フィリピンで従業員を雇用する際、給与計算のなかでも特に注意が必要なのが「割増賃金」の取り扱いです。日本にも時間外手当や休日手当の制度がありますが、フィリピンではLabor Code of the Philippines(労働法)に基づく独自のルールが定められており、祝日の種類によって割増率が細かく異なるなど、日本の制度とは異なる点が少なくありません。
本記事では、フィリピンにおける割増賃金の種類と割増率、計算の考え方、そして実務上の注意点を整理します。
フィリピンにおける割増賃金とは
フィリピンの労働法では、通常の勤務時間や勤務日を超えて労働した従業員に対し、通常の賃金に一定の割合を上乗せした賃金を支払うことが義務づけられています。この上乗せ分を含む賃金が、いわゆる「割増賃金」です。フィリピンの割増賃金は、大きく分けて次の3種類に分類されます。
- Overtime Pay(時間外労働手当):1日8時間を超える労働に対して支払われる割増賃金
- Premium Pay(休日・休息日労働手当):休息日(Rest Day)や祝日(Holiday)に労働した場合に支払われる割増賃金
- Night Shift Differential(深夜労働手当):午後10時から翌午前6時までの深夜時間帯に労働した場合に加算される手当
これらはそれぞれLabor Codeの異なる条文に根拠があり、適用要件や割増率も異なります。なお、管理職(Managerial Employees)など一部の職種については割増賃金の適用が除外されるケースがあります。この点については後述します。
割増賃金の種類と割増率
割増賃金の一覧
以下の表は、勤務日・勤務状況の組み合わせ別に適用される割増率をまとめたものです。
| 勤務の状況 | 最初の8時間 | 8時間超(残業) |
|---|---|---|
| 通常の勤務日(Regular Working Day) | 100% | 125% |
| 休息日(Rest Day) | 130% | 169% |
| Special Non-Working Day | 130% | 169% |
| Special Non-Working Day + 休息日 | 150% | 195% |
| Regular Holiday(法定祝日) | 200% | 260% |
| Regular Holiday + 休息日 | 260% | 338% |
※ Regular Holidayについては、勤務しなかった場合も100%(有給)
※ Special Non-Working Dayについては、勤務しなかった場合は原則無給(No Work, No Pay)
※ 上記のすべてのケースに対し、深夜時間帯(午後10時〜翌午前6時)の勤務には別途Night Shift Differential(+10%)が加算されます
Overtime Pay(時間外労働)
Labor Code第87条に基づき、1日の法定労働時間である8時間を超えて労働した場合、超過した時間について通常賃金の25%以上を加算した賃金を支払う必要があります。
- 通常の勤務日に8時間を超えて労働した場合:通常の時間給 × 125%
- 休息日または祝日に8時間を超えて労働した場合:その日の最初の8時間に適用される割増率に、さらに30%を乗じた率を適用
たとえば、Regular Holiday(法定祝日)に出勤し、さらに残業が発生した場合は、最初の8時間の割増率(200%)にさらに1.30を乗じた260%が時間外分に適用されます。
Premium Pay(休日・休息日労働)
フィリピンでは祝日がRegular Holiday(法定祝日)とSpecial Non-Working Day(特別非稼働日)の2種類に分けられており、それぞれ割増率が異なります。
Regular Holiday(法定祝日)
Regular Holidayについては、労働の有無にかかわらず1日分の賃金が支払われます(いわゆる「有給」の祝日です)。この日に実際に勤務した場合は、通常の日給の200%が支払われます。
- 勤務しなかった場合:通常の日給の100%(有給)
- 勤務した場合(最初の8時間):通常の日給の200%
- 勤務した場合で、かつ休息日と重なった場合(最初の8時間):通常の日給の260%
Special Non-Working Day(特別非稼働日)
Special Non-Working Dayについては、出勤しなかった場合に賃金を支払う義務は原則としてありません(いわゆる「無給」の祝日)。ただし、「No Work, No Pay」の原則に対して例外を設ける就業規則や雇用契約がある場合はその定めに従います。
- 勤務しなかった場合:無給(原則)
- 勤務した場合(最初の8時間):通常の日給の130%
- 勤務した場合で、かつ休息日と重なった場合(最初の8時間):通常の日給の150%
Night Shift Differential(深夜労働)
Labor Code第86条により、午後10時から翌午前6時までの時間帯に労働した従業員には、通常賃金の10%以上を加算したNight Shift Differential(深夜労働手当、以下「NSD」)が支払われます。
NSDは、他の割増賃金と重複して適用されます。たとえば、通常の勤務日に午後10時以降に残業が発生した場合、Overtime Payの25%加算に加えてNSDの10%加算が適用されるため、実質的には通常賃金の135%相当が支払われることになります。
割増賃金の計算例
