブ審査委員会)が審査し、ITH後のSCIT/EDR期間が20年(合計最大24〜27年)に延長されるケースがあります。 ※10,000人以上の現地雇用維持を条件に、最大5年間の延長も可能です。
関税免税・輸入VAT免税
PEZA登録企業は、登録事業に直接帰属する機械・設備・原材料・消耗品等の輸入に対して、関税および輸入VAT(12%)が免除されます。大規模な設備投資や継続的な原材料輸入が必要な事業では、このインセンティブが収益に与えるインパクトは非常に大きく、事業の収益を左右します。
CREATE MORE法では従来の「Directly and Exclusively」から「Directly Attributable(直接帰属する)」へと要件が緩和されたため、清掃・警備・法務・会計・人事・マーケティング等の管理業務に係るサービスも対象範囲に含まれるようになりました。
ゼロレートVAT(0% VAT)
PEZA登録企業同士の取引(PEZA-to-PEZA)や、PEZAエリアへの国内販売、および海外向けサービス提供には、VATゼロレート(0%) が適用されます。通常のVAT(12%)の負担を回避できるため、サプライチェーン全体でのコスト効率が向上します。
PEZA VISAによる在留手続きの簡素化
税制面のほかに、PEZA VISAの恩典もあります。PEZA登録企業に勤務する外国人役員・社員は、PEZA VISAの取得により通常のACR I-Card(外国人登録証)が不要となるなど、在留手続きが簡素化されます。日本人が在籍する企業にとっては、ビザ管理の負担軽減という実務上のメリットがあります。
PEZAに登録するデメリット・注意点
PEZA認定エリア内への立地が必須
PEZA登録企業は、PEZA認定エリア(工業団地、IT Park、サイバーゾーン等)内に事業所を置くことが必須です。立地の自由度が制約されるため、希望するエリアがPEZAの認定外であれば登録の選択肢がなくなります。また、PEZA認定施設への入居が要件となるケースでは、賃料水準や物件選択肢が限られることもあります。
国内販売への制限と事業設計上の制約
PEZA登録企業は基本的に輸出事業者として位置づけられており、フィリピン国内のNon-PEZA企業(一般企業)への販売には制約があります。登録類型によって条件は異なりますが、国内販売の比率に上限が設けられているケースが一般的です。
将来的に非PEZA企業やフィリピン一般市場向けの販売を検討している場合、選択肢は大きく2つです。1つは日本親会社または海外法人が直接販売する方法、もう1つは別途Non-PEZA法人(一般企業)を新設する方法です。後者の場合は2社体制の管理・申告コストが生じるため、事業設計の段階で販売戦略との整合を十分に検討しておく必要があります。
年次報告義務とコンプライアンス負担
PEZA登録企業には、月次・年次でPEZAおよびBIRに対して所定の報告書を提出する義務があります。Monthly Report(月次報告書)、Annual Report(年次報告書)、Incentive Performance Report(インセンティブ実績報告書)などが代表的なものです。BIRとPEZAの二重管理体制となるため、書類の整合管理にも注意が必要です。また、登録内容の変更・更新手続きや監査への対応も発生します。
専門家費用を含むランニングコストの発生
上記の継続的コンプライアンスの他、初期登録も必要となります。これらのコンプライアンス対応を適切に行うためには、専門家のサポートが欠かせません。登録申請代行費用に加え、月次・年次申告、報告書作成、BIR対応、インセンティブ期限管理といった業務が継続的に発生するため、専門家費用はPEZA登録のランニングコストとして見込む必要があります。インセンティブによる節税効果が小さい事業では、これらのコストがメリットを上回るリスクがある点は、登録前に十分に試算しておくべきポイントです。
インセンティブ期限の管理
ITHが終了するタイミングでSCITまたはEDRへの切り替え手続きが発生します。期限の管理を誤ると、インセンティブの適用漏れや通常課税への意図せぬ移行が生じるリスクがあります。インセンティブ適用スケジュールを常に把握し、余裕をもって切り替え準備を進めることが重要です。
撤退・登録抹消の煩雑さ
事業撤退や組織再編の際には、PEZA登録の抹消(De-registration)手続きが必要です。この手続きは書類が多く煩雑で、場合によっては受けたインセンティブの一部返還義務が生じることもあります。事業の出口も見据えた上で、登録の是非を判断することが望ましいです。
業種別の論点について
PEZA登録の効果は、業種・事業モデル・販売先の構成によって大きく異なります。以下の個別記事では、それぞれの業種固有の論点を詳しく解説しています。
おわりに
PEZAの税制インセンティブは、適切な業種・事業モデルのもとで活用すれば、フィリピンでの事業競争力を高める有効な手段です。一方で、立地制約・国内販売への制限・報告義務・専門家費用といったコストや制約も伴います。登録は一度決めると変更・撤退が容易でないため、自社の収益構造・販売戦略・中長期の事業計画を踏まえた事前試算と設計が最も重要なステップです。PEZA登録のご検討やスキーム設計に関するご相談は、お気軽に弊社までお問い合わせください。