フィリピンから日本の親会社に配当・利息・ロイヤルティを送金する際には、フィリピン国内法に基づく最終源泉税が課されます。日比租税条約を適用すれば税率を大幅に引き下げることが可能ですが、条約上の軽減税率は申請なしに自動的に適用されるわけではありません。軽減税率の恩恵を受けるためには、BIRのITAD(International Tax Affairs Division、国際税務担当部署)に申請を行い、Certificate of Entitlement to Treaty Benefit(以下「証明書」)を取得する手続きが必要です。

本記事では、証明書の取得手続きの概要と実務上の注意点を解説します。配当・利息・ロイヤルティ等の軽減税率については、別記事「日比租税条約」および「最終源泉税」をあわせてご参照ください。

3つの申請方式

証明書の取得方法には、大きく分けて3つの方式があります。

事前申請(TTRA:Tax Treaty Relief Application)

取引を行う前に、あらかじめITADへTax Treaty Relief Application(以下「TTRA」)を提出して審査を受け、軽減税率の適用が認められた上で取引を行う方式です。BIRから正式な確認を得てから税率を適用できるため、確実性は高い一方、申請から審査完了まで時間を要するため、支払いのタイミングに間に合わせることが難しいという問題があります。

RFC(Request for Confirmation):実務上の主流

源泉徴収義務者(フィリピン法人)がまず軽減税率を適用して源泉徴収・納税を行い、その後にITADへ申請して証明書を取得するという事後申請方式です。万一申請が否認された場合には、追加納税に加えてペナルティが課されますが、そのリスクを考慮してでも、RFCの方が実務上は理にかなっており主流となっています。

申請期限は、源泉徴収を行った課税年度の終了後、第4月の末日までです。暦年(1月〜12月)課税の法人であれば翌年4月30日が期限となります。以降はRFCを中心に解説します。

通常税率での納税後に還付申請する方式

いったん国内法上の通常税率で源泉徴収・納税を行い、その後TTRAを申請して証明書(Certificate of Entitlement to Treaty Benefit)を取得した上で、超過納税分についてBIRへ還付申請を行う方式です。還付請求にはBIR Form No. 1913を使用し、過誤納税日から2年以内に申請する必要があります。

この方式は制度上は有効ですが、実務上、還付申請は承認を得るまでのハードルが高く、審査期間も長期化しやすい傾向があります。RFCによって軽減税率を事後的に確定させる方式と比較して、あえてこの方式を選択するメリットは乏しく、実務上は積極的に選択されることはほとんどありません。

申請の流れ(RFC)

RFC申請の基本的な流れは以下の通りです。

  1. 軽減税率を適用して源泉徴収を行い、BIRへ納税する
  2. 必要書類を準備する(日本側の書類はアポスティーユ取得が必要)
  3. ITADへ申請書類一式を提出する
  4. BIRによる審査・照会対応(追加書類の提出を求められることもある)
  5. 証明書(Certificate of Entitlement to Treaty Benefit)が発行される

上記1について、あらかじめ租税条約を適用することを見越して、軽減税率による納税を行うことにご留意ください。また、税務申告書を提出する際には、租税条約の適用(Availing Tax Treaty)の欄に忘れずにチェックマークを入れる必要があります。

RFC申請の主体はフィリピン側の源泉徴収義務者(フィリピン法人)ですが、Tax Residency Certificate(以下「居住者証明書」)の取得や各種書類の準備は日本の所得受領者側の協力が不可欠です。日本とフィリピン双方で連携して書類を揃える必要があることを、あらかじめ関係者間で共有しておくことが重要です。

必要書類

RMO No. 14-2021 Section 5に基づく必要書類は以下の通りです。所得の種類を問わず求められる共通書類と、所得の種類ごとの追加書類があります。

共通書類(全所得種類共通)

  1. Letter-request(申請趣旨書)
  2. BIR Form No. 0901(Application for Relief from Double Taxation、租税条約適用申請書)※所得受領者または代理人が署名
  3. Tax Residency Certificate(居住者証明書)※日本の国税局が発行。該当期間のもの
  4. Proof of remittance(送金証明書類)※銀行書類・預金証書・電信送金証明等
  5. Withholding tax return with alphalist(源泉税申告書、アルファリスト付)
  6. Proof of payment of withholding tax(源泉税納付証明)
  7. Notarized Special Power of Attorney(公証済委任状)※代理人が申請する場合
  8. Articles of Incorporation and By-Laws(定款)・Certificate of Incorporation(設立証明書)
  9. SEC Certificate of Non-Registration(非登録証明)※日本法人がフィリピンで登記されていないことの証明

所得の種類別 追加書類と申請書式

配当(Dividends)

  1. Board Resolution(取締役会決議書、配当額・宣言日等を記載)
  2. Sworn Statement on the stockholdings(株主構成に関する宣誓証明書)
  3. 最新のAudited Financial Statements(監査済財務諸表、BIR・SEC受領印あり)
  4. General Information Sheet(株主・役員情報届出書)
  5. Proof that the shareholding in respect of which the dividends are paid is not effectively connected with the PE of the foreign enterprise in the Philippines(株式がフィリピン国内の恒久的施設に紐づいていないことの証明)

