日比社会保障協定とは

フィリピンで働く外国人は、フィリピン国籍の従業員と同様に、Social Security System(以下「SSS」)への加入が義務付けられています。SSSはフィリピンの公的年金・社会保険制度であり、毎月一定額を事業主と従業員が折半して納付するのが原則です。国籍を問わず就労者に加入義務が生じる点は、実務上よく誤解されているポイントです。

一方で、日本とフィリピンは2018年8月1日に社会保障協定を発効させました。この協定は、両国で就労する人が日本とフィリピンの両方の社会保険制度に二重加入し、保険料を二重に負担してしまう状況を回避することを主な目的としています。日本から派遣されてフィリピンで就労する日本人従業員が、一定の要件を満たす場合にはSSSへの加入が免除され、引き続き日本の年金制度のみに加入することができます。

なお、この協定で対象となるのは年金(老齢・障害・遺族)に関する制度のみです。医療保険にあたるPhilHealth(フィリピン健康保険公社)は協定の対象外であり、免除は受けられません。PhilHealthについては、協定の有無にかかわらず、法令上の加入義務が引き続き生じます。この点は実務上の重要な注意点として押さえておく必要があります。

どのような人が免除の対象になるか

免除の対象となる典型的なケース

日比社会保障協定に基づくSSS免除の主な対象は、日本国内の事業主に雇用されたまま、業務上の必要によりフィリピンに派遣されて就労する日本人従業員(いわゆる「派遣被保険者」)です。具体的には、以下のような状況が典型的な対象ケースとなります。

  • 日本の本社または関連会社からフィリピン現地法人に出向・派遣されている日本人従業員
  • 日本側の雇用契約を維持したままフィリピンで業務を行っている者

派遣期間については原則として5年以内であることが要件となっており、5年を超えて引き続きフィリピンで就労する場合には、原則としてSSS加入義務が発生することになります。期間の延長が見込まれる場合は、早めに状況を確認し、必要に応じて対応を検討することをお勧めします。

免除の対象外となるケース

一方、以下のようなケースは一般的に協定の適用対象外となる可能性が高いため、注意が必要です。

  • フィリピンで現地採用された日本人従業員(日本側の雇用関係がない場合)
  • フィリピンで独立して事業を行う個人事業主・フリーランス
  • 日本の雇用関係が実質的に消滅していると判断されるケース

PhilHealthとPag-IBIGの扱い

前述のとおり、SSSの免除が認められた場合でも、PhilHealthについては協定の対象外であり、加入と毎月の拠出が引き続き必要です。免除はあくまでSSSに限られる点を明確に認識しておくことが重要です。

なお、Pag-IBIG(フィリピン住宅相互基金)については、外国人の場合は自動的に免除されます。

免除を受けるための手続き——適用証明書(JP/PH101)の取得

SSS免除の適用を受けるためには、所定の手続きを経て適用証明書(JP/PH101)を取得した上で、フィリピン側のSSS機関にこれを提出することが必要です。免除は自動的に適用されるものではなく、手続きを経て初めて有効となる点を認識しておく必要があります。

日本側での手続き——年金事務所への申請

まず、日本国内において、日本年金機構の管轄年金事務所に対して適用証明書(JP/PH101)の交付申請を行います。申請者は原則として日本側の事業主(本社など)となります。

申請の際には、一般的に以下のような書類の提出が求められます(年金事務所によって求められる書類が異なる場合があるため、事前に確認することを推奨します)。

  • 派遣辞令または出向辞令
  • 所定の申請様式

証明書の発行までには一定の期間を要するため、フィリピンでの就労開始前に余裕を持って申請することが重要です。

フィリピン側での手続き——SSS事務所への提出

日本の年金事務所から交付された適用証明書(JP/PH101)は、管轄のSSS事務所に提出し、「Received」のスタンプを押印してもらう必要があります。このスタンプをもって、SSSへの免除申請が正式に受理されたことの証跡となります。

証明書の有効期間は、原則として派遣期間に対応した期間となります。派遣期間の延長が生じた場合は、延長後の期間に対応した証明書を改めて取得し、SSSへ再提出することが必要です。

実務上の注意点

社会保障協定の活用にあたっては、実務上いくつかの点に留意が必要です。

PhilHealthは免除対象外である点を改めて確認する

SSS免除が認められた場合でも、PhilHealthの加入義務は別途残ります。日本人駐在員であっても、フィリピンで就労している限りはPhilHealthへの加入と保険料拠出が必要です。この点を見落として未加入のままにしておくと、コンプライアンス上のリスクが生じます。

手続きは「就労前」または「就労開始直後」に行う

適用証明書の申請・取得・SSS提出という一連の手続きには時間がかかります。フィリピン赴任が決定した段階で速やかに準備を開始し、可能であれば就労開始前に証明書を取得しておくことが理想です。証明書の取得前にすでにSSSへの加入・納付が始まってしまっていた場合は、その取り扱いについて個別に確認が必要となることがあります。

おわりに

日比社会保障協定を適切に活用することは、日本人従業員にかかる社会保険料の二重負担を回避し、コスト面と法令遵守の両面でメリットをもたらします。一方で、手続きは自動的に処理されるものではなく、日本側・フィリピン側それぞれで適切な対応が求められます。特にPhilHealthが免除対象外である点は見落とされやすいため、赴任準備の段階から正確な情報をもとに対応を進めることが重要です。

フィリピン現地での社会保険手続きや経理・労務管理に関するご不明点がございましたら、お気軽にご相談ください。