VATの申告・納税は、四半期ごとに繰り返し発生する最重要税務申告です。使用する書式や提出物にフィリピン特有のルールがあり、EOPT法の施行で変わった部分もあります。本記事では、VAT登録事業者が四半期ごとに行う申告・納税の流れを、BIR Form 2550QとSLSPを中心に整理します。
VATの基本的な仕組みや、自社がVAT登録事業者に該当するかどうかについては「これだけは押さえたいVATの基本」をあわせてご覧ください。
VATの申告・納税サイクル
VATは、四半期ごとに申告・納税します。期限は各課税四半期の終了後25日です。たとえば1〜3月の四半期であれば4月25日、4〜6月の四半期であれば7月25日が期限になります。
かつては毎月の申告・納税が義務付けられていましたが、2024年に施行されたEOPT法(Ease of Paying Taxes Act、納税容易化法、RA 11976)により、四半期申告への一本化が認められました。これにより、月次のBIR Form 2550Mの提出義務はなくなり、四半期ごとのBIR Form 2550Qに集約されています。事務負担の軽減という点で、実務上は大きな変更でした。
なお、月次申告の義務はなくなりましたが、任意で月次の申告・納付を続けること自体は認められています。四半期末にまとめて多額の納税が発生する状態を避けたい場合や、資金繰りを平準化したい場合には、月ごとに区切って納付しておく運用も選択肢になります。
申告・納税は、原則としてBIRの電子申告納税システムを通じて行います。eFPS(電子申告納税システム)に登録している事業者はeFPSで、登録していない事業者はeBIRForms(オフライン電子申告フォーム)で申告・納付します。なお、改訂版2550Qへのシステム対応は順次進められている段階のため、新欄に金額が入る場合の取り扱いなど、最新の手順はBIRの告知で確認することをおすすめします。
BIR Form 2550Q(四半期VAT申告書)
四半期のVAT申告に使用するのが、BIR Form 2550Qです。この書式に四半期中のOutput VATとInput VATを集計し、差し引いて納税額(または控除しきれないInput VAT)を確定させます。計算の考え方は、預かったOutput VATから支払ったInput VATを差し引くという、VATの基本式そのものです。
EOPT法に伴う改訂版の新欄
EOPT法への対応として、2024年4月版のBIR Form 2550Qが新たに定められました(RMC 68-2024)。この改訂版では、従来なかった欄がいくつか追加されています。代表的なものは次のとおりです。
- 未回収の売掛金に係るOutput VAT
- 過去に控除した未回収売掛金が回収された場合のOutput VAT
- 未払いの買掛金に係るInput VAT
- 過去に控除した未払買掛金が支払われた場合のInput VAT
これらは、EOPT法によってサービスに係るVATの計上タイミングの考え方が整理されたことに伴うものです。具体的な場面をイメージすると分かりやすくなります。
たとえば、コンサルティングや保守などの役務を提供し、当四半期に請求書を発行したものの、四半期末時点で代金がまだ入金されていないとします。この場合、いったんOutput VATとして申告した分のうち未回収部分について、所定の欄で調整を行います。その後、翌四半期以降に実際に入金された時点で、回収された分のOutput VATを戻し入れる、という流れになります。仕入側も同様で、当四半期に役務の提供を受けて請求書を受け取ったものの代金を支払っていない場合、未払いの買掛金に係るInput VATをいったん調整し、実際に支払った四半期で戻し入れます。
実務では、自社が使用している会計ソフトや申告書式が最新版に対応しているかを確認しておく必要があります。古い様式のまま申告を続けていると、こうした調整が漏れるおそれがあります。
Summary List of Sales and Purchases(SLSP)
VATの申告にあたっては、BIR Form 2550Qと並んで、Summary List of Sales and Purchases(SLSP、販売・仕入の明細リスト)の提出も求められます。
2550QとSLSPの違い
