はじめに

PEZAのインセンティブ全般についてはPEZA登録のメリットとデメリット(全体編)で、製造業固有の論点についてはPEZA登録のメリットとデメリット(製造業編)で詳しく解説しています。本記事ではIT・BPO企業に絞り、PEZA登録が実際にどれほど有効かを検討します。また、商社・物流業固有の論点についてはPEZA登録のメリットとデメリット(商社・物流編)で別途解説しています。

結論から言えば、IT・BPO企業にとってPEZA登録は、製造業ほど相性が良くありません。以下でその理由を順を追って説明します。

IT・BPO企業の収益構造とPEZA登録の相性

グループ内外注が多く、フィリピン拠点の利益が出にくい

フィリピンに設立されるIT・BPO拠点の多くは、日本の親会社やグループ企業から業務を受託する形態をとっています。この場合、親会社がフィリピン子会社に業務を委託し、かかったコストにマークアップ(一定の利益率)を上乗せした金額を請求するコストプラスマークアップ方式が採用されるケースが一般的です。

この方式では、フィリピン拠点の利益はマークアップ分に限られます。移転価格上の観点から過度に大きな利益を計上することも難しく、結果としてフィリピン法人に残る課税所得は限られたものになりやすい構造です。法人税インセンティブとしてのITH(Income Tax Holiday、法人税免税)やSCIT・EDRの恩恵は、あくまで利益に対してかかる税負担を軽減するものです。そもそも利益が少なければ、節税効果も必然的に小さくなります。

SCIT(粗利の5%課税)がIT・BPOでは逆効果になることも

PEZAのインセンティブのうち、多くの企業がITH後に選択するのがSCIT(特別法人税)です。SCITは売上総所得(粗利)に対して5%を課税する仕組みで、製造業のように原価率が高い業種では通常の法人税(課税所得の25%)より有利になりやすいです。

しかし、IT・BPO企業では状況が異なります。IT・BPO事業は仕入れ原価がほぼ発生せず、主なコストは人件費です。エンジニア等の直接労務費を除き、人件費は売上総所得(粗利)の計算には含まれず、販管費として扱われます。そのため、売上に対する粗利率が非常に高くなりやすい構造です。具体例で確認してみます。

比較項目製造業(参考)IT・BPO
売上1,000万ペソ1,000万ペソ
売上原価(仕入・材料)700万ペソ50万ペソ(経費のみ)
売上総所得(粗利)300万ペソ950万ペソ
SCIT(粗利×5%)15万ペソ47.5万ペソ
人件費・販管費200万ペソ850万ペソ
税引前利益100万ペソ100万ペソ
通常法人税(利益×25%)25万ペソ25万ペソ

この例では、両社とも税引前利益は同額の100万ペソです。しかし通常課税なら25万ペソで済むところ、IT・BPO企業がSCITを適用すると47.5万ペソと、約2倍近い税負担になります。売上総所得が高くなりやすいIT・BPO事業においては、SCITを選択することで通常法人税より税負担が重くなるケースが少なくないのです。

なお、ITH(法人税免税)期間中は上記の問題は発生しませんが、ITH後にSCITを選択した場合には逆効果になるリスクがある点は、事前に十分シミュレーションしておく必要があります。

関税免税・VAT免税のメリットもほぼ享受できない

製造業編でも触れたように、PEZA登録のメリットとして関税免税・輸入VAT(12%)免税は非常に大きな効果を持ちます。ところが、IT・BPOは事業の性格上、機械設備・原材料の輸入がほぼ発生しません。PCやサーバーなどの機器を輸入するケースはあっても、製造業と比べれば規模はごく限られます。

関税・輸入VAT免税による節税効果がほとんど見込めない以上、製造業において最大のメリットとなるこのインセンティブは、IT・BPOにとってはほぼ意味をなさないと考えてよいでしょう。

ゼロレートVAT(VAT 0%)についても同様です。フィリピン国外の顧客へのサービス提供はPEZA登録の有無に関わらず、一定条件のもとでゼロレートVATの対象となる場合があります。PEZA登録によって新たに付与されるVAT上の優位性は、IT・BPO事業においては限定的と言わざるを得ません。

