はじめに:製造業はPEZAの恩恵を最も受けやすい業種
PEZAは、もともと製造業向けの輸出加工区(Export Processing Zone)を起源とする機関です。その設計思想は現在も制度の根幹に残っており、製造業はPEZAのインセンティブ体系と最も相性が良い業種といえます。PEZAのインセンティブ全般(ITH・SCIT・EDR・関税免税・ゼロレートVAT等)については、PEZA登録のメリットとデメリット(全体編)で詳しく解説しています。本記事では、製造業固有の論点に絞って掘り下げます。
本題に入る前に、PEZA登録の仕組みについて一点重要な前提を確認しておきます。PEZAの登録は、企業単位ではなく活動(事業)単位で行われます。 同一の法人が複数のPEZA登録活動を持つケースも多く、またPEZA登録の活動とそうでない活動が同一法人内に並存するケースも珍しくありません。製造業で言えば、「輸出向け製造ラインはPEZA登録活動として関税・輸入VAT免税の恩恵を受けつつ、国内向けラインは別途Non-PEZA活動として通常課税で運営する」といった形態が可能です。この活動単位という考え方は、事業設計の柔軟性につながる一方で、PEZA活動とNon-PEZA活動の所得・費用の切り分け管理が必要になるという実務上の複雑さも伴います。
ただし、製造業においても「PEZA登録が必ずしも有利とは限らない」ケースはあります。「輸出比率70%以上の維持」と「PEZA認定エリアへの立地」という2つの前提条件を満たせるかどうかが、登録判断の核心です。
製造業がPEZA登録で得られるメリット
関税免税・輸入VAT免税:製造コストへの直接効果
製造業においてPEZA登録の最大のメリットとなるのが、関税免税と輸入VAT(12%)免税です。原材料・部品・製造設備の輸入が事業の根幹を成す製造業にとって、この免税措置が収益に与えるインパクトは非常に大きく、他の業種とは比べものになりません。
具体的に考えてみます。例えば、年間1億ペソの原材料・設備を輸入する製造会社であれば、輸入VAT(12%)だけで年間1,200万ペソが免税となります。関税率は品目(HSコード)によって異なりますが、仮に平均5%であれば追加で500万ペソの免税効果が生じます。合計すると年間約1,700万ペソ(約4,250万円相当)のコスト削減効果になります。
しかもこの効果は、設備投資フェーズ(工場立ち上げ時)と操業フェーズ(継続的な原材料輸入時)の両方で発生します。初期投資が大きい製造業では、立ち上げ期の関税・輸入VAT免税だけで登録コストを大幅に上回る効果が出るケースも珍しくありません。
なお、CREATE MORE法(2024年11月施行)により、免税対象の要件が従来の「Directly and Exclusively(直接的かつ限定的)」から「Directly Attributable(直接帰属する)」へと緩和されました。これにより、製造活動に付随する清掃・警備・会計・人事等の管理業務サービスも免税対象の範囲に含まれるようになっています。
法人税の優遇(ITH・SCIT・EDR)
製造業もITH(法人税免税)・SCIT(売上総所得の5%)・EDR(法人税20%+追加控除)の恩恵を受けられます。
製造業の多くは立地に応じてITHは4〜7年間適用されます。ITH期間中に設備投資・製造ライン立ち上げの初期コストを法人税負担ゼロで吸収できる点は、製造業にとって大きなメリットです。
ITH終了後は、SCITとEDRのどちらが有利かを収益構造に基づいて判断します。製造業の場合、安定した粗利率が見込めるのであれば、計算がシンプルで粗利に対して5%課税となるSCITを選択する企業が多い傾向にあります。一方、電力費・労務費・研究開発費の比率が高い製造業ではEDRの追加控除効果が大きく出ることもあるため、一概にどちらが優位とは言えません。事業計画に基づいた試算が不可欠です。
輸出売上へのゼロレートVAT
製品の輸出売上にはVAT 0%が適用されます。また、PEZA認定エリア内への販売やPEZA登録企業同士の取引(PEZA-to-PEZA)もゼロレートVAT対象となるため、PEZA内サプライヤーから原材料を調達している場合もVATコストが生じません。輸出比率70%以上を維持している限り、このゼロレートVATは継続適用されます。
製造業がPEZA登録で考慮すべきデメリット・注意点
輸出比率70%以上の維持が登録要件
製造業がPEZAに登録するための最も重要な要件が、総生産高の70%以上を輸出に向けることです。言い換えると、フィリピン国内市場(Non-PEZA企業等)への販売は原則として30%以内に制限されます。
この要件は登録後も継続して満たし続ける必要があります。前年度の輸出比率が70%を下回った場合、関税・輸入VAT免税やゼロレートVATといったインセンティブの資格を失うリスクがあります。実務上、注意が必要な場面は以下のとおりです。
- 主要輸出先(日本の親会社等)の発注量が減少したとき
