フィリピンで事業を行っていると、ある日突然BIR(Bureau of Internal Revenue:内国歳入庁)の担当官が事業所を訪問してくることがあります。これがTax Mappingです。突然のことに現場がパニックになるケースも少なくありませんが、日頃からコンプライアンス対応ができていれば、決して恐れるものではありません。本記事では、Tax Mappingの概要から訪問時の対応手順、そして日常の備えまでを解説します。

Tax Mappingとは

Tax Mappingとは、正式名称をTax Compliance Verification Drive(TCVD)といいます。BIRが管轄区域内の事業所を一軒ずつ巡回し、「納税者が基本的な義務(登録・掲示・記帳・証憑発行)を履行しているか」を目視で確認する調査活動です。地図(Map)を塗りつぶすように全事業者をチェックすることから、通称「Tax Mapping」と呼ばれています。

税務調査との違い

Tax Mappingは税務調査(Audit)と混同されがちですが、両者は性質が大きく異なります。

比較項目Tax Mapping税務調査
主な目的形式」の確認
書類掲示、記帳の有無、レジ登録等
「実質」の精査
売上漏れ、経費の妥当性、計算ミスなど
事前通知無し
完全な抜き打ち
有り
LOA:調査権限書の送付
調査場所・対象オフィス・店舗・現場等主に経理データや証憑の突き合わせ
所要時間数十分〜数時間
即日終了
数ヶ月〜数年
罰金・追徴課税件数ごとに定額不足税額+サーチャージ+延滞金+罰金

Tax Mappingはあくまで「目に見えるコンプライアンス違反」を摘発するものであり、帳簿の中身を細かく計算して脱税を指摘するものではありません。ただし、ここで杜撰な管理が露見すると、将来的に本格的なAuditのターゲットに選定されるリスクが高まります。

Tax Mappingで確認されるポイント

BIR Form 2303(BIR登録証)の掲示

事業所の目立つ場所(受付やレジ横など)に、BIR Form 2303(登録証)の原本が掲示されているかを確認します。コピーではなく原本の掲示が必要です。

Must Issue Invoice(請求書発行義務のポスター)の掲示

「Must Issue Invoice」と記載されたBIR指定のポスターの掲示も必須です。登録証と同様、顧客から見える位置に貼っておく必要があります。

Books of Accounts(会計帳簿)の整備

登録済みの会計帳簿が現場にあり、かつ最新の状態まで記帳されているかが確認されます。Manual Books of Accounts(手書き式)の場合はBIRのスタンプが押印された帳簿(ノート)が使用され、適切に手書きで記入されていることが求められます。Looseleaf Books of Accounts(ルーズリーフ式)の場合も、BIR認定の書式で帳簿付けがされているかがポイントです。

実務上は、Looseleaf Books of Accountsを登録しつつ、日常的な記帳は会計ソフトで行い、期末にプリントアウトして製本・保管するという方法が広く使われています。ただし、厳密にはLooseleaf登録のもとで会計ソフトを使用することはBIRのルール上アウトであり、Tax Mappingの際に会計ソフトの使用が発覚すると登録違反として罰金が課されるリスクがあります。会計ソフトを正式に使用するには、Computerized Accounting System(CAS:コンピュータ式会計システム)としてBIRに登録する必要がありますが、登録のハードルが高いため多くの企業がLooseleaf登録を選択しているのが現状です。

Invoices / Official Receipts(請求書・領収書)の確認

BIRからAuthority to Print(ATP:印刷許可)を取得した正規の証憑が事務所・現場に保管されているか、連番どおりに正しく使用されているかを確認されます。

CRM/POSレジ機の登録確認

POSレジ等を使用している場合、その機器にBIR発行の登録ステッカー(PTU:Permit to Use)が貼付されているか、バックエンドの登録情報と一致しているかを確認されます。

Tax Mappingが入ったときの対応手順

予告なくBIR職員が訪問してきた際、最大のリスクは現場がパニックになり、賄賂の提案や頑なな拒否といった不適切な対応をしてしまうことです。以下のステップで、落ち着いて対応してください。

Step 1. Mission Order(調査命令書)を確認する

BIR職員を名乗る人物が訪問してきた場合、まず担当官にMission Orderの提示を求めてください。そこには調査を行う職員の氏名、対象エリア、期間などが記載されており、正当な権限を持つ職員であることをここで確認します。

Step 2. 責任者と会計事務所にすぐ連絡する

現場スタッフだけで判断するのは非常に危険です。すみやかに社内の経理責任者・マネージャー、および外部の会計事務所やサポート会社へ連絡を入れてください。

Step 3. 求められた書類を素直に提示する

COR(Certificate of Registration:登録証)、帳簿、領収書など、求められた書類を提示します。日頃から整理されていれば、この段階で調査はスムーズに終わります。

Step 4. 指摘事項には冷静に対応する

不備が見つかった場合、Inventory of Violations(違反目録)というリストにチェックが入れられます。内容に事実誤認があればその場で丁寧に説明すべきですが、帳簿が白紙・CORの原本がないなど明らかな不備がある場合、その場で抵抗しても覆ることは稀です。署名を行い、後日正式な手順に従ってCompromise Penalty(和解罰金)を納付することで解決を図ります。

日頃からの備えが全て

Tax Mappingは、日頃から基本的なコンプライアンス対応ができていれば、ほぼ問題なく乗り切れます。上記チェックポイントの5項目をクリアしているだけで、リスクは大幅に減らせます。まだ対応が不十分な点がある場合は、Tax Mappingが入る前に整備しておくことを強くお勧めします。

おわりに

フィリピンでビジネスを行う以上、BIRとの関わりは避けて通れません。Tax Mappingは突発的なイベントではありますが、日々のコンプライアンスさえ整っていれば決して恐れるものではありません。書類の掲示状況や帳簿の整備など、今日からでも確認できることばかりです。

コンプライアンス対応の整備や、Tax Mappingへの備えについてご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。