PEZA認定ビル入居と出社要件という制約

IT・BPO向けのPEZAはサイバーゾーン(Cyberzone)と呼ばれる認定エリアに分類され、PEZA認定ビルへの入居が必須となります。オフィスの選択肢が認定ビルに限定されるため、賃料水準や物件の選択肢が制約される場合があります。

さらに実務上、より重要な論点が出社要件です。CREATE MORE法(2024年11月施行)に基づくPEZAの規定では、登録企業における在宅勤務(WFH)の割合は原則として最大50%までとされており、言い換えると従業員の50%以上は出社することが求められています。

フィリピンのIT・BPO業界では、コロナ禍以降に在宅勤務・ハイブリッド勤務が広く定着しています。採用競争力の面でも、WFHの柔軟性は優秀な人材を確保する上で重要な要素です。在宅勤務を前提とした運営体制を志向する企業にとって、原則50%出社というPEZAの要件は事業運営上の大きな制約になり得ます。

BOIとの比較:同じインセンティブ、制約なし

PEZAの代替として検討すべきなのが、Board of Investment(以下「BOI」)への登録です。BOIへの登録でも、PEZAと同等の法人税インセンティブ(ITH・SCIT・EDR)が受けられます。IT・BPO事業はStrategic Investment Priority Plan(SIPP)において優先投資分野に位置づけられており、BOI登録の対象となります。

PEZAとBOIの主な違いを整理すると、以下のとおりです。

比較項目PEZABOI
法人税インセンティブ(ITH・SCIT・EDR)ありあり
関税免税・輸入VAT免税ありあり
ゼロレートVATありあり
入居場所の制約PEZA認定ビルへの入居必須なし
出社率の要件原則50%以上(平時)なし
WFHの柔軟性制限あり制限なし
PEZA VISAによる在留簡素化ありなし

なお、関税免税・輸入VAT免税・ゼロレートVATは、PEZAとBOIのいずれにおいても「登録活動に直接帰属する物品・サービス」に限定されます。IT・BPO事業は物品の輸入がほぼ発生しないため、これらのインセンティブの恩恵はPEZA・BOIを問わず限定的です。

IT・BPO企業にとってPEZAとBOIの実質的な差は、法人税インセンティブの内容そのものではなく、入居制約・出社要件の有無にあります。BOIであれば、同じ法人税インセンティブを享受しながら、オフィス立地やWFH比率の制約を受けずに運営できます。純粋にコストと効果を比較した場合、IT・BPO企業にとってはBOI登録の方が合理的な選択となるケースが多いと言えます。

IT・BPO企業がPEZA・BOI登録を検討すべきケース・そうでないケース

法人税インセンティブ(PEZA・BOI共通)の恩恵が出やすいのは、フィリピン拠点が相応の利益を計上している場合です。コストプラスマークアップ方式であっても、マークアップ率を高めに設定しているケース、あるいは第三者向けにサービスを提供しており実質的な利益が拠点に残る場合には、ITH・SCIT・EDRの効果が出てきます。一方で、登録を急がなくてよいケースも多くあります。

PEZA・BOI登録の検討を推奨するケース

  • フィリピン拠点が継続的に利益を計上しており、法人税負担が相応に発生している
  • ITH(法人税免税)期間中に初期投資・立ち上げコストを吸収したい
  • 採用・PEZA VISA活用などの副次的メリットも重視している(PEZAの場合)

登録の優先度が低いケース(現段階では通常課税での運営が現実的)

  • コストプラスマークアップ方式でフィリピン拠点の利益がごく小さい
  • 在宅勤務・ハイブリッド勤務を前提とした運営を志向している(PEZAの場合)
  • 登録・維持コスト(専門家費用・申告対応等)がインセンティブ効果を上回る見込み

おわりに

IT・BPO企業にとって、PEZAのインセンティブは製造業と比べて享受できるメリットが限られています。法人税インセンティブの実効性という観点では、PEZA・BOIどちらの登録も収益構造次第です。ただし入居制約・出社要件のないBOIの方が、IT・BPO事業との親和性は高いと言えます。自社の利益水準・勤務体制・事業計画を踏まえた個別の試算が判断の出発点になりますので、PEZA・BOI登録の検討やスキーム設計についてはお気軽に弊社までご相談ください。