フィリピンに登記された法人の監査済財務諸表(AFS)やGISを取り寄せる窓口には、紙の書類を宅配で受け取る「SEC Express」と、電子ファイルをその場でダウンロードできる「SEC eSEARCH」があります。取得できる書類の中身は同じですが、費用と所要時間が大きく異なり、単に内容を確認したいだけであればeSEARCHのほうが安く、早く済みます。この記事では両者の違いと使い分けを解説します。

SECの登記書類を取り寄せる2つの窓口

フィリピンの法人情報を確認しようとした場合、従来はSECのオフィスに直接赴いて書類を請求する必要がありました。これをオンラインで代替する仕組みとして先に整備されたのがSEC Expressで、申請と支払いはウェブ上で完結しますが、書類そのものは紙で郵送されます。

その後にSECが立ち上げたSEC eSEARCH(Electronic SEC Education, Analysis, and Research Computing Hub)は、書類の検索から購入、PDFのダウンロードまでをブラウザ上で完結させるポータルです。郵送を挟まないため、決済が終わった時点で手続きも終わります。オフィスにいながら数分で書類が手元に届くという点で、実務上の負担は大きく変わりました。

SEC eSEARCH|電子ファイルをその場でダウンロードする

eSEARCH(esearch.sec.gov.ph)では、法人名またはSEC登録番号で対象法人を検索し、その法人がSECに提出している書類の一覧から必要なものを選んでカートに入れ、決済後にPDFをダウンロードします。書類の一覧には提出年度とページ数が表示されるため、どの年度のAFSが提出済みなのかを購入前に確認できます。長期にわたって未提出の法人であれば、その事実も一覧を見た時点で分かります。

eSECUREアカウントの開設が前提になります

eSEARCHを使うには、SECの共通ID基盤である「eSECURE」(esecure.sec.gov.ph)のアカウントが必要です。eSECUREはeSPARC(会社設立)やeFAST(年次報告書の提出)など他のSECオンラインサービスにも共通して使われる仕組みで、開設にあたっては政府発行の身分証明書(外国人の場合はパスポートなど)の提出と、その場で顔を撮影する生体認証が求められます。アカウント開設には別途手数料がかかり、有効期限があるため定期的な更新も必要です。

登録から利用開始までは一連の手続きがオンラインで完結しますが、身分証の画像が不鮮明であったり顔認証がうまく通らなかったりして開設に手間取ることもあります。急ぎで書類が必要になってから登録を始めると間に合わないため、フィリピン企業との取引が想定される会社であれば、必要になる前に開設しておくほうが実務上は楽です。

取得できる書類と費用

取得できる書類の種類は、GIS、AFS、定款(Articles of Incorporation)、附属定款(By-laws)など、SEC Expressで請求できるものとおおむね同じです。このうち実務でとくによく使われるのはGISとAFSです。GISにはその年度時点の役員名・株主構成・登録住所・授権資本金(Authorized Capital Stock)・払込資本金(Paid-up Capital)などが記載されており、相手先法人の実態を把握するうえで有用な情報が詰まっています。AFSは企業の収益状況や財務健全性を確認する際に使います。

費用は書類1件あたりの定額で、AFSでもGISでも同額です。紙のコピーを取り寄せる場合と比べて書類代そのものが安いうえ、配送料が発生しません。SECは文書請求にかかる手数料を段階的に引き下げており、2026年6月からさらに安くなりました。金額は今後も改定される可能性があるため、実際の請求前にeSEARCHの画面で確認してください。2026年8月時点では、GISとAFSともに₱280のみで取得可能です。

なお、eSEARCHでは通常のコピー(Plain Copy)に加えて認証謄本(Certified True Copy)も選択できます。認証謄本は電子署名と検証用のQRコードが付されたPDFとして交付されるため、提出先が電子公文書の受理に対応していれば、紙の謄本を取り寄せずに済みます。提出先が電子形式を受け付けるかどうかは事前に確認してください。

SEC Express|紙の書類を宅配で受け取る

SEC Express(secexpress.ph)は、SECの窓口に出向くことなく公式書類を取り寄せられるオンライン申請サービスです。GCash・Maya・クレジットカード・銀行振込などで支払いが可能で、Metro Manila域内であればSEC内での処理完了後3〜5営業日、地方向けは最大7営業日での配達が目安とされています。書類はPDFなどの電子ファイルとして即時ダウンロードできるわけではなく、申請後に郵送で届きます。

eSEARCHが使えるようになったいま、SEC Expressの出番は「紙の原本でなければ受け付けてもらえない場面」に限られます。フィリピン外務省でのアポスティーユ認証を経て国外で使う場合、訴訟の証拠として裁判所に提出する場合、あるいは銀行や一部の官庁が公印の押された紙の謄本しか受理しない場合が、これにあたります。書類代のほかに配送料などが加わるため、1件あたりの負担はeSEARCHより相応に重くなります。

使い分けの目安

取引先の与信判断や競合分析のように、社内で内容を読むことが目的であれば、eSEARCHで足ります。まずeSEARCHで直近数期分のAFSと最新のGISを取得して初期判断を行い、契約締結や合弁設立の段階に進んで紙の原本が必要になった時点でSEC Expressを使う、という順序が合理的です。

