フィリピンでの会社設立は、銀行口座開設から始まり、SEC登記、BIR登録、LGU許可取得、労務・社会保険登録と、複数の行政機関に対して順を追って手続きを進めていく必要があります。進出形態(株式会社・支店・駐在員事務所)を問わず、基本的な流れは同一です。設立作業に着手してから営業活動が開始できる状態になるまでの所要期間は、一般的に約3〜4か月程度です。また、会社設立に際してフィリピンへの渡航・滞在は必須ではありません。

全体の流れを大きく整理すると、以下のステップで進みます。

  1. 事前準備
  2. 銀行口座開設・資本金送金
  3. SEC登記
  4. BIR登録
  5. LGU登録
  6. 労務・社会保険関連の登録
  7. BSP登録(任意)

以下、各ステップについて詳しく説明します。

事前準備

会社設立に際しては、事前に準備すべき事項が多くあります。会社名の決定や役員構成の検討、登記住所の選定、資本金額の決定など、設立申請に必要な基本情報を整えておくことが、その後の手続きをスムーズに進めるうえで最も重要です。

事前準備の内容については、別記事「会社設立の事前準備」にて詳しく解説しています。設立作業に着手する前に、あわせてご参照ください。

銀行口座開設・資本金送金

資本金を送金するため、まずはフィリピン国内の銀行に Treasurer-in-Trust Fund Account(以下「一時口座」)と呼ばれる専用の資本金受取口座を開設します。一時口座は、SEC登記が完了するまでの間、資本金を預かるための口座です。利用できる銀行は、日系メガバンクのマニラ支店、その提携先の地場銀行、その他地場銀行の中から選択いただくことになります。

一時口座の開設が完了次第、日本から資本金を送金します。送金完了後、一時口座を開設した銀行から、SEC提出用とBSP(中央銀行)提出用のCIR(対内送金証明書)を取得します。

SEC登記

Securities and Exchange Commission(以下「SEC」)への登記が、フィリピンにおける法人設立の中核となる手続きです。

SECのオンラインシステムから申請を行い、定款・付属定款、財務役宣誓書(資本金を受領した旨)などの必要書類のスキャンコピーを提出します。その後、SEC担当官による審査が行われます。指摘や修正依頼が入る可能性があるため、弊社が窓口となり対応します。審査完了次第、登記費用の支払い指示がありますので、それに従って支払いを進めます。さらに必要書類の原本を提出すると、数営業日後にデジタル版のSEC登記証書が発行されます。原本の証書は、後日取得可能です。

発行される登記証書の名称は、進出形態によって異なります。株式会社の場合は Certificate of Incorporation(法人設立証書)、フィリピン支店・駐在員事務所の場合は License to Transact Business in the Philippines(フィリピン事業ライセンス)という名称で発行されます。

SEC登記完了後のお客様対応事項

SEC登記が完了すると、フィリピンで法人格が成立したことになり、フィリピン法人名義での各種契約締結が可能となります(支店・駐在員事務所の場合は独立した法人格はないものの、同様に契約締結が可能です)。以降の手続きをスムーズに進めるため、下記の対応を速やかに行っていただく必要があります。

登記オフィスのリース契約締結

フィリピン法人名義で、登記オフィスのリース契約を締結します。通常は、登記前の段階で親会社名義などでリース契約を締結しているため、その契約をフィリピン法人名義に変更することになります。

設立株主総会・取締役会の開催(株式会社のみ)

フィリピン法人設立後、最初の株主総会・取締役会として Organizational Meeting を開催します。まず設立株主総会を開催して取締役を選任し、続いて設立取締役会を開催して法定役員(社長・秘書役・財務役)を選任します。設立取締役会では、あわせて銀行口座の開設と決裁権の設定、重要な契約の決議、各行政機関への申請者の任命など、事業運営に必要な重要事項をまとめて決議するケースが一般的です。フィリピン支店・駐在員事務所はこの手続きの対象外です。

GISの作成・提出

初回の株主総会から30日以内に、General Information Sheet(会社基本情報届)を作成し、SECに提出します。設立初年度の提出は必須ではありませんが、取引先や行政機関から提示を求められる機会が多いため、作成しておくことを推奨します。なお、提出者は株式会社であれば秘書役、フィリピン支店・駐在員事務所であれば居住代理人となります。

BIR登録

Bureau of Internal Revenue(以下「BIR」)への登録は、新設するフィリピン法人の登録だけでなく、それに付随する複数の手続きが必要です。以下の手続きを、BIRの地域事務所に相当するRDO(管轄税務署)に対して行います。

個人のTIN取得

取締役は TIN(Tax Identification Number、納税者識別番号)が必要となるため、会社設立に先立ち取得します。通常は、非居住者のTINを専門に扱うRDO39で申請を行い、9桁のTINが発行されます。

外国法人のTIN取得

新設するフィリピン法人の株主となる日本本社(または第三国の地域本社)のTINを取得します。フィリピン支店・駐在員事務所の場合も同様に、本店として日本本社のTINを取得することになります。個人のTINと同様に、RDO39で申請を行い、9桁のTINが発行されます。