BIR Form 2550Qが四半期の合計額と納税額を記載した申告書であるのに対し、SLSPは取引一件ごとの明細データです。取引相手の会社名、TIN(納税者番号)、取引額、VAT額、適用税率などを、販売側・仕入側それぞれについて一件ずつ記載します。
SLSPは、BIRが取引の相手方の申告内容と突き合わせて検証するための、いわば第三者情報の照合材料です。自社の申告と取引先の申告に食い違いがあれば、そこから指摘につながることもあるため、正確な作成が求められます。
提出の対象と閾値
SLSPの提出義務については、販売側と仕入側で扱いが異なります。ここはよく誤解される点なので、整理しておきます。
販売のリスト(Summary List of Sales)は、RR 1-2012により、すべてのVAT登録事業者に提出義務があります。金額の大小は関係なく、四半期の販売額が小さくても提出が必要です。該当する取引がない四半期であっても、ゼロでの提出が求められます。一方、仕入のリスト(Summary List of Purchases)は、四半期の仕入総額が100万ペソを超える場合に提出義務が生じます。
つまり、「販売が一定額を超えなければ提出不要」という理解は誤りです。販売側は金額にかかわらず常に提出対象であり、仕入側のみ100万ペソ超という閾値で判断する、という点を押さえておく必要があります。
なお、仕入のリストについては、四半期の仕入総額が閾値を超えるかどうかを毎期判断する必要があり、期末の集計が確定するまでは提出要否がはっきりしないこともあります。判断に迷う、あるいは集計のタイミングで前後しやすいという場合には、閾値の判定にこだわらず毎期提出してしまうのも一つの方法です。閾値未満であっても提出して不利益が生じることはなく、提出漏れによるペナルティのリスクを確実に避けられます。
DATファイルの作成・提出の流れ
SLSPは、所定のデータ形式(DATファイル)で作成して提出します。電子提出の枠組みはRELIEF(Reconciliation of Listings for Enforcement)システムと呼ばれ、DATファイルはこのシステムで読み込める形式で作成します。大まかな流れは次のとおりです。
- 四半期中の販売・仕入の取引明細を、取引相手ごとに集計する
- BIRが提供する専用ツール(Reliefデータエントリーモジュール)に取引データを入力する
- ツール上でValidation(データの検証)を行い、形式エラーがないことを確認したうえでDATファイルを生成する
- 生成したDATファイルを、BIRの指定する提出先(eSubmissionの専用メールアドレス等)へ送信する
- 送信後に届く受領確認の通知を保管する
取引件数が多い事業者ほど、データの整理と入力に相応の工数がかかります。日々の記帳の段階で、取引先のTINや適用税率を正確に記録しておくことが、四半期末の作業を円滑に進める鍵になります。なお、フィリピンの実務に対応したローカルの会計システム(N3 AI Accountingなど)を導入していれば、VAT額の計算からSLSP用のDATファイル作成までを自動化でき、手作業による入力ミスや工数を大きく減らせます。証憑の記載要件については別記事「Invoice制度とVAT証憑管理」を、受領時の確認実務については別記事「請求書を受け取った際にチェックすべきポイント」をご覧ください。
期限管理と遅延のリスク
VATの申告・納税、そしてSLSPの提出は、いずれも四半期終了後25日という同じ期限で動きます。この期限を徒過すると、加算税や利子といったペナルティの対象になります。わずかな遅延でもペナルティが課されるため、余裕を持ったスケジュールで準備を進める必要があります。
提出後は、申告書・納付の控えや、SLSPの送信記録を確実に保管しておきます。後の税務調査の際に、適正に申告・納税してきたことを示す証跡になります。
おわりに
VATの申告・納税は、四半期ごとに正確な集計と書式対応、そしてSLSPの作成という一連の作業を要する、負担の小さくない実務です。特にEOPT法に伴う書式の改訂や、販売側SLSPの全件提出義務など、見落とされやすい論点がいくつかあります。書式やシステムの最新版への対応を確認しながら、期限内に正確な申告を行う体制を整えておくことが、ペナルティや税務調査のリスクを抑えることにつながります。
VAT申告の実務や経理体制の整備についてお困りの際は、お気軽に弊社までご相談ください。