一方で、eSECUREアカウントの開設をこれから行うのであれば、1件だけ書類が欲しいという場面ではSEC Expressのほうが手っ取り早いこともあります。アカウント開設の手間をかける価値があるかどうかは、今後もフィリピン法人の情報を継続的に取得するかどうかで判断してください。なお、eSEARCHは配送を伴わないため、日本本社の担当者が自分で取得することもできます。

法人の基本情報確認には「Check with SEC」も活用できる

書類の取り寄せが必要ない簡易確認であれば、SECが提供する別サービス「Check with SEC」(checkwithsec.sec.gov.ph)が便利です。スマホアプリも利用できます。

会社名またはSEC登録番号を入力するだけで、法人の登録状況(アクティブか否か)や基本的な企業情報を無料で確認できます。「取引先候補の会社が本当にSECに登記されているのか」「会社名と登録番号が一致しているか」「正確な登記住所はどこか」などを素早く確認したい場合には、まずこちらを利用するのが効率的です。書類の中身まで確認する必要が生じてから、はじめてeSEARCHやSEC Expressに進むという使い分けが、実務上は自然な流れです。

実務での使いどころ

取引先の実在確認・信用調査の第一歩として

フィリピンで新たな取引先と契約を締結する前に、相手先法人が適切にSEC登記されているかを確認することは、リスク管理の出発点になります。GISを取り寄せることで、登記上の役員・株主構成を把握でき、担当者から聞いた情報との整合性を確かめることができます。フィリピンでは幽霊会社やペーパーカンパニーとのトラブル事例も珍しくないため、契約前の簡易チェックとして有効です。

競合他社・業界動向の把握に

競合他社の授権資本金や株主構成の変化は、経営戦略や資金調達の状況を読み解くヒントになります。定点的にGISやAFSを取り寄せて比較することで、市場における競合の動向を把握する補助資料として活用できます。1件あたりの費用が下がったことで、複数社・複数年度をまとめて取得しても負担が抑えられるようになりました。

本格的なデューデリジェンス前の予備調査として

M&Aや合弁事業の検討、取引先の与信管理といった場面では、より詳細な調査(デューデリジェンス)が必要になります。SECから取得できる情報は、そうした本格調査に入る前の予備確認として位置づけるのが適切です。法人の実在確認・登記内容の概要把握・AFSの取得といった初期情報の収集に活用し、その後の判断材料として専門家による詳細分析につなげることが多いです。

利用上の注意点

コンプライアンスレベルの低い企業はそもそも確認できない場合があります

フィリピンでは、GISやAFSの提出義務があるにもかかわらず、長期にわたって未提出のままとなっている法人が一定数存在します。コンプライアンス意識の低い企業ほどこうした傾向があり、皮肉なことに「調査したい相手の情報ほど入手できない」という事態が生じることがあります。eSEARCHもSEC Expressも提出済みの情報にアクセスするサービスであるため、書類が存在しない場合にはチェックのしようがない、という根本的な限界があります。

もっとも、直近年度のAFSが見当たらないこと自体が、その法人の状況を示す材料になります。年次報告を怠っている法人はSECから報告不履行(Delinquent)や登記取消(Revoked)の指定を受けている可能性があり、書類が見つからないという結果を、そのまま与信判断の材料として扱ってかまいません。

情報が最新でない場合があります

提出自体はしていても、提出期限を守らない法人も少なくありません。SECに提出されている書類が古い年度のものにとどまっているケースもあり、取得した情報がかならずしも現在の状況を反映しているとは限りません。また、提出からシステムへの反映までのタイムラグもあります。確認した内容はあくまで「提出済みの情報」として捉えたうえで、必要であれば相手先に直接確認することをお勧めします。

社名の表記ゆれで別会社の書類を取得してしまうことがあります

フィリピンの実務では、企業が対外的に使っているブランド名や屋号と、SECに登記されている正式な商号が異なることが珍しくありません。似た社名の法人が複数存在することもあるため、検索する際は登記上の正式名称かSEC登録番号を確認したうえで指定してください。個人事業主はDTI(貿易産業省)、協同組合はCDA(協同組合開発庁)の管轄であり、そもそもSECのデータベースには存在しません。

SEC Expressは受け取りにフィリピン国内の住所が必要です

SEC Expressは書類をフィリピン国内の住所に郵送するサービスであり、国外の住所を指定することはできません。日本本社の担当者が直接申請・受け取ることはできないため、フィリピン側の関係者に依頼するか、現地の専門家・代行サービスを利用する必要があります。当社でも書類取り寄せの代行に対応しており、原本取得後にPDFにてご共有することが可能です。

取得できるのは公開情報であり、信用調査の代替にはなりません

eSEARCHやSEC Expressで取得できるのは、あくまでSECに提出された公開情報です。財務内容の精査や経営実態の把握には、専門家による追加調査が必要になります。

おわりに

フィリピンの登記書類を取り寄せる手段は、この数年で紙の宅配から電子ファイルの即時取得へと大きく移りました。内容を読むことが目的であればeSEARCHで完結し、紙の原本が必要な場面に限ってSEC Expressを使う、という整理をしておけば、費用と時間の両面で無駄が出ません。

一方で、取得した書類の内容を正確に読み解くには、フィリピンの会社法や開示制度に関する知識が求められます。GISや財務諸表の見方、あるいはその後のアクション(取引可否の判断・与信管理・専門的なDD)についてご不明な点がありましたら、当社までお気軽にご相談ください。