BIR-RDO登録

新設するフィリピン法人をBIR-RDOに登録します。SEC登記完了後、30日以内に登録申請を開始しなければならないため、SEC登記が完了次第、速やかに手続きに着手することが重要です。登記オフィスの所在するRDOで申請を行うと、RDOから BIR Form 2303(Certificate of Registration、登録証書)が発行されます。BIR Form 2303には、新設法人のTIN、登録日、対象となる税務申告の一覧などが記載されています。この登録日から、税務コンプライアンスの対応が始まります。

DST納付

株式の新規発行および登記オフィスのリース契約に係る DST(Documentary Stamp Tax、印紙税)を納付します。DSTは対象取引発生の翌月5日が納税期限となるため、速やかな対応が必要です。

ATP取得・請求書印刷

Authority to Print(以下「ATP」、印刷許可証)をBIR-RDOに申請し取得します。ATPはフィリピンの税法に基づく請求書・領収書を事前登録するための手続きであり、ATPが無いとBIR認定の請求書・領収書の印刷に進むことができません。取得次第、BIR認定の印刷業者にて請求書・領収書を印刷します。

会計帳簿の登録

ATP同様に、Books of Accounts(会計帳簿)をBIR-RDOに登録します。会計帳簿もフィリピンの税法に基づき事前登録が必要です。会計帳簿には3種類あり、詳細はこちらの記事にて解説しています。

LGU登録

事業開始に先立ち、LGU(地方自治体)に登録を行い、各種許可証を取得します。必要な許可証の種類や手続きの流れは自治体によって異なる場合がありますが、一般的には以下の手続きを順に進めることになります。

バランガイクリアランス取得

登記オフィスの所在するバランガイ(市よりもさらに小さな行政単位)から、Barangay Clearance(バランガイクリアランス)を取得します。バランガイ内で事業を行うための許可証であり、後続の手続きの多くで提出を求められる基本書類です。

ロケーショナルクリアランス取得

市役所の都市開発局から、Locational Clearance(ロケーショナルクリアランス)を取得します。事務所の所在地が市のゾーニング規制に適合していることを確認するための許可証です。

住民税納付証明書取得

フィリピン法人の住民税を市役所に支払い、Community Tax Certificate(住民税納付証明書)を取得します。

防火安全検査証明書取得

市役所の消防局から、Fire Safety Inspection Certificate(防火安全検査証明書)を取得します。事業所が火災に対する安全基準を満たしていることを確認するための許可証です。必要に応じ、オフィスへの立入検査が実施される場合もあります。

衛生許可証取得

市役所の保健局から、Sanitary Permit(衛生許可証)を取得します。保健衛生基準を満たしていることを証明する許可証です。

なお、日系企業が多く所在するマカティ市では、仮衛生許可証(Temporary Sanitary Permit)と恒久衛生許可証(Permanent Sanitary Permit)の2種類が存在し、通常はまず仮衛生許可証が発行されます。Temporary Sanitary Permitが発行された場合、その後90日以内にPermanent Sanitary Permitへの切り替え手続きが必要となる点にご注意ください。

なお従業員不在の場合は、その旨を記載した宣誓書を作成し提出することで、Permanent Sanitary Permitが発行されます。

賠償責任保険加入

民間の保険会社を通じて、Public Liability Insurance(CGL、賠償責任保険)に加入します。事業活動中に発生する可能性のある第三者への損害や負傷に対する補償を提供する保険であり、営業許可証取得の前提として求められます。

営業許可証取得

上記の各許可証・書類一式を揃えて提出すると、市役所から Billing Assessment(査定結果を反映した請求書)が発行されます。手数料の支払い後、Business Permit / Mayor’s Permit(営業許可証)が発行されます。営業許可証の取得をもって、フィリピン法人として事業活動を開始することが可能となります

労務・社会保険関連の登録

従業員を雇用する場合は、営業許可証の取得前後のタイミングで、労務・社会保険関連の登録手続きも並行して進めます。

DOLE登録

Department of Labor and Employment(以下「DOLE」、労働雇用省)に雇用主として登録を行います。既に従業員が在籍している場合には、対象従業員の人数も併せて報告します。

SSS/Philhealth/Pag-IBIG登録

法定社会保険である SSS(国民年金)、PhilHealth(健康保険)、Pag-IBIG(持家促進相互基金)への登録をそれぞれ行います。まず雇用主として登録を行うと、Certificate of Registration(登録証)が発行されます。

さらに雇用主登録とは別に、それぞれの機関のオンラインポータルを使用するための登録手続きも必要になります。その後は、従業員が入社するたびに従業員登録を行います。

BSP登録(任意)

Bangko Sentral ng Pilipinas(以下「BSP」、中央銀行)への投資登録は、義務ではなく任意の対応事項です。ただし、将来的に配当などを行う場合、フィリピンペソから外貨(日本円やUSドル)に両替する際に、銀行から BSRD(中央銀行登録証書)の提示を求められるケースがあります。後になって登録しようとすると手続きが煩雑になることもあるため、初回投資のタイミングであらかじめBSP登録を済ませておくことを強く推奨します。

おわりに

フィリピンでの会社設立は、SEC登記を中心に、BIR・LGU・労務関連と幅広い行政機関への対応が求められます。各手続きには期限が設けられているものも多く、全体のスケジュールを見据えながら進めることが重要です。手続きの進め方や各ステップの詳細については、お気軽に弊社までご相談ください。