フィリピンの事業者から受け取った請求書(Invoice)を、ただ確認せずに支払ってしまうと、後から税務上の問題が発覚するケースがあります。フィリピンの税法には日本とは異なるルールが多く、受け取る側にも一定の確認義務が求められます。本記事では、フィリピンに進出したばかりの企業・赴任したばかりの方向けに、Invoice受領時に最低限チェックすべき5つのポイントを解説します。
なお、EOPT法の施行でInvoiceとORの位置づけがどう変わったのかという制度面の解説は、別記事「Invoice制度とVAT証憑管理」で取り上げています。VATの全体像については「これだけは押さえたいVATの基本」もあわせてご覧ください。本記事は、その制度を前提に、受領時に何を確認すべきかという実務に絞って説明します。
① BIR認定Invoiceが使用されているか
最初に確認すべきは、受け取ったInvoiceがBIRに認定されたものかどうかです。これはVAT申告に直結する、最重要のチェックポイントです。
仕入や経費で支払ったInput VAT(日本の仮払消費税にあたるもの)は、自社が納めるVATから差し引くことができます。ただし、差し引けるのはBIR認定のInvoiceがある場合に限られます。要件を満たさないInvoiceは証憑として認められず、差し引けるInput VATが減って納税額が増えてしまいます。税務調査でも頻繁に指摘されるポイントであり、場合によっては法人税上の損金算入も否認されるリスクがあります。なぜ証憑が控除の前提になるのか、制度面の詳しい背景は「Invoice制度とVAT証憑管理」をご覧ください。
BIR認定Invoiceかどうかを見分けるポイントは、主に以下の3点です。
「Invoice」の文言が含まれている
2024年に施行されたEOPT法(Ease of Paying Taxes Act、納税容易化法、RA 11976)により、BIR認定の請求書にはタイトルに「Invoice」の文言が必須となりました。Sales Invoice、Billing Invoice、Service Invoiceなど、名称は会社の判断で自由に決められますが、「Invoice」の文言が含まれていることが要件です。一方、Billing StatementやStatement of Accountといった名称の書類は、この要件を満たさないためBIR認定Invoiceとして認められません。
シリアル番号が赤字で印字されている
BIR認定のInvoiceには、必ず赤字でシリアル番号が印字されています。Invoiceを発行する事業者は、事前にBIRからAuthority to Print(印刷許可)を取得し、指定の印刷業者でシリアル番号付きの請求書を印刷することが義務付けられています。このシリアル番号の有無は、一目で確認できる判断基準のひとつです。なお、電子請求書(e-Invoice)システムを使用している事業者の場合は外観が異なりますが、同様にBIRへの登録が前提となっています。
「BIR Authority to Print No.」が記載されている
BIR認定のInvoiceには、「BIR Authority to Print No.」が記載されています。小さな文字で印字されていることが多く、一見見落としやすいですが、このAuthority to Print番号があることで、BIRの承認を経た正規のInvoiceであることを確実に確認できます。
② 記載事項に抜け漏れがないか
BIR認定Invoiceは、EOPT法およびBIRの関連通達(RR No. 7-2024等)に基づき、記載すべき事項が定められています。抜け漏れや誤りがある場合、税務上のInvoiceとして否認されるリスクがあります。BIR認定InvoiceはEOPT法およびBIRの関連通達(RR No. 7-2024等)に基づき、記載すべき事項が定められています。抜け漏れや誤りがある場合、税務上のInvoiceとして否認されるリスクがあります。
発行者情報(売り手)
発行者の会社名・TIN(Taxpayer Identification Number、納税者識別番号)・事業登録住所は、通常BIR認定Invoiceに印字されているため、問題になることはほとんどありません。
購入者情報(買い手)
購入者情報はInvoice発行のたびに記載される項目であるため、抜け漏れや誤りが発生しやすく、特に注意が必要です。発行者側がInvoiceの重要性を十分に認識していない場合、金額だけを記入したり、殴り書きで済ませてしまうケースも珍しくありません。必ず確認し、不備があれば修正を依頼してください。
宛名(購入者の会社名)
最優先で確認すべき項目です。会社名が長い場合に勝手に省略される、あるいは日本本社の名義で発行されるケースがよく見られます。フィリピン法人が費用として計上するためには、仮に日本本社が支払いを立て替える場合でも、Invoice自体はフィリピン法人宛てである必要があります。正式名称で記載されているかを確認してください。
TIN
取引金額が₱1,000以上で、購入者がVAT登録事業者である場合、購入者のTINのInvoiceへの記載が必要です。発行者に対してTINを伝え、確実に記載してもらうようにしてください。
取引内容
商品・サービスの概要と金額の記載が必要です。複数の商品・サービスが含まれる場合、合計金額だけでなく内訳も記載しなければなりません。VATについては、12%VAT・0%VAT・免税(VAT-exempt)の区分を明記する必要があります。なお、0%VATと免税は実質的にVATが発生しない点では同じですが、Input VATの扱いが異なります。この違いについては別記事「Zero-Rated VATとExemptionの違い」で解説しています。
③ 請求金額に誤りがないか
請求金額の誤りは、思っている以上に頻繁に起きます。特に複数の商品・サービスが含まれる取引や、割引・返品などイレギュラーな条件が絡む取引では誤りが発生しやすいです。誤りに気付かないまま支払いを完了してしまうと、修正に手間がかかるだけでなく、過払い分が返金されないケースも珍しくありません。Invoice受領後すぐに金額を確認することを習慣にしてください。
④ 拡大源泉税額が明記されているか
拡大源泉税(Expanded Withholding Tax、EWT)のInvoiceへの記載は法的な必須事項ではないため、発行者(売り手)が自発的に記載してくれないケースが実務上は多くあります。その場合、買い手が自ら適用税率を判断して計算する必要がありますが、EWTの税率体系は複雑で、専門家でも判断に迷う場面があります。税率や税額を誤ると追徴課税の対象となります。
確実な方法は、その商品・サービスを専門とする発行者にEWTの税率と税額を明記してもらうことです。発行者に対して記載を要求し、買い手はその金額を控除した純支払額を支払う形にすることで、誤りのリスクを最小化できます。
⑤ 支払方法・期限・発行日が適切か
支払方法・期限についても、トラブルとならないように確認しておくことが望ましいです。例えば支払方法について、現金、小切手、銀行振込、GCash送金などの方法が一般的ですが、会社によっては受け付けてくれないケースもあります。支払期限に関しては、15~30日程度に設定されることが一般的ですが、中には5~10日程度に設定されることもあるため、遅延時のペナルティと併せて確認しておくことを推奨します。また、発行者の業務フローなどの問題で、Invoiceに記載された発行日と、実際の発行日に乖離が生じていることも少なくありません。
おわりに
上記のチェックは、Invoice受領のたびに行う必要があるため手間がかかりますが、後からの修正や追徴課税を避けるためには受領時点での確認が不可欠です。不備が発覚した際に追徴課税を受けるのは、発行者ではなく買い手です。記載内容に問題があれば、遠慮なく修正を求めてください。BIR認定Invoiceを正確に発行することは発行者の義務であり、買い手が要求することは当然の権利です。なぜここまで証憑が重視されるのか、その制度的な背景を押さえておきたい方は「Invoice制度とVAT証憑管理」もあわせてご覧ください。
Invoiceの確認方法や拡大源泉税の税率判断など、実務でお困りのことがあれば、当社にお気軽にご相談ください。