- 国内市場からの引き合いが増え、国内販売比率が高まったとき
- 製品ラインアップの変更により国内向けが増えたとき
輸出比率を安定して70%以上に保てるかどうかは、登録前に中長期の販売計画と合わせて慎重に検討する必要があります。
PEZA認定工業団地への立地制限
PEZA登録製造業者は、PEZA認定の工業団地(Export Processing Zone)または特区内に工場を置くことが必須です。主な認定工業団地としては、カビテ(Cavite Economic Zone)、ラグナ(Laguna Technopark等)、バタンガス、クラーク、セブ等が挙げられます。
立地制限には、メリットとデメリットの両面があります。認定工業団地はインフラ(電力・道路・通信)が整備されており、同業他社や関連企業が集積していることが多く、サプライチェーン上の利便性は高い傾向にあります。一方で、区画の賃料・管理費が発生し、工場立地の選択肢が限られるため、希望するロケーション(例:特定地域への近接、物流拠点との距離)が認定エリア外であれば、PEZA登録自体が選択肢から外れます。
事前に候補となる工業団地を複数リストアップし、コスト・立地・空き区画の状況を確認しておくことが重要です。
国内販売拡大時の事業設計上の制約
PEZA登録活動としての製造・輸出は輸出比率70%以上の維持が要件であるため、国内市場(Non-PEZA企業)向けに30%を超えて販売を拡大することはできません。将来的にフィリピン国内市場の取り込みを事業戦略に位置づけている場合、主に以下の3つの選択肢が考えられます。
①同一法人内でNon-PEZA活動を追加する方法は、PEZA登録が活動単位であることを活かした対応です。国内販売向けの製造・販売活動をPEZA登録外の活動として同一法人内に設け、PEZA活動(輸出向け)とNon-PEZA活動(国内向け)を並存させます。この場合、2社体制のコストを避けられる反面、両活動の売上・費用・在庫を明確に区分して管理する必要があり、会計・税務の管理負荷が増します。
②別途Non-PEZA法人(一般のフィリピン内国法人)を新設する方法は、PEZA法人で輸出製造を担い、Non-PEZA法人が国内販売・調達を担う二重構造とするものです。管理・申告が法人ごとに独立するため、インセンティブ適用範囲が明確になる一方で、2社体制の管理コストが発生します。
③日本親会社または海外法人が直接販売する方法は、フィリピン拠点のPEZA登録を維持しながら、国内向け販売機能を海外に置く形です。移転価格や恒久的施設(PE)の論点が生じるため、別途税務上の設計が必要です。
いずれの方法も一定のコストと手続きを伴うため、登録前の事業設計段階で中長期の販売戦略との整合を取っておくことが重要です。
通関・コンプライアンス対応
製造業はIT・BPOなど他業種と比べて輸入・輸出の頻度が高く、税関(Bureau of Customs)への通関業務が継続的に発生します。実務上は、フォワーダーや通関業者が手続きをハンドルするのが一般的ですが、PEZA登録企業として免税メリットを適正に享受するためには、輸入原材料の管理台帳(Inventory Control Record)の整備やPEZAへの消費報告(Consumption Report)提出など、自社側での書類管理も必要です。また、BIRとPEZAの双方への月次・年次報告義務も発生します。
PEZA登録が向いている製造業・慎重に判断すべき製造業
製造業であれば一律にPEZA登録が有利とは限りません。以下を目安にした判断が推奨されます。
PEZA登録のメリットが出やすいケース
- 輸入原材料・部品・設備の規模が大きく、関税・輸入VAT免税の効果が大きい
- 輸出比率70%以上を安定して維持できる販売構造がある(日本親会社向け受託製造など)
- PEZA認定工業団地への立地が事業計画と合致している
- 設備投資規模が大きく、ITH期間中に初期投資コストを吸収したい
慎重に検討すべきケース
- 輸入規模が小さく、関税・輸入VAT免税の効果が専門家費用・登録維持コストを下回る可能性がある
- 国内販売が主体、または将来的にフィリピン国内市場への拡大を重視している
- 希望する立地にPEZA認定工業団地がない
- 輸出比率70%の維持が販売計画上不確実
- 同一法人内でPEZA活動とNon-PEZA活動を並存させる場合、活動間の所得・費用の切り分け管理が実務上大きな負担となる見込みがある
おわりに
製造業においてPEZA登録は、関税・輸入VAT免税を中心に、フィリピンでの事業競争力を高める強力な手段となり得ます。ただし、その効果を最大限に引き出すためには、「輸出比率70%以上の維持」と「PEZA認定エリアへの立地」という2つの前提条件を事前にしっかりと見極めることが不可欠です。
また、IT・BPOや商社・物流など他業種におけるPEZA登録の論点については、以下の個別記事で解説しています。
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