利息(Interest)

  1. Duly executed loan contract(ローン契約書)
  2. Proof of remittance(送金証明書類)
  3. Proof that the debt-claim in respect of which the interest is paid is not effectively connected with the PE of the foreign enterprise in the Philippines(債権がフィリピン国内のPEに紐づいていないことの証明)
  4. Proof that the interest rate is arm’s length, if the debtor and creditor are related parties(関連会社間取引の場合は金利設定が独立当事者間取引と同等であることの証明)

ロイヤルティ(Royalties)

  1. License Agreement duly executed by the parties(ライセンス契約書)
  2. Proof of ownership of the subject intangible(対象権利の所有証明、特許・商標等)
  3. Proof that the right or property in respect of which the royalties are paid is not effectively connected with the PE of the foreign enterprise in the Philippines(当該権利がフィリピン国内のPEに紐づいていないことの証明)

支店利益送金(Branch Profit Remittance)

  1. Sworn Statement indicating the amount and date of remittance(送金額・送金日を記載した宣誓証明書)
  2. AFS of the branch(支店の監査済財務諸表)

事業利益・役務提供(Business Profits / Services)

  1. Contract duly executed by the parties or their authorized representatives(契約書)
  2. Special Power of Attorney authorizing the signatory(ies) to the contract to sign on behalf of the principal(本人に代わって契約の署名者が署名を行う権限を付与する特定委任状)
  3. Sworn Statement(役務内容・提供場所・担当者情報等を記載した宣誓証明書)
  4. Proof of entry and exit(入出国証明またはパスポート)
  5. Certificate of Project Completion(プロジェクト完了証明書)
  6. Invoice(請求書)

なお、BIRは必要と判断した場合、上記以外の追加書類を求める権限を留保しています。

海外文書の認証について

日本で作成した書類をフィリピンに提出する場合、外務省によるアポスティーユの取得が必要です(日本は1961年ハーグ条約加盟国)。認証なしでは書類として受理されないため、日本側の準備には相応のリードタイムを見込んでおく必要があります。

証明書(COE)の発行までにかかる期間

RMO No. 14-2021では、書類が完備されてから4ヶ月以内に処理することが規定されています。しかし実務上は、ITADの案件バックログや担当者とのやり取りにより、規定通りに処理されないケースも少なくありません。

実務上の目安としては以下の通りです。

  • 配当・利息・支店利益送金など比較的シンプルな案件:3〜4ヶ月程度
  • ロイヤルティ・役務提供など論点が生じやすい案件:6ヶ月〜1年以上

追加書類の照会が入った場合や、申請内容に論点がある場合はさらに長期化することもあります。証明書取得を前提とした税務処理を行う場合は、この期間を十分に見込んだうえでスケジュールを組む必要があります。

証明書の有効期限と継続利用

一度取得した証明書は、当事者(所得の受領者・支払者)や取引の実態に変更がない限り、毎年取り直す必要はなく、継続して利用することができます。

ただし、1年を超える長期契約(ロイヤルティ契約・融資契約・役務提供契約等)については、RMO No. 14-2021上、年次更新の申請(申請書の更新・居住者証明書の更新等)が求められています。なお、居住者証明書には通常有効期限があるため、証明書を継続利用する場合でも、居住者証明書の有効期限の管理は別途必要です(とされていますが、実務上は提示を求められてからの事後対応でも問題ありません)。

費用・労力と費用対効果の現実

専門家への委託が実質的に必須

証明書の取得申請は、ITADとのやり取りや書類の要件確認など、フィリピンの税務実務に精通していなければ対応が困難です。かつ、日本本社とのコミュニケーションや日本の制度の理解が不足していると、申請がスムーズに進まない要因となります。従って、租税条約の軽減税率に際しては、日系の会計事務所やBig4などが候補となります。

企業が自力で申請を試みるケースもありますが、書類の不備による差し戻しや長期化のリスクが高く、結果的に時間・コストがかさむことになりがちです。

費用対効果は要検証

申請にかかるコストは主に以下の通りです。

  • 専門家への委託費(会計事務所等への委託費用)
  • 日本側での書類取得費用(居住者証明書の申請、アポスティーユ取得等)
  • BIRへの処理・証明手数料(BIR Form No. 0605による₱5,000等)
  • 担当者の時間・労力(日本・フィリピン双方)

これらのコストを総合すると、削減できる税額が小さい場合はコスト負けとなるリスクが高くなります。軽減税率の適用によって節税される金額が相当規模(実務上の目安として最低100万ペソ)でない限り、費用対効果の観点から申請を見送るという判断も合理的です。

配当・利息・ロイヤルティ等の取引が継続的かつ一定規模以上である場合に、申請のメリットが最も大きくなります。単発の少額取引については、申請コストとの見合いを慎重に検討することをお勧めします。

おわりに

日比租税条約の軽減税率は、適切に活用すれば税負担を大幅に削減できる有効な手段です。一方で、証明書の取得には専門的な知識と相応の時間・コストが伴います。取引の規模・継続性・所得の種類を踏まえたうえで、費用対効果を見極めながら判断することが重要です。申請の要否の検討から手続きの実務対応まで、ご不明な点があればお気軽にご相談ください。