具体的な計算方法を、月給制のオフィス勤務従業員(週5日勤務)を例にして確認します。月給が₱26,000の場合、週5日勤務(月曜〜金曜)の標準的な除数は261日です。1日あたりの賃金と1時間あたりの賃金は次のように算出されます。
日給 = 月給 × 12ヶ月 ÷ 年間所定労働日数
= ₱26,000 × 12 ÷ 261
= 約₱1,195.40
時間給 = 日給 ÷ 8時間
= ₱1,195.40 ÷ 8
= 約₱149.43
この従業員が、通常の勤務日に2時間の残業をした場合のOvertime Payは以下のとおりです。
Overtime Pay = 時間給 × 125% × 2時間
= ₱149.43 × 1.25 × 2
= 約₱373.57
また、Regular Holidayに8時間勤務した場合の割増賃金(上乗せ分)は以下のとおりです。
Holiday Premium = 日給 × 100%(通常の100%に加え、さらに100%を加算)
= ₱1,195.40 × 1.00
= 約₱1,195.40(合計支給額は日給の200% = 約₱2,390.80)
なお、年間所定労働日数の除数については、会社の就業規則や休日の取り扱い(Special Non-Working Dayを有給とするかどうかなど)によって261日以外の数値が使われることもあります。自社の除数が適切かどうかは、就業規則や雇用契約の内容と合わせて確認することをお勧めします。
最低賃金労働者の割増賃金と所得税の非課税
フィリピンの税法上、Minimum Wage Earner(最低賃金労働者、以下「MWE」)が受け取る割増賃金には所得税が課されません。これはRepublic Act No. 9504(最低賃金労働者の非課税に関する法律)に基づくもので、MWEの基本給(Statutory Minimum Wage)だけでなく、Holiday Pay、Overtime Pay、Night Shift Differential、Hazard Payについても所得税が免除されると規定されています。
この非課税の取り扱いは、2018年に施行されたTRAIN Law(Tax Reform for Acceleration and Inclusion)の下でも引き続き維持されています。
ただし、注意が必要なのは、MWEであっても法定の最低賃金を超える手当や報酬を受け取っている場合、その超過分については課税対象となる可能性があるという点です。また、MWEの認定は勤務地域ごとに定められた最低賃金額に基づくため、地域が変わればMWEの判定も変わります。
実務上のよくある誤りと注意点
フィリピンで割増賃金を運用するにあたり、日系企業が特に気をつけるべきポイントをいくつか挙げます。
除数(日給・時間給の算出方法)の設定
割増賃金の計算は時間給を基礎とするため、除数(年間所定労働日数)の設定が適切でなければ、すべての割増賃金計算に誤りが生じます。週5日勤務のオフィス勤務では261日が標準的な除数ですが、Special Non-Working Dayを有給としているかどうかなど、会社の方針によって異なる場合があります。この計算方法を就業規則等に明確に定めておくことが重要です。
管理職(Managerial Employees)の除外規定
Labor Codeでは、経営方針の決定に関与する管理職等の一部の職種について、時間外労働手当やNSDの適用を除外しています。ただし、役職名だけで「管理職」と判断することはできず、実際の職務内容が管理的・監督的であるかどうかが基準となります。DOLE(Department of Labor and Employment、労働雇用省)の調査において、実態と乖離した除外適用が指摘されるケースもありますので、職務内容の実態に基づいて慎重に判断する必要があります。
勤怠記録の適切な管理
割増賃金の計算は正確な労働時間の記録が前提となるため、タイムシートや勤怠管理システムを適切に運用し、残業時間や深夜勤務時間を正確に把握しておくことが求められます。DOLEの査察(Labor Inspection)では、勤怠記録と給与台帳の整合性が確認されることがあり、記録に不備がある場合には是正指導や遡及支払いを求められるリスクがあります。
祝日の種類の確認
フィリピンでは年によって祝日の日付が変更されたり、大統領令により臨時の祝日や振替が発生したりすることがあります。Regular HolidayとSpecial Non-Working Dayでは割増率が大きく異なるため、その年のDOLE Labor Advisoryを毎年確認し、給与計算に正しく反映させることが重要です。
まず、月給制における日給・時間給の算出方法です。割増賃金の計算は時間給を基礎とするため、除数(年間所定労働日数)の設定が適切でなければ、すべての割増賃金計算に誤りが生じます。週5日勤務のオフィス勤務では261日が標準的な除数ですが、特別休日を有給としているかどうかなど、会社の方針によって異なる場合があります。この計算方法を就業規則等に明確に定めておくことが重要です。
おわりに
フィリピンにおける割増賃金は、祝日の分類や組み合わせによって割増率が細かく変わるため、日本の制度に慣れた担当者にとっては複雑に感じられる分野です。しかし、Labor Codeの基本的なルールを理解し、正確な勤怠管理と計算を行うことで、DOLEの査察にも対応できる適正な給与管理が実現できます。
フィリピンでの給与計算や労務管理についてご不明な点がございましたら、お気軽に当社までご相談ください。